閑話3 好きなところ
コウタに会いに来てくださりありがとうございます!
コウタがディックと出会い、館で生活するようになったばかりのお話です。
うふふふふふ。
溶ろけた顔でサンが聞いてきた。
「コウタ様はソラちゃんのどんなところが好きですか?」
「えぇ? ソラのこと?」
指を折って考える。だってソラは山にいた時から一緒のオレの守護鳥だ。大好きの塊だから何から言おうかな? あっ、でも、秘密もいっぱいだから気をつけないとね。
ピピ、ピピピピピ!!
うふふ。ソラが期待してさえずってるよ! ソラは念話で普通におしゃべりができるけど、やっぱり鳥だから。綺麗な声でさえずることの方が多いんだよ。
「えっと、可愛い声でしょ。綺麗な瑠璃色の羽でしょ。小さな羽をぱたたと動かして飛ぼうとする仕草。あるかないか、分かんない首をくるくる回すところ……」
バキッ!
『あります! 首。 ちゃんとあります』
ソラの飛び蹴りが入ったところでクスクスとサンが笑った。
「オレ、サンの笑い方も大好き。サンのひまわりみたいな大きな瞳がオレだけを見てくれるでしょ? 愛しいってこういうことだよね? 可愛いし、優しいし。おしゃべりも楽しいよ。」
ーーーーズギュン!
胸を押さえてヘナヘナと座り込んだサン。
あれ? どうしたのかな? まあいいや。
ねぇ、ソラ。ソラはどう思う?
「オレ、ディック様のことも大好きだよ。パサついた栗色の髪にお日様があたるとね、金色に光って、とってもかっこいいの。それにオレが全力でぶつかってもよじ登ってもびくともしないでしょ? とっても強いんだよ。 だから?ぎゅっとしてもらうとすごく安心するの」
▪️▪️▪️▪️
ピピと返される青い鳥のさえずりに嬉しさが止まらなくなって、ふわふわと持ち上がる羽を小さな指でそっと撫で、コウタは思いつくまま語りかけた。
ピクリ。扉を開けようとしたディックの手が止まった。漏れ聞こえる声に立ってはいられない。しゃがみ込んで両手で顔を覆った。
「あなたは何をしてるんですか」
呆れた執事が背後から扉を開けようと出した手をガシッと掴んだディック。
「ま、待て!」
赤ら顔を誤魔化すように歪めながら、らしからぬ小声で、一本立てた指を唇に当てる。
「それから、執事さんも大好き。執事さんの指はカサカサしていてね、きっと働き者の手なんだ。今日も元気でいいですねとか、ご挨拶が気持ちいいですねって、たくさん褒めてくれるんだよ。なかなか抱っこはしてくれないけど、手を繋いで歩く時はオレの速さに合わせてくれるの」
プイと後ろを向いた執事は耳を赤くして壁と向き合った。心なしか肩が震えているようだ。
「おや? 何かおありで? ディック様相談ですが……」
偶然やってきた兵士長。扉の前で耳を澄ます。
「兵士長さんはね、すごいんだよ。ヤーとかターとか一番元気な掛け声で兵達に稽古をつけるの。剣が速くてかっこいいよ」
おやおや何事かと足を止めた料理長。
「マアマはね、お料理の天才なの! オレが食べたいメニューを出してくれるし、すっごく美味しいよ。お花の人参が嬉しくて……」
「メユユたんはね、いっつもオレの気持ちを大事にしてくれるの。秘密にしてるみたいだけど、すっごく強くてかっこよくて。それに美人で優しくて…」
「メイドさんは……」
可愛いおしゃべりに耳をすませば、誰もが心をズギュンと撃ち抜かれ、うずくまったり、顔を覆ったり。
よくもまぁ扉の前に立つ人の、絶妙なタイミングが分かるかのよう。
ピタと固まる怪しげな人達に何だ何だと興味本意で見にきた輩まで、扉の前で立ち止まっては、ニヤニヤしながら立ち去ったり、真っ赤になって俯いたり。
コウタは思いつくまま館の人々の好きなところを言い切って、すっかりご満悦。遊びに行くよと部屋を出ようとするけれど……。あれ、開かない。
押しても引いても扉が開かない。コトンと首を傾げながら、ブルルと震えたラビを見た。
「あっ! ごめんねラビ! まだラビのこと言ってなかったよ」
ラビのふわふわの毛が気持ちいいよ。ちょっと悪い目つきだって、愛おしい。耳の中の匂いは安心するし、お腹のふかふか感はオレを包み込んでくれるみたい。暗い場所で灰色に染まっても、悪い雰囲気がでてかっこいいし、ピカピカの日にあたれば艶やかな細毛が虹色の輪を作って見惚れちゃう。
サラサラの毛に指を通して、もふもふの毛に顔を埋めていると、トロンと瞼が重くなって、ふわりふわり、夢の世界に連れられていく。
ああ、今日も満たされたなぁ。
そう思ったのは一体誰なのでしょう?
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