037 大人気ない
イチ、ニッ、サン、シ、ゴウ、ロク、シチ、ハチ!
朝食までの時間、サンが呼びに来るまでオレは部屋で待つように言われている。
起きぬけの体操は、母様が開発した体操だ。ロボットみたいな動きや、ムキムキポーズ、身体を捻ったり回したり。眠っていた身体をほぐすのにピッタリ。鍛錬にもなるって、山ではアックスさんや泊まりに来た冒険者さんもやってたよ。
イチ、ニッ、サン、シ、ゴウ、ロク、シチ、ハチ!
身体がポカポカした頃、散歩に出ていたソラが戻ってくる。コンコンと嘴で窓を叩くから、小さく窓を開けて部屋に入ってもらうよ。(開けなくたって入って来れるんだけど、普通の鳥っぽくしないとね)
わぁ、ソラ、冷たい!!
火照った頬に気持ちがいいね!
霜が広がった山々は朝日を浴びて白く輝く。キラキラの光が雪粒のようにふわりと冷たい空中に溶けて、オレの吐いた息と混ざり合う。いよいよ冬の到来だ。
と言っても、この辺りは雪が少ない地方だから、雪が降り積もるまではもう少し時間があるんだって!
まだまだドンク達と遊べそう。
今日はアイファ兄さんがドンクと一緒に訓練してくれるんだ。嬉しいな。
朝食の席に着くと、そこには緊張したドンクとミュウ、シブーストの姿があったよ。
「うわぁ、おはよう! みんな朝、早いね。一緒にご飯、食べれるなんて思わなかったからびっくりしたよ」
にこにこで話しかけると、ドンクとミュウはばつが悪そうに首をすくめる。
「だって、待ち切れなくって………。本当は外で待つつもりだったんだけど、メイドさん達が入れって……」
「ア、アイファ様に稽古をつけていただくって聞いて、こんなチャンス、滅多にないから、む、無理を言ってついてきたんだ」
恥ずかしそうに話すのはシブースト。
「気にするな。飯は賑やかな方が美味い。しかもコウタが喜ぶんだ。一層美味くなるってもんだ」
ご機嫌のディック様に、オレはちょっとだけ頬を赤らめる。
うふふ、オレが喜ぶとみんなも嬉しいって、とっても素敵な気分だ。
ドンク達は朝食を済ませてから来たはずなんだけど、豊かになってきたとはいえ、辺境の小さな村だし、これから本格的な冬を迎える所だから、朝食なんてパンや果物の一欠片程度なんだって。
だからマアマのスープはとびきりのご馳走で、いくらでも食べられそうだって喜んでいたよ。
食事が終わったら、早速、裏庭で稽古をつけてもらう。裏庭の荒地は、今は下草が茂って転んでも安心だ。ディック様が張り切って木剣を渡してくれた。
「さぁ、構えてみな」
やる気満々のディック様に執事さんが駆けてきた。
「あなたはお仕事がお有りでしょう。今日という今日は仕事をしていただかないと……。雪が降ると報告にも時間がかかるのです。王都からお叱りを受けるのは私ですよ!」
「あぁ、おい、ちょっとだけだ! 構えと流しだけ……、おい、大人げねぇぞ! ちょっとくらい、いいだろう?」
「はいはい、父上。子どもみたいに駄々をこねないでください。僕も手伝います。……と言うことだから、アイファ兄さん、頼んだよ」
クライス兄さんはディック様の背中を押して執務室へと連行して行った。
残されたオレ達とアイファ兄さん。ポリポリと頬を掻いて木剣を手に取った。
「悪いな。はじめっから俺が教えるつもりだったのによ。邪魔が入った。さ、構えな、見てやるぜ」
呆気に取られていたオレ達は、アイファ兄さんの一言で気合いを取り戻した。ドンクもミュウもシブーストも、顔を引き締めて剣を握る。オレも慌ててみんなを真似たよ。
兄さんは手元とか全体のバランスとかをちゃんと見てアドバイスをくれる。いつものいい加減さは微塵もない。
暫く素振りをしたオレ達は軽く汗をかくとすぐに休憩をした。体力はしっかり残っているけど、変な癖がつく前に練習を切り上げた方がいいんだって。
「さすがです。アイファ様、こんな短時間なのに、すごく上達した気がします」
シブーストが感激しきりに水を飲んでいる。
「でもさ、やっぱ、打ち合いテェな。せっかく親分がいるんだし……」
ドンクは相変わらず鼻息が荒い。
「おっ、じゃぁ少し休んだら手合わせしてやるぜ。ただし、受け流しの練習だかんな。力任せにするんじゃねぇぞ」
アイファ兄さんはきちんと目の高さまでしゃがんで話してくれる。ドンクもミュウもきらきらモードだ。
シブーストはもっと一緒に鍛錬したそうだったけど、農作業の手伝いがあるからって帰って行ったんだ。薪の確保とか貯蔵庫や畑の整備とか、春に向かってやることは山積みなんだって。すごいなぁ。
「よし、コウタ、そこで構えろ。オレが受け流してやるから突っ込んでこい」
「え、いいの?」
思案気に聞くとニヤリと笑って頷く。嫌だなぁ、あの顔。絶対、何かあるよ。少しだけ警戒しつつも兄さんに突っ込んでいく。
「えーい」
???
ズッテン!!
カチリとも交わらない剣に、オレは勢いよくすっ転んだ。
「おいおい、ちゃんと見ろ〜。剣はここだ。ちゃんと突っ込め」
土を払って頷くと、しっかり目を見開いてもう一度構える。
「やぁぁ」
スッテン!!
スッテン!スッテン!
何度突っ込んでも当たらない。兄さんってばオレの剣を避けるんだよ!受け流すところ、見せてくれるって言ったのに。ぷう!!
次にドンクとミュウも突っ込む。
ガチャン!するり!
「きゃぁ」
「うわぁ」
濁った金属音と同時に、同じくすっ転んだ二人。アイファ兄さんは楽しそうだ。
「分かったか? これが受け流すって奴だ。思い切り力の乗った剣なんか、まともに受けてみろよ。痛てぇだろう? それに剣が折れたら厄介だ。だから基本は相手の剣は流す。これができなきゃ、剣なんか危ないおもちゃと一緒だ」
そう言うとアイファ兄さんは受け流しの構えとか、身体捌きを教えてくれたんだけど…………。
兄さんは、練習だと言って、オレたちを何度も何度もすっ転ばすんだ。
わざと剣を避けたり、バランスが弱い方に受け流して足を引っ掛けたり。
これって、オレ達の受け流しの練習じゃなかったの?? 受け流すのは兄さんばかりだ。
そしてね、オレ達が転ぶ度に高笑いをするんだよ。完全に馬鹿にした笑い方で!
間もなくミュウが怒って剣を投げ出し、ドンクも地団駄を踏んだ。オレだって悔しさからムキーって怒って練習会は強制終了。
兄さんは疲れた〜ってご機嫌で部屋に戻って行ったけど、オレ達は消化不良だ。
全く……。兄さんだって大人げないよね?
その後は三人でブランコで遊んだんだ。初めは交代で乗ってたんだけど、待ってるってつまんないでしょ。
だから、オレとミュウがぎゅっとしながら一緒に座って、ドンクが立ってブランコを漕ぐ。ふらふらと揺れが安定しないけど、きゃぁきゃぁ言い合って、とっても楽しいよ!
「「あっ」」
大きな揺れでオレとミュウの手がロープから離れて空中に投げ出された。
ふわり
気持ちのいい浮遊感。空をゆったり抱きしめる。ミュウはぎゅっと目を瞑っていたけど、大丈夫だよ。ソラがいる。
ポシュン
ほら、ソラが大きな猛禽になって受け止めてくれたよ。ねっ? でも、この感触、たまんないねぇ。
「「え? えぇ? これソラちゃん?」」
「きれい!」
「おっきくなれるんだ! かっこいい」
二人はとっても不思議がったけど、オレだからって納得してた。何故だろう? 嬉しいような、嬉しくないような。
それからオレ達は、ブランコから空中に飛んではソラに受け止められる遊びをしたよ。
何度も何度も空を飛んではパシュン。ソラのクッションと空の冷たい空気が気持ちいい。
ふわりーーーーパシュン。
ふわりーーーーパシュン。
ソラの羽は大きくなってもふわふわで柔らかい。思い切り飛び込んでも痛くないし、温かい。
うふふ、きゃはは!
オレ達は夢中になって遊んで、最後は訳が分からなくなって……。
多分、ソラの羽の中で寝ちゃったんだ。子供ってそんなものでしょう?
今日もありがとうございます!
季節がずれているのは、本当は昨年末に投稿したかったからです。春には季節がぴったり合う予定だったのです。
ですが残念ながら、遅々として進まぬ話と進まぬ季節。そして3歳児コウタが愛しくて。
結局、どうせ季節外れになるならと、この夏に投稿してしまいました。
シーズン特化のお話もありますので、登場人物と背景に無理がなくなったら投稿したいなと思っています。
今日も皆様の1日が穏やかで優しい日となりますように!