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033 目覚め


く……、苦しい。お……重い?


 胸に乗せられた腕を持ち上げると薄茶の瞳がぼんやりと開けられる。


 ディック様?!


 驚いて布団からよじよじと起き上がり、固く広がった茶色の髪をわしわしとかき分け、確かにその人だと確認する。


 ふぁあと、あくびをしたディック様はオレを持ち上げ、上に下にと向きを変えて眺めるとニカッと笑った。


「おう、もう大丈夫そうだな! 手こずらせやがって。 だが、油断するな。 ぶり返されちゃこっちがもたねぇからな。暫くは大人しくしてくれよ」


 ガシガシと頭を撫でられニコと笑うと、ソファーの方からアイファ兄さんが眠そうな目でオレを見た。


「お前、分かってるか? たった一人でこの館の奴らを壊滅状態にしたんだぞ? 最強にも程があるぜ。 頼むから今日は俺を放っとけ」


 そう言って、うーんと伸びをしながら部屋を出ていった。


 最強? 誰が?? 何故???



 アイファ兄さんと入れ違いで入ってきたのは優しそうな女性。長い髪が金の糸みたいで美しい。ディック様と同じ薄茶の瞳。もう一人は端正な顔立ちのお兄さん。金でふんわりストレートの髪だけど、キリリとした時のアイファ兄さんにそっくりだ。


 オレは布団の上で慌てて頭を下げる。

あ、挨拶を……。 すると華奢な手にひょいと持ち上げられ、ほっぺを擦り擦り、頭を撫で撫で。


 ハッ!!

 簡単に抱っこされちゃ駄目だ!!



 ニコルの言葉を思い出し、手足をバタバタさせた。


「あら、あら、どうしたの? 大丈夫よ」


 困惑した女性が腕の力を抜くと、今度は後ろから手が伸びてきた。こちらも初対面のお兄さん。

 えっと、こんな時は

「たすけ……て?」


 言っていいのか、失礼にあたるのか、ディック様の顔色を見つつ、混乱していると、部屋に戻った筈のアイファ兄さんが扉の前で大笑い。


 ディック様も呆れた顔で無理やり笑いを堪えている。


「ひひひ、ちょっとは学習したか? だが、お前、ズレてるぜ? 家ん中で誘拐なんかされるかよ。 家族だ、家族。 見分けくらいつけろ」


 ひひひ、あはは。

 腹を押さえて、身をよじり、扉を叩いて笑う兄さんにムカッとしつつも反論できない。 く、悔しい!


「まぁ、言うな。本当に誘拐されたんだから。 用心するに越したことはない。だが、安心しろ、コウタ。 予想通り、貴族様だぜ。サーシャとクライスだ」


 ディック様の助け船。肩にひょいと乗せられればキラキラと艶めいた金髪が間近になってうっとりする。


 ああ、よかった! でも、挨拶しそびれちゃった。もう一回、やり直した方がいい? 


 不安になってディック様を見おろせば、首を横に振ってニヤニヤしている。そしてサーシャ様の胸にオレを預けてしまった。


 そういえば今、誘拐って? 誰が? オレ? 誘拐されたの? いつの間に?


 ちょっくらゆっくり寝てくると、アイファ兄さんとディック様は自室に戻って行った。


 ああ、そうか。オレ、ずっと誰かに抱っこして貰っていたかも。あれは夢じゃなかったんだ。ふにゃふにゃと力が抜けて全然覚えてないけれど。


 優しくさする手、心地よく響く声、冷たくて甘い水、何をしても嫌われない、守ってもらえる絶対の安心感。


 朧げに記憶を辿ると、喉の奥がきゅんと熱くなった。



 そんなオレをひょいと覗く大きな瞳。びっくりして、わぁとベッドから落ちそうになる。艶やかな唇がふわりと笑みを讃える。


「着替えましょう? たくさん汗をかいていたもの。 私、コウちゃんにピッタリな服を選んであげる」


 コウちゃん……。 懐かしい母様と同じ呼び方にちょっと戸惑う。

 コウちゃん。


 心配気な目をして手を振ってくれたクライス兄さんを後に、張り切ったサーシャ様に連れられてきたのは衣装部屋。


 色とりどりの衣装にクラクラしつつ、病み上がりだから楽な方がいいと、ストンと長いブルーのヒラヒラの服が選ばれた。 お腹が冷えないように白いタイツもセットにし、靴はピカピカの水色。大きな白いリボンだけは邪魔になりそうだからと断った。


「うん、絶対に似合うと思ったわ!」

 サーシャ様は満足そうだ。


 メイドさんが、ソラ様とお揃いみたいですねと褒めてくれた。



 朝食の席に着いた途端、キールさんがブッと吹き出す。 キールさん、何を慌てたの? だけどその後は何故か目を合わせてくれない。

 ニコルはニヤニヤ素知らぬ顔だ。それって何か隠してる? 白々しさにプンと膨れた。


 オレの瞳をじっと見つめるクライス兄さん。にこにこと優しい笑顔。オレが戻ってきた時にはこめかみを押さえて頭が痛そうだったけど、治ったのかな。

 ディック様やアイファ兄さんと違って貴族みたいでかっこいい。

(ああ、そういえば本物の貴族だった)


 今日は執事さんもメリルさんもいない。サンは夜番かな? いつもと違う面々にハテナをたくさん浮かべながら席に着いた。


 料理長のマアマはお腹に優しいあったかスープを出してくれ、ゆっくり食べてねとお花の人参をそっと浮かべてくれた。お礼を言うと嬉しそうに、ぽよんとお腹を揺らしていたよ。


 ふうふう、はふはふ美味しいね。


 マアマが水差しから水を注いでくれた。熱くなった口にひんやり染みる。今日はお水も美味しいね。


 満足して笑うオレをみんながじっと見ていた事に気づく。


「なあに? みんなどうしたの?」


 キョトンと首を傾げて、不思議に思って聞いてみた。 何の返事もくれないけれど、まじまじとオレを見つめたニコルがスプーンでコップを指した。


「コウタ、それ、マアマの水だよ」

「うん、知ってるよ」


「何ともない?」

「うん。美味しいよ。いつも飲んでるよ、ね!」


 オレがニカッと笑うと、マアマも嬉しそうに破顔する。

 メイドさんも、ニコルも。キールさんだけはホッとしたような複雑な笑顔だ。


 みんなで食べるご飯は美味しいね、楽しいね。今日はいつもと違うことが多いけど、みんなの笑顔が優しくて嬉しくなる。


 ディック様、ご飯食べないのかなぁ?もしかして、昨日食べすぎちゃったのかな?


 トンチンカンな思いを胸に、いつものコウタに館の者は、よかったよかったと心から安堵するのだった。



 読んでいただきありがとうございます!


 ブックマーク、いいね、つけていただいて嬉しいです。

とっても励みになります!! 今日は執筆日ですので、いいねのついたお話の傾向を考えて執筆頑張ります!

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