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閑話1 私兵との出会い

 コウタが領主館に来て間もない時のエピソードです。思い出の品を受け取る前でしょうか。

 なかなか物語が進まなくて差し込むタイミングを逃してしまいました。


 たくさんの方が読んでくださり、いつも励まされています。「ブックマーク」「いいね」までつけてくださって嬉しいです。(反応、遅くて申し訳ありません)


 本日は11時にも本編を更新します。

コウタに会いに来てくださり、ありがとうございました!


「ねえ、サンたん、あっちには何があるの?」

 馬場の向こうの建物を指差し、ことり首を傾げる幼子にサンは胸をズキュンと射抜かれたが同時にどきりとした。


 幼子が保護されたとき、鎧を身につけていたことを思い出したからだ。だが、すぐに領主からの言いつけを守って答える。


「あちらは兵舎です。ディック様は私兵をもっていらして、兵士さんが寝泊まりする場所になっているんですよ。その奥には訓練場もあります。でも今は落ち着いた情勢ですから(いくさ)の心配はありませんよ」


 (いくさ)で親を失ったばかりのコウタに、戦いらしき匂いを感じさせたくない。

 私兵の存在をどう知らせようか悩んだ領主達は、不自然に隠すよりはこの環境に慣れさせた方が良いとの結論に達し、コウタが興味をもてば包み隠さず話すようにと通達した。


 馬屋でひとしきりベロベロと可愛がられた幼子は、馬場に出て訓練している馬達に当然のように呼ばれる。

 幼子がうっかり素通りしようものなら馬場の馬らは機嫌を損ね、騎手を振り落としたり噛みついたり、柵や馬屋に体当たりして破壊するなどの暴走行為を行った。

 そのため、穏便に済ませたい馬番や騎手は確実にコウタに声をかける様になった。


 馬屋は屋敷と兵舎の二箇所に設けられているが、馬場は共有。また利便性のため屋敷側のこちらにも兵士は頻繁に出入りする。コウタが兵舎に興味を持つのは至極当然の流れであった。


「ちょっと行ってみてもいい?」

 こちらの意を伺おうと上目遣いでの呟きにクスリを笑みを見せ、快く手を引いて歩き出す。

 朝食を済ませたばかりのこの時間ならば、汗臭い厳しい訓練はしていないだろうとの目算だ。


「おらおらおら、たるんどるぞ」

「怯むな! 敵や魔物が待ってくれるのか?」

「馬鹿野郎! 力が足りん! 思い切り突っ込んでこい!」


 ガキン、ドカン! ゴッチン! バキュン! ガガガ! ドゴゴゴ! ガキン!


 木刀や盾がぶつかり合い、鍛え上げられた筋肉が湯気を立てて吹っ飛ばされる。バキリと壁にぶつかり、ドカンと地面に投げ出され、掴み合い蹴り合いなじり合い、とても幼児に見せて良いものとは思えない光景にサンは唇を引き攣らせた。


「あっ、あちらにも馬屋があるのですよ、行きましょう?」

 サッと身体の向きを変え視線を塞ごうとした時にはもう遅い。幼い漆黒は丸く大きく艶めいて、小さな頬が薔薇色に染まっている。


「す、すごい! かっこいい」


 一際甲高い可愛い声に訓練中の兵士たちの動きが止まる。その瞬間。


ーーーーバキバキ、バキン。

ーーーーギャァアアアア!


 土煙をあげて宙を舞う兵士達。一瞬の隙に兵士長の剣が炸裂したのだ。


「その隙が命取りだ! 恥を知……」

「ごめんなさい!」


 兵士に一喝、そして叱咤。その一瞬に割り込んだ幼子が吹っ飛ばされた兵士たちの間に走り寄り、庇うように謝ってきた。


「オレが、オレが気を逸らしたの」


 つい今しがた夢みがちに喜んだその瞳は、ゆるゆると潤み、寄せられた眉に儚さが滲み出る。


 だが何故だろう。両手で進路を塞ぎ、兵士長を見上げる表情は、それ以上罵倒を許さぬ強さと信念が垣間見える。


 何故だろう。このあどけない、無垢な幼子の意を汲むことこそ真だと思ってしまうのは。


「い、いや、小さい坊ちゃん。あなたのせいでは……」

 戸惑い言葉を失う兵士長に幼子は小さな手を差し出した。ふるふると震える小さな指に兵士たちは我に帰る。


「オレ、小さいでしょう? 兵士さん達、オレを守ろうとしたんだよ。小さい子が急に出てきたら、予想しないことが急に起こったら、誰だって守るものの方に注意を向けるでしょう。ごめんなさい。オレがいけなかったの。 急に……急に声を出したから」


 ポタポタと涙を流す幼子に兵士たちは己の未熟さを恥じ、そして今、守るべきものの姿をひしひしと感じ取った。


 兵士長は幼子に跪き、差し出された震える手を自身の掌にそっと乗せてから両手で優しく包み込んだ。


「確かに……。貴方は我々がお守りいたします。 だからこそ、我々は強くあらねばなりません。さぁ、ここは私にお任せください。次は日を改めてお越しください。その時には皆、自身のすべきことを見失なうことはありませんので」


 コウタの髪をサラリと撫でた兵士長は、ニッコリと笑ってから立ち上がった。


「また来てもいいの?」

「もちろんですよ。コウタ様」

「わぁ、ありがとう」


 満面の笑みにふわりと金の光を感じたのは気のせいだろうか。


「さぁ、もうひと踏ん張り、お願いしやす!」

「こっちも、もう一本」


 パンパンと土を払い、立ち上がった兵士たちの瞳は正気に満ちて力強い。誰もが疲れを忘れ、力が溢れているようだ。早朝からの訓練は、間もなく終わりを告げる時間だが、今日はまだまだ続きそうだ。

 不思議なことだと兵士長はふふと口角を上げたのだった。


 


昨日、小説情報を変更し〈R15〉を追加しました。コウタは3歳なのに……。15歳までの読者の方に申し訳ないです。

 何のお詫びにもなりませんが、昨日から読めなくなってしまった方が、いつか読めるようになった時に喜んでいただけるよう、精進して更新を続けます。


 今日も読んでくださってありがとう♡

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