218 次の町への準備
翌朝、『きらきら流れ星』のみんなとギルドに行った。マリンさんたちは新しい依頼を受けに。オレは魔法都市スペルバーグに行く冒険者を探すために。
ディック様はオレの居場所を早々に特定するだろう。引き戻されるかどうかは分からないけれど。でも、王都でオレを利用しようとしていた人に見つかったら面倒なことになる。だから、早く追っ手が来ない所に行きたいんだ。
オレの転移は、知っている場所にしか行けない。気配が分かれば初めての所にも行けるかもしれないけれど、気配を探るのは苦手だし、ただでさえ着地に失敗するので、行き先をしっかりイメージする必要がある。だから、知らない場所には、自分で行く必要があるんだ。スペルバーグは『砦の有志』の兄さん達が寄った場所だし、魔法都市っていう響きに憧れる。どんな魔法が溢れているのだろう? オレの不思議な魔法が解明されたら面白い。だから一度行ってみたかったんだ。
「コウタ君、それなりにお金があるのなら、乗合馬車で行くのはどう? ちょうど明日の早朝、定期便がでるわよ」
ロイドさんの提案に、マリンさん達も勧めてくれた。セントではスペルバーグに行く冒険者は少なくない。実際、明日の乗合馬車にも護衛として依頼がでている。でも、冒険者がHランクのオレを同行させてくれるというのは別問題。子どもは早く歩けないし、体力もない。道中、魔物に出会っても戦力にすることもできないから足でまといだ。(オレなら従魔の力で解決できるのに) 本当は依頼として行きたかったけれど、それは無理だと分かったから、みんなが勧めてくれる乗合馬車で行くことにした。
マリンさん達は簡単な薬草採りの依頼を受けたので、今日はオレも一緒に連れて行ってもらう。午後からはスペルバーグへの旅支度を手伝ってくれるっていったから、午前の短い時間だ。薬草は町の外では無く、川の上流、鉱山跡で採取するんだって。
「あ、あの。コウタ君、その辺でいいんじゃない?」
「えーっと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待したけど……。いやぁ、想像を超えて……」
「悪くない。悪くない。むしろいいの。いいけど……。胸が痛む」
ジロウと一緒に薬草を探していると、ものの数分で三人がストップをかけた。でも、まだそんなに採っていないよ? 今日の薬草は硬い岩の下に生える比較的小さな葉だ。火照った身体を冷やす作用があるらしい。多少大きくても効用はあるけれど、小さな新芽がの方が高値が付くそうだ。そして、その根にできたコブが、実はなかなか珍しく、鎮痛作用があるらしい。硬い岩の下の根から偶然できるコブを見つけるのは難しいけど、オレなら簡単。コブは薬草にとっては不快で成長を抑制してしまうんだって。だからほら、薬草さんたちが挙って合図を送るよ。採って~って。
土を柔らかくする魔法。ジルさんに教えたけれど、詠唱がないと難しいらしい。遺跡で魔方陣に魔力を流したとき、詠唱は魔方陣を作って、思った通りに魔素を動かすためのもののように思えた。だったら詠唱が無くても、対象に作用するようにイメージすれば出来ると思うのだけれど。
「土の中を掘り掘り、堀り堀り。柔らかくなあれ、優しく優しく。細かな石はちょっとずつ離れて、薬草さんに道を作って」
適当だけれど、オレが心の中で唱えたことを敢えて口に出してみる。ジルさんと一緒に声を合わせて魔力を送れば、魔方陣はできないけれど、土の中に古代の文字が生まれて、輝きながら土を盛り上げる。石粒を少しずつ砕いてくれるね。ほら、ジルさんにも出来た! 古代の文字はジルさんには見えないみたいだけれど、練習すればもっと上手になるよ。
「す、凄い。貴重で高価な薬草がこんなに!」
「うん。ジルさんも上手になったね。だけど、三つのうち一つは残しておこうね」
「もちろんよ。コウタ君、ちゃんと分かっているのね。立派だわぁ」
そうそうに依頼を終えてギルドに戻る。マリンさんがロイドさんに耳打ちしたので、オレ達は個室に入れて貰った。コブは貴重品で小さなものでも金貨一枚になる。今回は合同依頼扱いだから、オレはマリンさん達一人分の半分の依頼料。そこに成功報酬を加えて貰えてホクホクだ。
「ほとんどコウタ君と従魔君が採ったのに。り、理不尽・・・」
「でも、一応、規則だから・・・」
オレへの報酬が少なすぎるって泣かれても……。本当にマリンさんたちはいい人だ。一人では受けられない依頼だからいいんだよ。せめてものお礼にとお昼をご馳走になって、旅支度の買い物をした。
乗合馬車は幌があるけれど、満員だと眠り辛いから休憩所で使う小さなテントを一つ。水筒に保存食。(空間収納は腐らないからこっそりフルーツやパン、お野菜、調味料なんかも入れておくよ)おやつに着替え。魔法が使えるけれど、ランタンも一つ。薄手のタオルは怪我の手当にも、肌掛けにも使えるから少し多めに。本当は収納にお布団が入っているのだけれど、それは恥ずかしいから秘密。プルちゃんの鞄に水筒とタオルを詰めて膨らませれば、空間収納のことはバレにくい。あと、小さなナイフを勧められたけれど、アイファ兄さんが買ってくれた上等のナイフがあるからと断った。
「うーん、ポーションが1つあると安心だけれど」
「でもねぇ、幼児がポーションって違和感があるよねぇ」
「でも、コウタ君だから。何だか必要になりそうな予感」
何で? どうして? ちょっと突っ込みたかったけれど、予算は十分だから、一つだけ買っておく。そして、夜は早々に床についた。今日はルビーさんがベッドを貸してくれたんだ。見知らぬ天井は落ち着かなくて。ジロウを呼びたかったけれど、借り物のベッドにはあげられないと我慢。干し草のいい香りに包まれて、新しい旅のことを考えて一生懸命目をつむる。




