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215 報酬と


 普通の家? そうじゃない、一応ギルドの看板が付いている。早朝ではないけれど、まだ午前の早い時間だからだろう。依頼を受ける人たちでギルドは賑わっている。先に入ったマリンさんに手招きされ、裏の戸口から中に入る。三袋の石は小さな袋でもそこそこの重さで、小さな荷車に載せてジロウが引いてきたけれど、入り口にある狭い階段を上がるのは大変そうだから助かった。


「えっと、マリンさんたちの依頼は昨日、受けたのよね?」

「あっ、ハイ。 昨日の帰りに。 天候も考慮して一週間の納期でした」

「ということは、こんなに早く鉱石が集まるなんて。一応、査定してみるけど、鉱石が増えているってことでいいのよね?」

「「「 あ、あの、はぁ、そうですけど……」」」


 受付のおばさん。いや、おばさんに近いお姉さん。ミス・ロイドさんが、細い眼鏡で視野を調節しながら確認している。お姉さん達は何だか歯切れが悪く、俯いてもじもじ。その隣では、袖なしシャツの筋肉おじさんが一眼鏡を目にはめて、袋の石を三つに分けている。


「こ、これはーーーー?!」

 おじさんが小さな金の玉を取り出した。

「あっ、それーーーーんぐっ」

 オレが丸めた金の玉。 綺麗でしょ? 小さい金だと流れちゃいそうだったから、固めてみたの。元に戻す?って聞きたかったのに、マリンさんに攫われて口封じ。あれ? これは言っちゃ駄目な奴? キョトンとしながらお姉さん達を見た。


 少し思い詰めたように、ジルお姉さんが黄色のお下げ髪をいじったまま話し始めた。

「あ、あの、鉱石はいつもより多いかなって程度で。目視では普段と変わりありません。私たちがこんなに早く集められたのは、あの、その・・・」

「そこの犬とコウタ君のおかげで。犬が次から次へと石を拾ってくるし、コウタ君と一緒に石を探していたら、あの、その、石の方から手の中に入ってくるみたいで。しかも、何だか純度が高そうな・・・」

 ルビーさんがふわふわの赤毛を横に広げながら口添えた。

「あら? えっ? 犬? これ、犬? い、ぬ?」

 あれれれ? なんか不味い方向にいってない? さすがのオレもどきりとする。


「オレ、川で流れているところを助けてもらったから、お手伝いしたの! オレも冒険者だよ。でも、依頼は受けていないから、報酬は貰わないよ」

 雲行きが怪しいから、お姉さん達を助けるために声を上げたのだけど、うん、あんまり方向がよくなくて、どうして川で流されていたのかとか、冒険者って本当なのかとか、どこの貴族の子なのかとか、聞かれたくないことを山盛り聞かれてしまった。


「Hランク? そんな制度聞いたことないけれど……。まぁ、ここまで通達が届くには時間がかかるから。でも、この魔法紙は本物ね。仕方がないわ。コウタ君、あなたが依頼を受けるのは自由だけれど、私は子どもの冒険者は好きではないの。若い子は無茶をしがちだし。幼い子は無茶すら知らずに命を落としていくわ。だから危ないことをしないでね」

 ミス・ロイドさんの言葉に、オレの胸がチクリと痛んだ。王様に頼んだオレのお願い。それは小さい子どもの権利を生み出す物だけど、同時に危険を生むものだと気づいたから。王都ではチビッ子冒険者は手厚く守って貰っていたけれど、地方に行けば守られるとは限らないわけで。だけど、ロイドさんがいるこのギルドでは、王都のようにきっと子どもも守られる。それはとても嬉しいことだと思った。


■■■■


 ギルドから出たら、お日様がもうてっぺんにある。うん、お腹がすいたね! お姉さん達に案内して貰おう! 

「ねぇ、コウタ君! 報酬、あなたも貰ってよ」

 断っても断っても、マリンさんたちは引いてくれない。追いすがる三人にお構いなく、オレはズンズンとてとてと石畳の道を行く。オレ達が集めた鉱石は、結構な金額になった。ミスリル(すっごく珍しい素材なんだって)がが幾つかあって、それが高額になった理由みたい。ミスリルドリームだと査定のおじさんが鼻息を荒くしていた。まとめて丸めた黄金や白金の代金だけは、仕方が無く貰ったけれど。もともとオレが受けた依頼で無いから、報酬はいらないよ!


 とてとてと走って行くと、屋台街に出た。串焼きや腸詰めは小さい物から大きい物まで。ディック様の腕みたいな太い腸詰めが炙られて金の脂をしたたらせている。赤青黄色、オレンジに緑、茶と紫のマーブル模様は果実水の屋台だし、薄いパンを焼いたりチーズ粥やとりどりのスープがあったりと、香ばしく美味しそうな匂いに口中が水浸しだ。そういえば、自分でお金を払ったことがない。はたと気づいて道ばたにうずくまり、持っていたお金を1種類ずつ石畳に並べてみた。

 銅貨、銀貨、金貨、大金貨。さっき貰った白いのは、多分キールさんが見せちゃ駄目って言っていたものかな? 冒険者って秘密が多いなぁ。


「ちょっとちょっと、あんた何してるの?」

「 ? お金を調べているの。どのお金が使えるかなぁって」


 マリンさんがオレを担いで木陰に連れて行く。広げたお金はルビーさんとジルさんが拾って走ってきた。

「ば、馬鹿! お金、持ってますって見せてるものよ? 襲ってくださいって……ほら、来、来ちゃったじゃない」

「そう? はい、大金貨。これで今日の報酬は足りる?」

 広げたついでだ。マリンさんに渡すと、マリンさんは大慌てで大金貨をプルちゃんの鞄に突っ込んだ。


「ちょっ! やめてよ! 多過ぎ。 何も無くっても多すぎっ! あー、だけど、ちょっとー、説明は後ね。 ルビー、ジル、この子お願いできる?」

 振り返って一歩後ずさりしたマリンさんの前に、強面のいかにも悪そうな男の人が三人。大きな棍棒や大剣を振りかざし、ポキポキと指を鳴らして立っていたのだった。






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