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214  迷子じゃないよ


ーーーード、ポン!


 目的を定めて転移したのに、落っこちたのは川の中。「冷たい」が一瞬、あとは心地よい温度。転移したのはセントの街。ディック様達と来た温泉街だ。街の中心を流れる川なのだけれど、有り難いことに支流なのか、流れも緩やかで温泉混じり。うーん、寝起きの肌によく染みる。うっとりと流されてみれば、対岸から木の棒が差し出されている。


「あ、あなた! 急いで捕まって! ほら、ほら!」

 あなたって、オレのこと? 後ろにいるジロウを振り返れば、お姉さんがドボンと川に飛び込んだ。


「うぐっ!」

 喉をつかまれて、ジタバタする間もなく岸に運ばれれば、この感じは、()()()と同じ。


「ぎゃっ! こっちに来た! あなた、ほら、急いで! 」

「マリン! 早く上がって」

「ジル、お願い」

『@#$%“#$%67`”&%サンダー」


 ーーーーバリバリバリィー、ガガーーン!

 「「 ぎゃぁあああああああ 」」


 オレを川から引き上げたのはマリンさん。 オレを確保したのがルビーさんで、ジロウに向かって魔法を放ったのがジルさん。水に向かって雷魔法は悪手で、そのせいで感電し、プスプスと黒煙をたち上らせているのがマリンさんとジルさん。ごめんなさい。オレがオオカミに追われて川に落ち、流されているのだと思ったそうで、ジロウが従魔だと説明しても未だ疑心暗鬼。距離をとっている。


 プルプルプルプル。

「「「 きゃぁ! 」」」

「ジ、ジロウ! 水を飛ばしちゃ駄目だよ。ほら、お姉さん達にかかっちゃった。急いで乾かそう 」


 ドライヤーと風の魔法で身体を乾かす。うん、お姉さん達も一緒にね! 気持ちいいでしょ? ついでにこっそり回復の風。多少なら離れていても大丈夫。お姉さん達は突然吹き上げる風にびっくりした様子だったけれど、オレがにっこり笑ったら、一緒にうふふと笑ってくれたよ。


「そう、あなた、凄いのねぇ。もう魔法が使えるの? そして、本当に従魔なのねぇ」

 し、しまった! 魔法が使えるってこと、秘密にするんだった。でも、まぁ、いいか。オレは冒険者だから、この町には長居しないし。

 従魔の部分に疑問符を感じたけれど、それもスルーする。ちなみに、プルちゃんはしばらく川に流されていて、従魔の話をしたときに気づき、慌てて呼び戻した。スライムは泳げない。川の流れに身を任せるんだけなんだ。でも、プルちゃんは転移ができるから、自分で転移して戻ってきてくれたよ。危ない危ない。魔物だと言われて、知らない人たちに撃退されたら大変だ。


 お姉さん達は『きらきら流れ星』というEランクの冒険者さんだって。全員十五歳の幼なじみ。早朝から川にいるのは、浅瀬で鉱石を拾う依頼を受けているから。セントの近くの山は昔、鉱山だったんだって。鉱物を取り尽くしたと思われていたけれど、最近、川から幾つかの鉱石が採れたので、新しい鉱脈が見つかったかどうかの調査らしい。お姉さん達が持っている袋いっぱいに鉱石が集まったり、鉱物の純度が高い石があったりすれば本格的な調査に移るそうだ。責任重大の依頼だね。


「助けてくれたお礼に、オレ、お姉さん達のお手伝いをするよ」

 特に目的もなかったから、進んで申し出て見る。でも、お姉さん達は困惑しているみたい。


「あんた、えっとコウタ君? 貴族様でしょ? 分かるわよ、その身なりで」

「誘拐されて逃げてきたんでしょ? それとも迷子?」

「どこから来たか言いなさい。 非常時扱いにして貰って、この依頼を断ればいいから! 送ってあげるわ」


 これは困った。どう見ても貴族の子が一人で居るなんて不自然だとお姉さん達は引いてくれない。実際、貴族に見つかって叱られたり、誘拐犯だと間違われたりして面倒ごとになると困る! って言うのが本音だそうで。

 家出してきたって素直に言った方がいいのかな。だけど、連れ戻されても困る。ディック様達が探しに来られても困る。


 ディック様、オレの意を汲んで探しに来ないと思うけれど。でも、オレは特別な存在だと思うから、本気で探されたらすぐに見つかってしまう。無理強いはしないと思うけれど。再会したら、決心が鈍る。絶対に離れたくなくなる自信がある。


『だったら、戻ればいいのに。コウタって変に頑固ね』

 ソラのつぶやきに唇をぎゅっと噛む。駄目だ。オレがいたら、ディック様はレイを家においてはくれない。レイが正しく力を使えるように教育をしてもらえなくなる。オレとレイは共存は難しい。だって、いろいろと正反対なんだもの。きっとレイが苦しい。


「しゃ、社会勉強なの! お貴族様の。今日は一人で活動するの。ううん、指導する人が居たら危険な依頼も受けれるの。ほら!」

 冒険者プレートから魔法紙を出して見せ、全力で誤魔化すことにした。本当はギルドを通すといいのだけれどと付け加えて。


「「ふーん、だったらいいわ。 本当に面倒ごとにはならないのね」」

 マリンさんとジルさんが、じっとりと疑いの目を向けたので、オレはルビーさんにしがみついて大きく頷いた。

「それに、ほら! ジロウは力持ちだから、鉱石を運ぶくらいならいいでしょう? もし、早く依頼が済んだら、街を案内して! ほ、報酬もあげるよ」


 オレは脳裏に大金貨を浮かばせた。みんな、大金っていっていたもの。アレを渡せば、貴族の社会勉強だって証明できるよね? また薬草を採取すれば、大金貨は難しいけれど金貨1枚くらいならすぐに採取できる。そうすればしばらくご飯も買えるはず。

 報酬という言葉に反応したのか、お姉さん達は二つ返事で同行を許してくれた。また流されると危ないからと、オレは浅瀬で鉱石を探し、ルビーさんがオレの近くに居てくれる。ジルさんが腰くらいの深さ、マリンさんはもっと深いところで石を探すことになった。ジロウもくんくん鼻を鳴らして鉱石を一緒に探したんだ。


 鉱石っていろんな種類があるんだね。 一番たくさん見つかるのは鉄と銅が含まれている石。特に鉄は赤いサビが付いているからすぐに分かる。へぇ、すこしだけど銀とか金とかもあるね。「お願い」して外側を外して貰えば、分かりやすいかな? 綺麗な石になりそうなものがたくさん見つかるね。でもこれは鉱石とは違うからオレの収納に入れよう。足下からごぞごぞと音を立てて浮き上がってくる石は、自分で特別よって主張している。きっと珍しい鉱物だね。


 ふっと顔を上げるとルビーさんが慌てて視線を外した。おやぁ? これってやらかしたときのみんなの目。まだ、だよね? まだ何もしてないよ。 ドキドキしながら手に抱えた石をルビーさんに渡した。


「コ、コウタ君。石拾い、得意なのねぇ」

「うん! 石は友達! オレ、山でも村でも石拾いは大好きだったの」

 満面の笑みで答える。ルビーさんはオレが渡した石を抱えて、ジルさんのところに行った。石は重い。そんなに大きくない袋だけれど、持って歩くにはコツがあって、水に沈めながら運ぶのが効率がいいそうで、川も上流から下流に向かう方が疲れが少ないんだって。(しかもギルドは下流にあるそうだ)


 ルビーさんが一つ一つ石を確認して袋に入れている。ときどき、「ぎゃっ」とか「えぇ?」とか叫んでいるけれど、虫か何かがいたのかな? ルビーさん、ジルさん、マリンさん、いっぱいになった袋を交換しあって、小一時間もすれば、三つの袋はいっぱいになる。これで依頼は終了かな? まだお日様が高いてっぺんに近づく前の涼しい時間で終えることができてよかったね! 心地よい達成感に浸って、言葉少なくなったお姉さん達と一緒にギルドに向かうことにした。




 




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