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197 初めての依頼


「お前、薬草の知識あんのか? 本当ならギルドで情報を集めてから出掛けるんだが、今日は俺が連れて来ちまったから、教えてやる。今後、誰かに頼むんなら依頼を取ってから、または、取る前に下調べするパーティーはちゃんとした奴らだ。そういう奴にしろ。お前の力を見くびったり、当てにしたり、まぁ、妙に下手に出る奴らは相手にすんなよ」

 オレの手を引っ張って外に出た兄さんが、階段に座ってオレが串焼きを食べ終わるのを待っている。そんなにお腹が空いていないからと兄さんに手渡すとあっという間に平らげてしまった。


「うん。でも、町中依頼じゃなくなったよ。いいの?」

 今日は早く切り上げないといけないから、短時間でできそうなものを選んだのだけれど。もしかして町の中にも薬草ってあるのかな? 森とか広場とかもあるから、大丈夫なのかな? 心配して聞いてみる。町の中には確かに薬草が生えることがあるけれど、それはスラムに住んでいたり、外で働けなかったりする人のためのもの。もちろん、ギルドを通さないと正当な値段で買ってはもらえないけれど、それでもオレみたいなチビッ子には貴重な収入源で、住む場所によって縄張りがあるらしい。


「町の外っていったって、今日、行くところはそんなに危なくねぇ。穴場っちゃ穴場だが......。いいか? 絶対に一人で行くんじゃないぞ。ジロウと一緒でも駄目だかんな?」

 ぐいぐい腕を引かれて、てってけてってけ小走りで兄さんについて行く。だってもともとの歩幅が違うよ。そんなに速く歩けないってば。しばらくは頑張ったけれど、息が切れて来たのでジロウに助けてもらう。ジロウってばお利口で、ちゃんとギルドの外で待っていてくれたんだ。



 城門(周囲を囲う壁にある門だけど、お城がある王都なので一番外の城門なんだって)で門兵さんに挨拶をして外に出る。入るには審査がある。でも、出るときは簡単な挨拶だけなんだって。だけど、オレは一応プレートを見せてランクをメモしてもらっておく。これは、オレのことを知ってもらうためなんだって。一緒に出掛ける冒険者さんがオレを売り渡したり誘拐したりしないっていう証拠にもなるらしい。知らないことばっかりだ。


「……で、この門に沿って歩いて行くんだ。人が多い場所はさすがに薬草は生えねぇが、王都の東方面に草原や森なんかの緑が多いからな。門と門の中央付近には手つかずの場所があるはずだ。門の近くは魔物も近寄りづらいし、なんかあれば門兵が気付く。初心者冒険者にうってつけなのに、ほら、冒険者っちゃ、外に行きたがるだろう?」

 なるほど、確かに雑草に紛れて貴重な薬草がちらほら。ソラのピッって声に反応すれば、見知った薬草が見つかる。ジロウがスンと鼻を鳴らすと、ほら、これは珍しい若芽。懐かしい山での暮らし。みんなが薬草についてたくさん教えてくれたっけ。生きていくための知恵だ。


 ずんずん進む兄さんに、どんどん距離が離されるけれど、大丈夫、声は聞こえている。あぁ、困ったな、持ちきれない。とりあえずと空間収納に入れちゃおう。


「おぅい、コウタ! お前、遅っせー。いつの間にジロウから降りてんだよ。この辺りは草原になってから、お前、しゃがむと見えんくなる。門から離れんなよ」

 振り返ったアイファ兄さんは確かに膝まで草の中。慌ててジロウに乗って近くに行った。


「ごめん、兄さん。あ、あのね......」

 もう幾つもの薬草を採取して、今回の依頼の薬草を確認したいと話しかけようとすると、動くなと瞳で制された。な、何?

 ジロウの毛にぎゅっとしがみついた瞬間、ザッと剣が振るわれて、小さな魔物がひゅーと空から落ちて来た。


「チッ、ホーンマウスだな。お前、小さいからさ、こんな草原でも狙われるぞ。まぁ、ジロウ連れてりゃマシだし、マウスやヘビくらいなら、お前でも仕留められるか......って! お前、剣どうしたんだよ。帯剣しねぇで来たってか?」

「えっ、だって。オレの剣、木剣しかないし。それに町中依頼なら、いらないでしょ?」

 アイファ兄さんはしゃがみ込んでぶつぶつと何かを呟いているけれど、魔物はジロウに任せて、壁の際や岩の下、草を分け入って薬草を探すんだ。



「お前、薬草のこと、ちゃんと知ってるなぁ。勉強したっけか? そうそう、そいつは軽く握れば勝手にちぎれる。無理に引っ張ったらダメなやつだ」

「おう、それは葉の裏を見んだよ。白い産毛が生えていたら、それを落とさないように根元からだが......、お前、そのシャベル、どうした?」


「ん......、さっき土で作った」

「へー、器用だな......って違うから? 違わねーけど、人の前でやるなよ? カバンに入れて持ってきたってことにするんだぞ」


 兄さんのアドバイス、凄くためになるけれど、ソラやジロウがいるから、案外薬草採りも大丈夫だって分かった。それに......。時々、本当に時々なんだけれど草の下から『ここにいるよ! 大きくなりたいから採っていいよ』って声もするんだ。大きくなりたいとか、葉っぱを生え変わらせたいとか、そんな薬草さんが教えてくれるの。でも、それは内緒。


 程よく疲れて来たので、木陰でごろんと寝そべっているアイファ兄さんにもたれてお弁当を食べる。さっきの串焼きがまだお腹に残っているから、ほとんど兄さんに食べてもらった。土魔法で作ったコップに水を注いて、ふうとくつろげば、空がとっても高くて、強い日差しがてっぺんに来ていた。


「そんで? なんでお前はそんな格好になったんだ?」

 つけてもらったお花たちは随分減ってしまったけれど、ひらひらの前掛けは薬草採りにはぴったりで籠の役目をしてくれて、たくさんのリボンは草に隠れるオレを上手に目立たせてくれていた。


「えっと、兄さんを呼びに行こうとしたら、花摘みの依頼から帰ってきた冒険者のお姉さんたちが可愛いねって、つけてくれたの。そのうち、サーシャ様みたいにぎらぎらしてきて、服の中にしまってあったリボンを広げたり、持っていた布とか、お菓子とか、串焼きとか、くれたの」

「ああん? 知らねーやつから貰うんじゃねーって教えたろう。まぁ、ギルドん中なら大丈夫だが。  で、倒れていた奴がいただろう? あれはお前、無関係だよな? なんか変な雰囲気だったからよ」


 つむった瞼を片目だけ開けた兄さんは胡散臭げにあくびをした。無関係なのか、関係あるのか?


 掲示板の前でぴょんぴょん跳んでいたら邪魔だと言われて後ろに下がった。けれど、後ろだとどうしても見えない。近くにいる人の背中をちょっとだけ借りてよじ登ったんだ。そうしたらよく見えて......。これくらいなら出来そうかなって依頼を見つけて手を伸ばしたんだけど、ほら、前に向かって腕を伸ばすじゃない? 借りた人の頭が、ちょっとすべすべで、つるんと滑っちゃったの。


 落ちそうになって踏ん張った足が、隣にいたあの人のお顔にくっついて......。「何すんだ、コノヤロー」ってガシガシ掴もうとするから、避けて避けて、避けて、椅子の下で捕まっちゃったの。あの人が、「捕まえた」って慌てて立ち上がるときに、近くにあった机に頭をぶつけちゃって。あっ、回復しようと思ったんだけど、ほら、いつも駄目って叱られるから、ちょっと迷ったら、「この野郎」ってお顔が真っ赤になったの。

 でも、頭を打ったせいなのか、捕まえ方が緩かったからさ、もう一回逃げようとしたら、足が顎に当たっちゃって。

 ガンってなったら、バタンって倒れて、そしたらお姉さんたちの足の間に頭が入って、キャーってなってバキッてなって......。やっと立ち上がったときにヨロってしたら今度はお姉さんのお胸に手がいっちゃって、また、キャーってなってバキッてなって、サイテーってなって。

 ごめんなさいって言ったら受付のお姉さんに呼ばれたの。

「えーっと、いろいろ、ごめんなさいなの」


 アイファ兄さんは、ディック様みたいに目をつぶったまま困ったような顔をした。そのあと、早々にギルドに戻って採った薬草を全部出したんだけど……。すぐに別室に連れられて、「何でこんなにあるんだ?」とか「数年に一度見つかるかどうかの貴重な薬草がいくつもいくつもまざっています」とか、なんだか大騒ぎになって......。鑑定士とか、薬師さんとかいろんな人が呼ばれて、それだけで大騒ぎだった。

 初めての報酬はぴっかぴかの大金貨1枚だった。オレはとっても嬉しくて、くるくる回って踊りながら馬車に戻ったんだ。

 初依頼は大成功だね!


■■■■


 ああん? 薬草採取で大金貨なんて聞いたことねーぞ。幻の草やらエリクサーの材料になる根っこやらが混ざっていたらしい。しかもアイツの収納は劣化がないから採れたて新鮮。さらに......あの戦いで、王都中の回復薬が一気に減少したから、今は品不足で薬草の価格が跳ね上がっているんだそうだ。

 しかも実質、作業時間は2時間程度だ。こんなんでこの報酬。冒険者の厳しさどころか、楽勝だって自信をつけかねない。まぁ、査定での大騒ぎはさすがに狼狽えていたけれど。(俺だってさすがにビビったわ)

 くそう! 兄ちゃん凄げー! って感心させようとしたのによ。これが呑まずにいられるかって! 俺達は速攻、酒場に向かうことにした。なぁに、ちょっと呑むくらいじゃ日は暮れねぇ。お子様の遠足の付き添いにおまけがあってもいいだろう?






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