195 冒険者ランクは・・・?
「ん………、あれ? お、おはよう」
目が覚めると、隣にレイが眠っていた。ぱちと目が合ったから、小さな声で挨拶をしたのに、レイはぷいと横を向いてしまった。不思議に思って身体を起こせば、ここはレイの部屋で、プルちゃんが手桶で身体を冷やして、ぴょんとオレの頬にくっついた。
「わぁ、冷たい! でも気持ちいいよ。おはよう、プルちゃん」
カーテンを開けたサンが、うふふと笑みを寄越す。ん? ちょっと不気味だ。
「さぁ、コウタ様、抱っこいたしましょう! ほら、今日は胸の開いた服にしてみましたの」
確かにサンの服はいつものお仕着せではなくて、サーシャ様みたいなドレス姿だ。ついでミユカが慌てて部屋に入ってきて、やっぱり胸の開いたドレス姿で抱っこを要求する。
「「さぁ、さぁ、抱っこですわ! お手を突っ込んでも、全然気にしませんのよ。むしろ嬉しいっていうか………」」
なんだか圧倒されて、オレは慌ててベッドから降りる。ごめんね! オレ、赤ちゃんじゃないから。そんな簡単に、抱っこされたくないよ! レイに「後でね」と告げて、部屋に戻ってお着替えをするよ。オレ、ご飯の途中で寝ちゃったみたい。きちんと着替えないとね!
レイと一緒に食堂に行くと、ディック様達はほとんど食べ終わっていた。なんだかみんながニヤニヤしているし、上に下にといろいろ調べられたけど、エンデアベルト家ではよくあることだからね。パン粥のご飯をさっと平らげて、オレもサロンでくつろぐんだ。代わる代わる、みんなに抱っこされるけれど、うふふ、こんな日もあるね。
ディック様が重い腰を上げて執務室に行こうとすると、館の大扉が開いて来客を告げた。お客様だよ、よかったね。仕事をしたくないディック様が大喜びで出迎えに行くと、すぐに踵を返して戻ってきたよ。あれ? 苦手な人だった? お客様は地味なマントで顔を隠してそそくさとサロンに押し入ってきた。うん、戸惑うタイトさんに迷惑そうなディック様を追いやってオレの前に来たんだから、押し入ったって表現が正しいよ。オレの前でさっとフードを取ったのは、オッ君、じゃなくて王様だった!
「だからよ、気軽に来んなよ! 今朝は国家機密は連れていねーのか?」
「ふぉっ、ふぉっ。お忍びじゃ。ちゃんとジミーな小馬車できたから、バレとらん」
首を振るお付きの人は見なかったことにしよう。王様はディック様のソファーに座ると机の上に小さな包みをのせた。
「さぁ、坊よ。約束のもんじゃ、開けてみよ」
約束? オレ、貰える物なんて約束していないけれど。文句を言いたそうなギャラリーを眺めて、言われるがままにそっと包みを開く。細長い筒になったプレートに、細い鎖の首飾り。これって! うん、そう! 頼んでいた物だ!
「お前、仕事が早すぎるだろう? まさか? お前、先に仕込んでいたな!」
なんだか雲行きが怪しいけれど、王様はちょっとだけ笑うと何事もなかったかのように筒を口にくわえろと言う。笛になっているみたいだ。促されるままに笛を吹くと、筒は淡い黄色の光を帯びて、先から魔法紙をふわり浮き上がらせた。
H-RANK KOUTA
条件 ホフムング王国内限定
E.Fランクの町中依頼に限定
門外の依頼は指導パーティーのもと合同依頼
昇格はFランク同様
次のランクはF 限定なしの扱いとする
「こ、これって! オレのランクはH?」
「おう、そうじゃ。ホフムング国のHじゃ。何しろ、冒険者は6歳からじゃて。特例でも5歳だが今は誰もおらん。1番下のFランク、その下のしたじゃが、ランクにこだわりはないじゃろう? まぁ、いろいろ条件はついとるが、お前さんなら直ぐに昇格じゃ。ほかの者が真似しても危険じゃからな」
ひげをしゅわしゅわと撫でている王様は、ディック様とアイファ兄さんの目をひたすら避けているみたいに見えた。
「ねぇ、合同依頼って? オレ、兄さんのパーティーに入れる?」
「おう、入れるぞ。パーティーは組めんがな。むしろ入れてもらわんと外には行けん。これならいいじゃろう? ディッ君?」
チラと目を合わせた王様は、おびえたように肩をすぼめた。代わりにキールさんが代弁する。
「外に行く地点で、コウタはやらかしそうだけど。でも、合同依頼ならいいかもね。パーティーに入ってしまうと実力がなくても実績がもらえちゃうから、あっという間にランクアップってことがある。でも、合同だったら、実力に見合ったポイントや報酬の分配をギルドが提示してくれるからね。面倒ごとにはなりにくい」
「そうそう。砦もね、誰でもパーティーに入れるってうたっているけれど、2ランク以上差がある場合は合同依頼にしているんだ。そうでないと危ないからね」
珍しそうに魔法紙を見ながらニコルが言った。
ーーーーシュン
小さな音を立てて魔法紙が消える。王様はディック様にお小言を言われる前にと、ささと帰ってしまった。
でも、嬉しい! これでオレも冒険者だ! いろいろ条件がついているけれど、自分でお金を稼いで、レイと一緒に冒険が出来る。部屋に戻ったレイを呼びに行こうと駆け出すと、アイファ兄さんが首根っこを掴んだから、オレは宙ぶらりんにされてしまった。
「よかったなぁ、コウタ。悪さする前にギルドに行こうぜ。兄ちゃんが手取り足取り、冒険者の厳しさを教えてやらぁな」
う、嬉しいけれど、オレの頬は思いっきり引きつっている。なんだか、何だか………?
その声を聞いて、サーシャ様とメイドさんたちがどこかに走って行った。
あっちもこっちも、嫌な予感しかしない。




