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190 サンのお手柄



「うふふ。もう大丈夫でちゅよー。気持ちよかったでちゅねー! 兄ちゃんと洗ってもらえてよかったでちゅねー」


 サロンでタオルにくるまれた赤ちゃん。気持ちよさそうにすやすやと寝ている。だけどオレは今、猛烈に不貞腐れている。


 食卓の上に投げ出されたサン。当然、大惨事になった訳で……。熱い紅茶やスープを浴びなくてよかったけれど、特に赤ちゃんは大急ぎできれいにしたいということで………。


 ご想像の通り、すぐに湯船に直行となった。ついでにちょうどいいからと、オレもあっという間に身ぐるみ剥がされ、メイドさんやサーシャ様にあっちもこっちも、前も後ろも、あんなところやこんなところもピッカピカにされてしまった。オレ、もう一人で身体くらい洗えるのに………。しかも「私めも汚れちゃったので~ご一緒しま~す」なんて言って、サンも一緒にお風呂に入ったんだよ! 赤ちゃんも女の子だし………。恥ずかしさでいっぱいなんだもの。男としてふて腐れるのは当然だ。


 アイカたちがオレを探してはるばる王都まで来てくれたとき、オレはすでにここにいなくって。サーシャ様たちの不自然な様子と町に垂れ込める怪しい雰囲気で大事を察してくれたんだって。あの手この手でオレの居所を見つけたときにはサンと赤ちゃんがピンチに陥っていて。ウンディーネ様が機転を利かせてかくまってくれた。ありがとう、ウンディーネ様、妖精さん! 消えたと思ったのは妖精の国に行ったからなんだ。オレが妖精の国にいったときと同じだね。ほっとしたよ。


 だけど、妖精の里では、かわいいものが大好きなサンだもの。何をするにも素敵~、可愛い~の連発で叫びまくっていたらしい。何もかもを手に取って、よしよししたりなで回したり。赤ちゃんのお世話をしながら妖精たちを美しく着飾ったり………。


「まぁ、お可愛らしい~」

「きゃぁ、それも素敵ね~」

「あぁ、食べちゃいたいくらいですわ! 幸せ~ ってそればっかり!」

「近くによると つかまっちゃって」

「リボンをつけたり、 なでまわしたり!」

「「「 もう構わないで~!って、みんな怒ってた 」」」


 サンは戻ってからは妖精の姿が見えなくなってようで、とっても残念がっていたけれど、妖精たちはいつまでもプンプンプンプン。でも………。少しずつ王都の空気が柔らかくなっているって言ってくれたんだ。


「は~、幸せな時でしたわ。見るもの、触れるもの全てが美しくて、可愛いもので満たされていましたの。私、一生分の可愛いに触れてしまったと思ったのですけれど。あ~、でも、こちらにも、サンの

可愛いが溢れていて! あぁ、サンは幸せ者でございます。ささ、コウタ様、今宵からはサンと一緒にお休みいたしましょう!」

「い、いやだぁ」

 うっとりするサン。さすがのサーシャ様もちょっと引き気味で。サンの暴走ぶりが垣間見えて、オレは心から妖精たちに謝罪をしたし、そして感謝をしたんだ。


 翌朝、オレは早々にプルちゃんとモルケル村に転移して赤ちゃんを連れて戻ってきた。離したがらずに駄々をこねるメリルさんを置いて戻ってくるのは、胸が痛くて。執事さんがコウタロスですから許して欲しいと頭を下げたのが印象的だった。コウタロスって? 村を出てから随分経つから、さみしいのかな? そう思ってたっぷり金の魔力を振りまいてきたよ。また転移で戻ってあげようかな?


「さらわれていた子たちを保護していたが、安全が確認できたので帰宅させる」という名目で、これからエンデアベルト家に赤ちゃんを迎えに来てもらうんだよ。うちが誘拐したと思われてはいけないから、ちゃんと王宮から秘密が守れる騎士さんたちが来てくれたんだ。さらわれた子の中で身元がすぐにわかったのがエンデアベルト家で、身元を探す間は環境を変えないように、みんな一緒にいたということにするんだって! さすがに転移でモルケル村や妖精の里に匿われていたとはいえないからね。


 サンの証言と王宮からの騎士さんたちの働きで、赤ちゃんたちの身元はすぐに判明した。三人共に貴族の子だ。さらわれた赤ちゃんたちは何人もいたみたいだけれど、貴族の子だけ特別に生かされていたみたい。切ないね。


「私が潜入できたときには、すでに幾人もの赤ちゃんが………。コウタ様のご安全を第一にすべきでしたが、赤子を壺に投じろと命じられ、どうしても出来なくて。生肉とコウタ様の髪を包んだお守りを投じました。何か魔力を帯びたものが必要でしたから。さすがコウタ様の御髪。気味の悪い液体の中で美しい光を放っていましたわ。それで時間を稼ぐことができて何よりでした」

 サンの証言で、本当に赤ちゃんが救われてよかったと涙がでた。あのときサンがいてくれなかったら。サンがオレのお守りを持っていなかったらと思うとぞっとする。だけど………。本当にお守りを作っていたんだね、サン。


 ということで、オレ達はちょっと広めの応接室で赤ちゃんのお迎えを待っている。うふふ、レイもいっしょだよ。

 机を寄せて、絨毯を敷いてもらって、赤ちゃん三人を並べて寝かせる。子守要員でジロウが尻尾であやし、ドッコイとソラがゴロゴロ、ピチチと子守歌を歌うよ。プルちゃんは、泣いて火照ったお顔を冷やしてあげるんだって。えっ? スカ? スカはね、赤ちゃんと一緒にごろごろ寝てるよ。さっき、踏み潰されて怒っていたけど、赤ちゃんの枕がふかふかで気に入ったんだって!

 みんな、やっとおうちに帰れるね! うふふ! 一足早く戻ったオレは本当に幸せだ! うれしいな!



 


 



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