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018 砦の有志

 古びた一室を出て暫く歩くと土塀を背に腕を組んだ女がニヤニヤとして待っていた。赤毛のニコル、狼のような風貌にオレンジの瞳の奴は、俺のパーティの斥候だ。


 駆け出しの頃、盗賊の奴隷となって使われていたところを俺と親父で助けたのが縁で、仲間になった。鳥や蛇のような小さな魔物を従える従魔術師士だが、生活レベルの初級魔法や短剣、弓などの武器も扱える器用で便利な奴だ。


「パパとの密会、どうだった? 獲物、いただいたの?」


 クスクス笑いながら揶揄ってくる。親父、バレバレだぜ?


 エンデアベルト領 唯一の街ランドに入り、ギルドに顔を出す。道中で得た素材の売却と情報収集だ。冒険者の習慣ってやつだな。すると偶然、高ランクの依頼があるから受けて貰いたいと頼まれた。


 近くの森でジャイロオックスらしき魔物に襲われた冒険者がいた()()()。単体か群れなのか、調査できる冒険者を探していると。

 ジャイロオックスはオオカミと狐が相まったCランクの賢い魔物で物理攻撃が効きにくく、主に魔法を使って倒す。しかも群れとなるとランクが上がる。当然、Bランク以上の依頼だ。こんな辺境にそう都合よくビンゴのランクが来るかよ……。


 浅い森だから調査だけなら斥候のニコル、魔法使いのキールで事足りる。当然、長剣使いの俺は役立たずで弾かれるってこと。


 しかもギルドがかける依頼だ。辺境故に領主に声をかけるはず。あの親父がジャイロオックス程度の魔物を放置して依頼なんかにするものか! 自ら喜んで狩りに行くってもの。



 エンデアベルト家の伝達鳥からの手紙はたった一言。


    『街に帰れるか?』


 珍しい。こんなことは冒険者になって初めてだ。内容は言えないが、一刻も早く話したいことがあるってことだ。わざわざ帰れるか聞くくらいなら、伝達鳥なんか使わねぇ。


 しかも俺一人にだ。


 そうでなければ『家に戻れ』で済む。街を指定したのは仲間の足止め。俺と引き離す胡散臭い小細工まで準備してやがった。

 悪いが俺のパーティ『砦の有志』には年寄りたちの企みなんかお見通しだ。勿論、それも織り込み済みだろうが。


 危険が読めないってことなんだろう。覚悟を問われた。だから答えたが……。


 俺がコイツらを護れるかって? それとも護られるのは俺か? 親父か? 何を隠している? 相変わらず過保護なこった。


「 ……。で? 坊ちゃん、依頼完了で報告しちゃっていいのか? 一応、足跡は探したぜ。予想通りのワイルドウルフ、5頭程の群れだ。あっけなかったぜ」

 酒場で時間を潰していたキールと合流すると、今度は坊ちゃん呼ばわりか……。


「あぁ、問題ねぇ。それよりどうしたい?」

「何だ? 親父さんの情報、違ってたのか?」

 今後の話を振ると、二人は急に真顔になった。


 下調べは重要だ。親父が子どもを拾ったことまでは調べた。てっきり拾った子どもの話だと思ったが、全くの空振り。

 だが、あの品のことはうっかり口に出せねぇ。貴族ばかりか王族だってその出自を調べ上げ、我が物にしたがるはずだ。知っているだけで危険が伴う。


「あぁ、子どものことか? そういやぁ、何も言ってなかった。まぁ、うん」


 何からどう切り出せばいいものか思い浮かばず言い淀む俺に、ニコルが噛み付く。

「小ちゃい男ねぇ。あんたが旦那様の依頼を断れる訳ないじゃない! もう、ちゃーんとついて行ってあげるから、しっかりしなさい! ふぅ、面白そうじゃない、キ・ケ・ンも!」

 さすがニコルだ。何も言わなくても危険なことを察知している。まぁ、従魔を使って聞いていたかもしれねぇが……。


 上がり眼をした癖毛の魔法使いはテーブルに置かれていたエールをゆっくり口に含むと、視線を隠す長い前髪をふぅと吹き飛ばした。


「やばそうだなぁ。剣と体術、鍛え直す時間はありそうか? はぁー、今夜はビビって寝れないかも。嬉し過ぎてね」

 ニッと見せた白い歯と悪戯な青い瞳に、俺も覚悟を決める。



「まぁ、詳しい話は館でだ。悪いが、冬籠りだぜ? 残念だが、うちの飯はそこそこだ。いいか?」


 Bランクパーティ『砦の有志』の三人は、エールと串焼き肉をたっぷり注文し、少し早い夕飯を食べると、早々に安宿で身体を横たえた。



 


 『砦の有志』  通称『砦』


 この国はぐるり外周を覆うように絶壁がそそり立つ。


 はるか昔、世界を厄災が襲った時、勇者と呼ばれる一行と古の王家が厄災に立ち向かった。

 勇者達が巨大な何かを食い止めるために踏ん張った足跡がまるでお椀の底にいるかのように不自然に反り上がった壁となって残っているとか、巨大な敵がこの地に降り立ったときに隆起したとか、仔細は不明だ。

 年月と共に多くは朽ちて崩れ落ち、今なおくっきりとその存在感を残しているのはエンデアベルトと堅固に守られた王城の背にあるもののみ。

 しかもエンデアベルト家は自領だけでなく隣領に攻め入った他国軍を幾度となく撃退した実績を持ち、まさにこの国の砦となっている。

 絶壁は “ 最後の砦 ” とも言われるエンデアベルトの代名詞だ。



 有志とは目的を同じくして仲間になりたいと希望する者。

 この国を、エンデアベルトを、いや大切なものを守ろうとするものは誰でもパーティに入れよう、仲間として受け入れよう。

 そんな志のもと曾祖父の代に名付けられたパーティ名を、新たに考えるのがめんどくさいとズルズル受け継いだ領主の息子。


 実際のところ、パーティに加わりたいと名乗り出た者もいるが、幼少期から戦闘狂とも揶揄され才能を開花させた天才について来れる筈もなく、挫折を味わい長続きしない。行き当たりばったり。そこらの魔物を殲滅することで治安の向上に貢献しているだけのパーティは、ランクアップにも我関せずでここまで来た。実績は十分だ。

 箔をつけるために、ぼちぼちAランクに上がるのも悪くないかと考えているのだった。

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