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189 大丈夫、大丈夫? 大丈夫。......かな?



「「「「「 お帰りなさいませ 」」」」」


 とろけそうなメイドさんの笑顔に、オレは心の底からホッとした。帰って来たんだ。王城から貴族街までの道は案外に片付いていて、騒動があったなんて感じさせないほどだったけれど、それでも遠くに見える商業区や居住区なんかでは大きな建物が崩れた跡があったから心配していたんだ。上位貴族のエンデアベルト家は貴族街でも王城に近い方で、それでいて奥まった場所にあるから被害が少なかったんだね。


 館に着くと、オレは真っすぐレイのいる部屋に駆けて行った。怪我はほとんどないけれど、心が深く傷ついていて体力がすっかり落ちている。ぼんやりと宙を眺めて過ごすことが多いんだって。


「レイ、オレだよ。コウタだよ。大丈夫?」

 ベッドで寝かされている地点で大丈夫ではない。レイはそっと身体を起こしただけで曇った瞳で真っすぐ前を見ている。

 握った指が冷たくて生気がない。胸が締め付けられたとき、ニコルが慌ててオレを引き離した。


「ちょっ......! だめだよ、治しちゃ。前にも言ったけど、怪我じゃないのは治せない。コウタでも、治しちゃ駄目なの」

 分かってる。ちょっと、ちょっとだけ、魔力を送ろうと思っただけ。


「分かってなさそう。 あのね、コウタ。 ヒトには......、ううん、生きる者には自分の身体を自然に治す力がある。回復を多く受けると、その力が弱まってしまうんだ。ほら、回復薬が効きにくくなるのと同じ。だから、レイの力を信じるんだ。レイが自分で治りたいと思うようにね」

 クライス兄さんの説得で、オレはぐっと我慢をした。


 食事をしていても、青い顔と焦点が定まらない瞳は変わらない。悪魔とレイに何があったか分からないけれど、オレは一生懸命笑顔を作って、そして、できるだけいつも通りになるように食事をした。レイがとっても心配だったけれど、エンデアベルト家のみんなと食べる食事がとっても美味しくて嬉しくて……。途中で涙が出てきてしまった。ごめん、レイ。



「ささ、坊ちゃん! ほら、ベーリーのアイスクリームです。ブルの濃いミルクが手に入らなかったんで、ヤギのミルクですけど。でも、ほら、ナッツでコクをだしたら美味しくなったんですよ」

 ディーナーさんが満面の笑みで出してくれたアイスクリーム。アイスクリームはガリガリした氷菓子とは違って滑らかな食感で、これはエンデアベルト家でしか食べられない。


「う、嬉しいです! いただきます!」

 とろりスプーンですくって口に入れた。 あれ?! アイスクリームが消えてしまった。えっ? なぜ? なんで?

 見上げると、あれれ、誰も気づかない? おかしいな。 もう一匙。

 ぱくっ! えっ? また?


 口に入る瞬間に消えるアイスクリーム。まさかこれって……。


 お料理のお皿を舐めるようにじーっと目を凝らす。じーっと、じーっと!

 ほら! 見つけた!


「あっ、アオロ?」

「「「 わっ! やっと気づいた! もう、コウタ! 遅いの! 遅ーい」」」


「ああん? なんだ、コウタ。 まさか? もうやらかしか?」

 怪訝な兄さんの瞳に、キールさんが割って入った。


「コウタ、もしかして、妖精? コウタがいないときも何度か来てくれてね。でも、ほら、俺達は監視されていたし、見えないだろう? 悪いことしたなと思っててさ」

「そうそう。妖精ごっこをして必死で誤魔化したのよね。 ねぇ、イチマツ! 妖精さんがいらっしゃってるの。お茶とお菓子をお出しして!」

 サーシャ様の気遣いに、妖精たちは大喜び。みんなの髪をピコピコ引っ張って、兄さんのお茶にお砂糖を山盛り落っことして「ここにいるよー」なんて主張し始めた。

 ディック様はあきれ顔でその様子を眺めていたけれど、レイは何の反応も示さずぼんやりしていたから、タイトさんがそっと部屋に連れ戻してくれたんだ。


「こんなところまで、来てくれたんだね。ごめんね、オレ、つかまっていたから」

 三人に事情を話そうとすると、アイカがニッコリ笑ってそれを制した。


「分かってる! 世界のピンチだったんでしょ?」

「そうそう! 精霊様、助けに来た。 里、パニック」

「もういい? 早くしないと、妖精の里、つぶれちゃう」


 妖精の里でパニック? いったいどうして……。まさか、まさか……。悪魔は妖精の里まで力を広げていたの?

 ドキリとするオレの表情を見て、アイファ兄さんが椅子に掛けていた剣に手をかける。ち、違うよ。そういう問題じゃ……。


「アイファ兄さん、大丈夫だから? ううん、大丈夫じゃないのは妖精の里なんだって! ねぇ、アイカ達、オレにできること、ない?」

 慌てた兄さんを落ち着かせて、できることを聞くと、オレが妖精の里に連れていかれないように、ガシっとクライス兄さんが腰を掴んだ。


「わっ! 痛い! 大丈夫だって、クライス兄さん! ううん、大丈夫じゃないけど、大丈夫じゃないのはオレで、違った、妖精さんで……」


 何だかオレがパニックだ。あっちからもこっちからも鋭くて、困って、呆れたようで、そんな視線が交錯していた。


「ねぇ、大丈夫そうじゃない?」

「あぁ、もういいかんじ」

「じゃあ、出すよ」


 えっ? 出すって、何を? 大丈夫って? 大丈夫じゃなくて?


「「「 さん、にぃ、 いち、ぜろ! 」」」


ー-カッ!

ー-----ぼよよよん

    ー-----ガチャン!ガチャン! バリン!


「わぁっ!」

「きゃぁ!」

「うっ、うっ、うっ………! あんぎゃー---あんぎゃー---」


 赤、青、黄色。三人の妖精が放った光。それと共に三色の薄煙がもくもくと部屋中に広がった。そして



 ダイニングテーブルの中央。そう、ご馳走が乗っているそのテーブルの上に、赤ちゃんを抱っこしたサンが飛び出した。


「あっ、あの、あの……。た、ただいま、戻りました」

「さ、さ、サン! それに、この子って、この子って! あの赤ちゃん?!」










 


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