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185 希望の光


 真っ青な晴天。のちに暗雲、そして雷雨。晴れたと思えば再び雨が降り、陽が傾き始めた今は、近くは灰色の煙のような雲に覆われ、遠く沈みゆく日の周りは美しい青色で、といった混沌とした空模様。目まぐるしく変わる今日の戦況のようだ。


 この国の最西端にある村の方角から感じたプルちゃんの気配は、徐々に近づいて、やがてその姿はキラキラと色彩豊かに美しく彩られて見えた。真っ白な龍の背にたくさんのカラフルスライムたち。先頭でぴょんぴょんと合図するプルちゃんは光を受けてアクアマリンの宝石のようだった。


「プルちゃん!」

「プキー、プルルン、ッピ!」

 ひゅんとオレの胸元に転移したブルーのスライム。互いの無事を抱き合って喜びんだ。

「それに龍爺、来てくれたの? ありがとう!」

 懐かしい気配に、頼もしい姿に、疲れ切った心がみるみる蘇ってくる。


 ふと見ると、眼下の人々は身体を寄せ合って震え、王様はたくさんの家臣たちに積み重ねられて守られている。あきれ顔のディック様が白龍の鼻先でスカを差し出し、事態を収拾するように頼んでいた。


「なっ?! 神獣様で? いや、元神獣様ということでしょうか? 無礼を、無礼をお許しください」 

 頭を垂れる王様と王妃様。駄目だよ、王様が簡単に頭を下げては……。それに龍爺はもう神獣じゃない。ただのそこらの白龍なんだから。

 ニヤニヤが止まらない笑顔でディック様の手を握ると、の太い指をちょろりと動かして答えてくれた。うふふ、うふふ! あぁ、なんて嬉しいんだろう!


『そうじゃ、わしゃ、ただのそこらの白龍じゃ。何も力が残っとらん、ただの龍じゃが、坊の手伝いくらいはできるでなぁ……。ふぁふぁふぁふぁふぁ……』

 オレの心を読んだかのような龍爺の言葉に、ディック様達は再び嫌な顔をしてスカにマイクを持たせ、ずいと前に出させた。


「お前、女神の......なんだ、遣いだったか? それ、その立場を使って、争うのをやめろって言ってこい。お前の手柄にしていいぞ。思う存分、敬われて来い」

 オレの顔を見上げたスカの表情が、ぱああっと明るくなった。


「俺、俺様の手柄?」

「あぁ、お前んしか出来ねぇだろう? この混乱を収めるために()()()使()()()()()()()。それがお前だろう? 王を傅けて、期待を一身に受けたところで、隣人を愛し勤勉に働けとでも言やぁ、みんな収まんじゃねぇか? そしたら、それは全部、お前ん手柄だろう? 違うか?」


「は、............はい! 俺様、女神の遣いですから!」

 うっとりするスカとオレを龍爺の背にのせて、ディック様が困ったような顔をした。


「悪りぃな......。お前んばっかに負担をかける。さぁ、こいつと最後の(ひと)仕事。行ってくれるか?」

 それって......、オレに任せてくれるってこと?


「お前ばっかに背負わせたくねーけどな。 何てった? 光魔法って奴。お前しかできねーじゃん。薄ーくでいいぞ。やりすぎんな? ちょっとだけ振りまいて来い」

 残念そうなアイファ兄さん。乱暴な言葉の端々に優しさが滲み出ている。

「本当はさ、コウタ一人で行かせたくないけど。僕らが関わるのは最低限にしたいからね。ほら、今日のコウタの服。魔法使いの服だろう? ちょうどよかったよ。エンデアベルト家には魔法使いがいないし、遠目で見たらジロウの仲間みたいだからね」

 さらり揺れたクライス兄さんの金髪。オレはこくんと頷いて、スカとプルちゃんとジロウと(もちろんソラも)龍爺の頭の上に乗った。


「じゃぁ、行ってきます!」

 みんなに手を振ると、龍爺はゆっくりと上昇して方角を変えた。さぁ、スカ、出番だよ!


「あー(あー)、みなさん(みなさん)」

 いちばん混雑している教会の上空で、緊張で固まるスカ。ぴょんぴょんとカラフルスライムたちが飛びあがって、頑張れってエールを送る。そのたびに頬を赤らめるスカがとっても可愛くて、オレの胸は嬉しさでパンパンになっていた。


「お、俺様は女神の遣いである。あーそうなんだけど、スカである。違った、スカイルミナス・・・・・・・」

「あはははは......、スカ、頑張って! 難しいことを言わなくても、みんな仲良しだよって言えばいいよ! みんなで幸せになろうよって言えばいいよ」


(めがみみみみみみ、 スカスカスカスカ・・・・・・・なかよ・・・・・・しあわせせせせせ・・・いい・・・・)

 きょろきょろするスカ。マイクの方向が安定しなくて、中途半端にオレの言葉が拡散されていく。

 そんなことはお構いなしに、龍爺は王城を中心にゆっくりゆっくり空を泳ぐ。カラフルスライムたちは代わる代わるオレの傍に来て、オレの周囲の空気をたくさんたくさん吸い込んだ。

 スカはひとしきりスピーチをすると、すっかり上機嫌になって、ふんふんふふんと鼻歌を歌い始める。


 うわぁ、スカ! その歌、オレも知ってる! 母様のふるさとの歌。確か......ドウヨウだったっけ? 小鳥の歌や、チョウの歌、お散歩の歌や、うふふ、どうして迷子の歌なのかな?

 久しぶりで懐かしい。オレもスカとリズムを合わせて歌った。ソラが小さく小さく合いの手を入れる。うふふ、ソラも覚えていてくれたんだ。

 


『ねぇ、コウタ。 今、楽しい?』

 ジロウが聞いた。

 しまった! たくさんの人が苦しんでいるのに不謹慎だったね。ドキッとして姿勢を正す。だけど、ジロウは嬉しそうに金の瞳を細くしてペロとオレを舐めた。


『うふふ、コウタの金の魔力。いっぱい溢れて来た。さぁ、みんな、お水と一緒に魔力を降らそう』

「「「「「「 プルルルルル 」」」」」」


 龍爺の背中で、プルちゃんとカラフルスライムたちが嬉しそうに身体を震わせた。ひゅるるるるってお水を出すと、その水は金の魔力を溶かして雨のように、ううん、霧のように人々の上に降り注ぐ。ジロウが柔らかに風を吹かせて、低い地面にも、路地の裏にも、扉の向こうにもキラキラと輝いた金の魔力がふわりふわりと入り込む。

 オレの魔力を浴びた人たちは、オレと同じに頬を桃色に輝かせ、にまにまとその瞳をとろけさせていった。炎を上げる場所の上ではスライムたちが固まって集中放水。消火されればじゅわじゅわと白煙を上がる。そして、その白煙が金の魔力と交わると白く発光しながらゆっくりと元の形に戻していった。



「し、信じられ......な......い」

 うん、そうだよね。オレもびっくりだもの。酷く壊れたところや、死んでしまった人たちは戻らないけれど。白く発光した場所は時を巻き戻すみたい。傷ついた人たちの痛みが軽減したらいいな。傷ついた心に希望の灯がともるといいな。


 龍爺の背に乗って、みんなの力をたくさん借りて、オレは金の魔力を溢れさせながら、ときおり光魔法に変換させてゆっくりゆっくり王都を巡った。


 ねぇ、ディック様。

 なんだか、とっても不思議。

 オレ、すごくすごく疲れていたの。

 魔力だってぜんぜん残ってなかったの。

 だけど、どうしてだろう?

 金の魔力が溢れてくるの。


 こんなにひどい有様なのに、こんなにみんな、苦しんでいるのに。

 オレばっかり、嬉しい気持ちになってごめんなさい。

 ディック様のもとに戻れたことが嬉しい。

 プルちゃんたちと、人々を救えることが嬉しい。

 あんなに怖かったのに

 あんなに悲しかったのに


 オレの胸は、嬉しさでいっぱい

 だから、だから、金の魔力が止まらないの。




∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴



 怒りに震え、憎しみに呑まれ、恐怖に怯えていた人々は、上空にキラ光る白龍を見た。風で、怒号で、うめき声ですべては聞き取れなかったけれど、女神の遣いが幸せを祈って歌っているようだった。

 赤、青、黄色。夕刻の陽を浴びた白龍は、虹色に光の粒を落として、ゆったりと優しく泳ぐ。温かな煙を降り注いでいるかのようだった。


 白龍の光を浴びた人々は、その手の痛みが、身体の出血が何事もなかったかのように引いていることに気づいた。爆発を繰り返し、多くの人を飲み込んでいた炎が消し去られ、黒煙が白煙に変わる。壊された扉が傾いただけになり、病で伏していた父が歩けるようになったりと、程度の差はあれ、数々の奇跡を目にした。


ー---その隣人は、己の大切な人ではないのか? 与えられる者ではなく、創り出す者になれ。私はお主らの幸せを祈るのみである。


 我に返った人々は王の言葉を胸に秘め、再び王城に集まる。

 王を称えるために。

 奇跡を起こした女神の遣いに感謝をするために。


 生気を取り戻した人々は柔らかな笑顔で、小さな明かりを灯して照らし合うと、姿が見えなくなるまで白龍と王を称えた。そして、皆で肩を寄せ合い、手を取り合って王城の前でゆっくりと眠った。


ー---誰もが、大切な愛すべき隣人として。



 

 

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