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182 終わったのだけれど・・・


 アイファ兄さんと勇者の剣と・・・・。

 悪魔を突き刺した赤と緑の光が、互いの身体から真っ白な光を放って爆発をした。すでにえぐられた地面。深く足型のついたぬかるみ。荒野に点在していた大岩は数少なく、壊れた石柱の残骸が残るのは封印した遺跡跡。たったそれだけの世界で、身を隠す場所もない。


 守るんだ!

 力尽きたソラを、冷たくなったレイを。

 宙に放り出されたオレは赤緑の宝玉をアイファ兄さんに託すと、他に考えることを捨て、ただ愛しい小鳥と切ない友人を抱きしめて落ちていく。きっと大丈夫。だってあの光はオレの魔力が含まれている。



ー---お前ん魔力はお前んもんだ。 やり方が分かんねぇだけで、きっとお前の力になる。

 ディック様の言葉が落ちていくオレに力を与える。凄まじい風圧で飛ばされ、地面に叩きつけられた。


 痛い。

 だけどそれだけ。

 オレはまだ動ける。よかった。ソラ、レイ! 今、魔力を送るからね。


 打ち付けた背中も、擦りむいた頬もそのままに、そっと地面に置いて魔力を送る。真っ白な光が収束すると雨が降ってきた。土魔法で小さな屋根小屋を立ち上げて空間収納からお布団を取り出す。二人を横たえて、再び魔力を送る。ねぇ? 気持ちいいでしょ? 温かいでしょう? だから、だから、お願い。目を開けて! 大丈夫だと言って!


 しゃくりあげたい気持ちを飲み込んで唇を噛む。送っても送っても、オレの魔力も少ないもの、二人の反応はない。雨が、どんどん周囲の温度を下げて、バチバチと土の屋根に打ちつける。さっきの生温かな風がうらめしい。でも、泣いてちゃ魔力は送れない。それに、悲しみに飲まれたら悪魔の思う壺だから、オレは魔力を送ることだけに集中する。




「お、お前、何やってんだ?」

ー---邪魔しないで! ソ、ソラが真っ白になって、こんなにちっちゃくなっちゃった! 魔力がないんだよ! 足りないんだ! 


「ああん? 普通、こんなん造るか? 魔力の無駄遣いにもほどがある」

ー---いいんだよ! だってこんなに冷たいんだもの。レイなんて、氷みたいに冷たいんだから! 温めてるの!


「あーあ、チビッ子、集中しすぎて気づいてないね」

ー---うるさい! うるさい、うるさい! どうしてそんなこと言うの? だったら助けてよ! ソラも、レイも! 助けてよ!


 キッと顔をあげて睨みつけると、すでに空は晴れて、大好きなディック様のお日様のような屈託のない笑顔が飛び込んできた。


「うっ、うっ、うっ、うっ。 ディック、ディッグじゃまぁー-!」

 伸ばされた腕に縋り付いて助けを乞うと、チクチクと伸びた髭とそこかしこの傷から出された血なまぐさい匂い。だけど、ぜったいの安心感が急激に押し寄せてきた。


 最後の一つだという魔力回復薬と、不思議なガラス瓶に入った発光する回復薬をソラとレイに注いでくれた。特にソラは不思議な鳥だから効くかどうか分からなかったけれど、光の粒子が渦を巻いて集まり、ソラの身体に染み込むように纏わりついていくと、ソラはそっと目を開けて『ピピ』と鳴いた。




 勇者の剣の下で悪魔が消滅してしばらく、白い光を含んだ雨雫が周囲に降り注いだ。それを浴びたブレイグさんたちが目を覚まし、朧げな記憶を辿って操られていたことを知ったんだって。ソラやレイを助けた回復薬は冒険者さんたちが提供してくれたもので、ディック様たちの怪我もほどほどに治してくれた。

 オレたちは今、地面に刺さったままの勇者の剣の前に立つ。


「恐らく、悪魔の奴はまだ未熟だったのじゃろう。だから何とかなったが・・・。また次に出て来られてもかなわん」

 分厚い本を前にして先生が言った。


「封印? 封印するの? また、あれ、するの? あ、主ーぃ! 今度は助けてくれよなー?」 

 ディック様の肩に乗ったぐるぐるに縛られたスカが、ディック様の髭にじょりじょりと媚びながら甘えた声を出している。


「抜いたら・・・・。不味(まじ)-よな? けど、こんな綺麗なもん、ここに置いといたら不埒者がすぐに持っていくだろうよ」

 アイファ兄さんがそっと触れる。すると剣がズンズンと大きくなった。剣身は兄さんと同じくらいの大きさだ。


「うわっ、やべー! ビビった! なんだこれ?」

 後ずさる兄さんに、驚いて思わず笑いがこぼれる。兄さんの瞳はいつもの濃茶に戻っていてオレを見る眼差しもいつも通りだ。


「封印といっても、魔王城があった訳でない。この場を封印したって意味なかろう。なぁ、スカイルミナス・タマタマジェスティック殿。お主の見解をお聞かせ願えるか?」

 先生の言葉に、ぴきゃんとスカが飛び上がった。そして、


「・・・・・・・・・・・」

  目を潤るると湿らせて感動している。あれ? いつものスカじゃない。


「は、初めて、ここにきて初めて! 俺様、名前、呼んでもらえたー---」

 がっくし。スゴッと転びかけたけれど、そうだね、やっと敬われたって感じだね。よかったね、スカ。 それで、どうしたらいいのかな?


 スカはごしごしと目をこすって、コホンと咳ばらいをした。そして胸ポケットから小さな手帳を取り出してページを繰り、もったいぶって言った。


「えー、俺様の見解によると、このままで大丈夫。勇者の剣は、しかるべき人にしか扱えないのであー-る! まぁ、つまり、引っこ抜けないし、引っこ抜いた人が持てばいいってことだ!」


「ああん? じゃあ俺が持って行きゃいいってのか? これ、軽くてすげーパワーが出るからよ、ラッキー♪」

 喜び勇んで剣に手をかけた兄さんを、クライス兄さんが止めた。


「待ってください! 本当に勇者の剣だったら凄い発見です! 僕にも扱えるかもしれません。 抜かせてください」

「えっ? あぅ、あー、いいけどよ。お前、剣、苦手だろうが・・・・」


「苦手でもいいのです! 研究するのですから! 戦うのではありません」


 いそいそと突き刺さった剣に手をかけたクライス兄さんは、真剣な面持ちでググっと力を入れた。

 予想通り、剣は動かない。ニヤニヤするアイファ兄さんに急かされておずおずと後ずさる。次はディック様、サーシャ様。もちろんキールさんやニコルもその剣を抜いてみようとしたけど、剣はびくともしない。


「ふふん、やっぱ、俺じゃん! 悪いーな! だが、剣が俺を選んだんだから許せよな」

 アイファ兄さんが再び剣に手をかける。


 ??????

 動かない。


「はー? テメー? ふざけやがって! さっきは持てたろうが? 俺に反応したろうが!」

 怒りの筋を額に寄せて引っ張る。足をかけて、横から斜めから、いろんな角度で試すけれど剣は動かない。そうしているうちに、動けるようになった冒険者さん達が遠慮がちに試したいと言いだし・・・・。


 うん、結局のところ、誰もその剣は抜けなかった。だから仕方なく、ここに置いておくことになった。

 そんな騒動の中、音もなく忍び寄る巨大な魔物の気配。


 ここで?! 今?!

 オレたちはゴクリ唾をのみ、小さな円を描くように皆で肩を寄せ合った。




 





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