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177 封印


「コ、コウタ! 危ないから下がって」

 オレの転移に驚いたクライス兄さんが剣を走らせる。遺跡の入り口から断続的に魔物が溢れている。離れていた場所から見たときには、クライス兄さん達の攻撃は随分派手だったけれど、実際はとっても繊細だ。キールさんのピンポイントの魔法とクライス兄さんの攻撃でバッタバッタと魔物が倒れていった。ドカンという爆発音やピカッと稲光る閃光は、大岩の後ろからレイナさんがぽいぽいと投げつける魔道具だ。


「グルル、グゴゴゴ」

 あぁ、この声はドッコイが喉を鳴らしている音。片手でクマパンチをしながら敵をやっつけ、もう片方の手でオレを抱き、大きな頬を押し付けて来た。白銀のドッコイは、熊らしい濃茶の太毛だったころと同じように、しっかりした弾力。ほの温かい体温で硬モフがすごく安心できて、ほら、オレの口角がゆるゆるだ。


「僕ぅ、こっちこっち! 封印をしに来たんでしょ? えーと、スカスカポンタンは? 一緒に来るって聞いているけれど・・・・・・」

「はぁー-? だれがスカスカポンタンだって? 俺様にはスカ・・・ふぐっ」

 レイナさんなら大丈夫だと思ったのだろうか? スカが前に踊りだしてきて偉そうにまくし立てようとしたのだけれど、茶色い何かが口に放り込まれたようだ。あれ? とろけてる? 頬がバラ色に染まって、うっとりしているみたい。


「チョコだよ。僕ちゃんのおかげでやっと完成したの。あとで食べよう! それより、こっちの魔導書を見て! この魔法陣だ。どこまで通じるか分からないけれど、一応、魔物を封じ込める大規模魔法陣みたい。できる?」

 レイナさんに続き、兄さんの先生が分厚い魔導書を持ってきた。ページいっぱいの魔法陣。これをオレが作るってこと?


「やったこと、ないけど・・・。これ、オレじゃないとだめなの?」

 不安で眉尻を下げる。レイナさんと先生は大きくうなずいた。


「魔力がとてつもなく必要なんじゃよ。キールじゃ、この魔法陣をたどるだけで精いっぱい。しかも、いろんな属性の魔力が必要なんじゃ」

「これは魔法使いが何人もそろって発動するような魔法陣よ。だけど、僕ちゃんならできるでしょ。多分だけど。だってなんでもアリなんだもの」


 そういうことか。でも、さっき、ディック様はスカに聞けって言ったよ。


「スカ。 オレにできる? あと、スカは何をするの?」

 すると、スカが胸を張ってぴょんと飛び上がった。

「俺様、昔、勇者たちが魔王を倒して封印した場面を見たことがあるんだ。すっげー魔法だった。お前、あの賢者に気配が似てるから、きっとできるぞ。まず、なるべく大きな平らな岩の上に魔石を並べる。」

 そう言うと、まるで準備をしていたかのように、先生が岩を指差し、レイナさんはポケットから色彩豊かな魔石をじゃららと出した。


「こういうんはセオリーちゅうもんがあってじゃのう」

 先生が白いひげをわしわしと撫でながら、しわがれた腕でころころと魔石を並べていく。レイナさんは魔導書を見ながら魔石の位置を確認していく。


 ドドーーン、ズゴーーン!


 合間合間に兄さんたちの剣の振動が伝わってくる。こんなに続いていたんじゃ、兄さんたちの体力が持たない。一刻も早くこの場を封印しなくては。そして......、ディック様とアイファ兄さんに加勢してもらって、あの強い悪魔をややっつけるんだ。


「準備はできた? じゃぁ、レイナさん、本、見せて! オレ、魔法陣を作るよ。” 封印 ”って願って魔力を流すから・・・」

 はやる気持ちそのままに、大岩に手をついて魔法陣を観察する。ソラも頭上でオレを守りながらアドバイスをくれるよ。


『魔力は外側から流すのよ。均一に。だけど、細い線や点は力を絞って。上手よコウタ! ぐるり一周するように中心に向かって! 抜けた図形は次の円に移る前に魔力を込めるのよ』

 まるでソラも魔法陣の作り方を見て来たみたいだ。息を殺して慎重に魔力を押し流していく。そうか、魔石に近づくとオレの魔力の属性が変わる。その属性で流すときれいに流れる。だけど、・・・・・・。父様が言っていた光魔法なら、属性を切り替えずにすらすらと流れる。白い光、清い光を意識して流せば、ほら、だんだん魔法陣が勝手に作られていくよ。


「す、すごい!」

「ほう、これは・・・」


 ポトリ。

 汗を一滴垂らして、ふうと息をつく。魔法陣は完成だ。随分魔力を使ったけれど、まだ大丈夫。大気から柔らかでやさしい魔素が下りてきて手伝ってくれたから。光が走るように魔法陣が点滅している。だけど、発動はしない。まだ何かが足りないんだ。スカの方をチラと見ると、スカは顔を輝かせて嬉しそうに見入っていた。


「じゃぁ、仕上げだな。魔法陣の中心に触媒を置くんだ。いわゆる人柱っていうか、一番(いっちゃん)大切な宝石みたいなもんを真ん中に置くんだ」

 したり顔でもったいぶって話すスカを、レイナさんは、むんずと掴んで、不思議なツルをぐるぐる巻きつけはじめた。


「コ、コラーー! 何すんじゃい! 放せ! 放せってば! 俺様を誰だと思ってる?! 神聖なる・・・」

「ふふふ、女神の遣いだって言うんでしょ? 分かってるよ。だから・・・」


 レイナさんのニッコリ笑顔にスカの顔から血の気が引いた。いつものように白旗をあげ、態度を一変させるスカ。


「いやー---! やめてー---! ゆるしてー---! お姉さん、きれいだから! 美人だから! ほら、俺様、なんもできない、か弱い生き物。 ゆるしてくれたら、何でも言うこと聞きますから! いやー---、やめてー--」

 


 スカの悲し気な叫び声をものともせず、レイナさんはぐるぐる巻きになった直立不動の生き物を魔法陣の中心に投げた。その瞬間、魔法陣は大きな大きな光を風船のように膨らませ、黄金色に輝く。その光景は、まるで太陽が二つになったみたいだった。


ズガガガガー------


 轟音と振動。

 まぶしさと砂煙と大きな地鳴りでオレ達は身を屈めた。




 気づいたときには、遺跡は消え、真っ平な地面に栓をするかのように、スカがいた。身体の半分を地面にめり込ませて。


「ス、スカ!」

 オレは走り出すより早く、ドッコイがずかずかとスカに向かって行く。そして、スポンとスカを地面から引き抜いた。穴からは薄黒い煙がしゅわわと出てきている。


 ジョボボボボボボ

 ドッコイはその穴に向かって、あろうことか大量のおしっこをひっかけると、後ろ足でザクザクと土を掘り返して穴を埋めた。


 えっへん!


 どや顔のドッコイに、オレたちは呆気にとられ、そして笑った。


「あは、あは、あははははは! スカ、よかったよ! みんな、ありがとう!」

 封印は成功だ!




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