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176  きいてねぇ!


 金属がぶつかる衝撃音にけぶっては消える砂煙。もともと遺跡しかない荒野だけれど、破壊され、えぐられ、焦げ付いた地面が戦いのすさまじさを物語っている。

 脚や腕を凍らされた兵士たちは、ある者は地面に転がり、ある者は腰まで氷漬けられ、威勢よく飛び掛かった勢いは消え、うめき声ばかりが広がっていく。

 後方の遺跡周辺では、相変わらずピカピカ、ドガドガと魔法の光や攻撃音が断続的に続いている。数は多くないようだが、かれこれどれくらい続いているのだろうか?


 アイファ兄さんの大剣が激しい風を巻き起こしたと思えば、あらぬ方向からディック様の長剣が走る。共に稲妻を纏わせて空気や地面を振動させているが、真二つに顔色を隔てた悪魔は、大きく動くことはなく、ただその漆黒の髪をたなびかせて軽やかに剣を受け、避けている。力の差は歴然だった。


「クッ、効いている気がしねぇ」

 受け流された勢いを殺して、地に足をめり込ませたアイファ兄さんが、ディック様をちらと見て言った。


「ああ、効いてねぇよ。お前ん剣は軽すぎる。もっと食え」

 じりじりと間合いを取って身構えるディック様にアイファ兄さんが笑みを溢した。

「はぁ? 今更か? 今、食ったって遅ぇーわ! それより息、切れてんぞ? 歳か? 長期戦だ。 今のうちに休んどけ」


「ただの運動不足だよ。 こんなの準備運動だ。それより、お前、ちゃんと聞いたんだろうな?」

「だから、効いてねぇってんだよ」

「違ぇえわ! コイツの正体や倒し方だ! ニコルに調べさせたろう?」

「はぁ? 何、勝手に俺のこと、調べてんの? 聞いたんならやってんだろうが! こんなバケモン情報があるか! 親父たちこそ、俺に情報寄越せってんだよ」

「早すぎんだよ、合図が! ここまで来るのが精いっぱい。大体なぁ......」


 二人の痴話げんかを聞いてか聞かずか、悪魔はニヤと笑って指を鳴らした。


ー---パチン


 召喚した兵達の合間を縫ってゴブリンたちが沸き上がってきた。

「嫌な野郎だ! ゴブリンは嫌いなんだよ」

 ニコルが後退してジロウをけし掛ける。のんびり屋のジロウが俊敏に駆け回って鋭い爪で一掃した。


「すごいよ、ジロウ! かっこいい!」

 思わず出た拍手に、アイファ兄さんとディック様がオレを睨んだ。


「「 かっこいいのは俺だ! 」」


 えっ? そこ? 今はそれどころじゃないのだけれど。一瞬で緊張が解けて、オレは再び再会の喜びに浸った。


「うん! 二人ともかっこいい! すごくすごくかっこいい」

 瞳の端に涙を浮かべて、さぁ、回復の魔法をたくさん送るよ! 元気になって! パワーだって、うんとあげちゃって! 油断なく、あの怖い悪魔をやっつけて!


 辺りに漂う金の魔力。ううん、回復強めの真っ白な光だ。金の魔力は悪魔が喜ぶからね。オレは父様と母様に抱かれて満天の星を仰いだ夜を思い出した。


ー---光魔法って言うんだ。

 そう、父様が語ってくれた冒険譚。

「ひかいまほう?」

「そう。聖なる魔法なんだけど、悪い心を混ぜ込まないように、女神様みたいなきれいな心で放つ魔法だよ」

「むつきゃしい?」

「あぁ、とびきりね。人は誰だって邪念、っていうのかな? 悪い心がちょっとはあるのさ。」

「わゆいここよ? とおたまも あゆの?」

 父様の毛布にくるまって満天の星を見上げていると、母様がベリーの小皿を持って隣に座ってきた。

「ちょっとー、シル! 私を引き合いにしないでよ! それより、さっさと私の活躍を話してあげて」

「かあたまも、わゆいここよ、あゆの?」

「うふふ。秘密! だけど、魔王をやっつけるには光魔法だけじゃ駄目なのよ」

「だめなの? じゃぁ、負けちゃうの?」

 コテンとオレに頭を預けた母様が、遠い星々を1つ1つ指でさして笑った。


「あの白い星が、父様の光魔法ね」

「じゃあ、あの黄色の星がサチの雷剣だね」

「そして、ひときわ大きな星がスットコ熊爺。小さいのがドッコイ。力持ちっぽくない?そらから少し離れた青い星はソラ」

「じゃぁ、その ちきゃくの ほしは オレ!」

「ふふふ。コウタは居なかっただろう? まあいいけど」


「見て! あの大きな赤い星がアックス。勇者の星よ。今は赤だけど、明け方には緑に輝く不思議な星ね。うーん、あっちの星をタロウにしようか?」

「あっ・・・」

 気づいてオレは、すくと立ち上がった。


「わかった。みんなの ちかやが いゆんだね」

 すると、父様が毛布を掛けなおしてオレを懐に引きずり込んだ。

「まだ冷える。風を引くぞ。 ほら、赤いべり―と黄色のベリー、甘いぞ」

「うん」

 そう言って口に放り込んでくれたベリー。冷たくて甘くてジューシーで……。


「みんな、っていうのは、私たちだけじゃないのよ」

 再びくっついてきた母様を、父様は嬉しそうに毛布を広げてくるんだ。


「ああ。その場には僕らしかいなかったけれど。そこに導いてくれたたくさんの人の力。それからー---」


ー---ザザン!


 目の前に広がった鮮血に意識が戻ってきた。腹を抱えてよろよろと立ち上がったアイファ兄さんは、後ろを向いてペッと血を吐いた。

 か、回復を! と思う間もなく、ニコルがザバッと液体を浴びせた。


「食らってんじゃないよ! 動きが遅い!」

「うっせー! 一撃は入れたろうが!」

「だが、一撃だ! あんなの、何度もできるもんじゃねぇ! おいコウタ!」


 ディック様の突然の指名に、背筋が伸びた。

「は、はい」

「アイツだ、スッカスカの野郎に聞いて、あっち封印してこい。埋めてもいいぞ」

 アイツ? スッカスカって...…、スカのこと? スカに聞いたら封印できるの? あっちっていうのは、クライス兄さん達が戦っているところ?


『ピ、ピッピピ! コウタ行くわよ! サーシャンは大丈夫?』

 残されるサーシャ様の頷きを見届けて、オレはスカの身体を掴んでクライス兄さんの気配をたどった。


「い、い、いやあああああ! 危ないから! 俺様、怖いっす! ま、守って――――」


 









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