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175 名手と悪手


 ジロウ、ジロウ、どこ? 

「プルプルル!」

 さすがプルちゃん。オレがジロウの気配を探っている間に、見つけてくれた。そしてオレたちは悪魔もろとも転移した。


 視界に広がる荒野。古びた神殿。ごろごろと転がる石壁の向こうに、漆黒をたなびかせた勇猛なジロウの姿を捉えた。そして、そして・・・!


「ディ、ディック様ー?! 」

 とびきりのしたり顔をする義父を見つけて、オレはその胸に飛び込んだ。

「ど、どうして?」

「驚いたか? まぁ、仔細は後だ。まず、アイツをやっつけねぇとな」



 ここはカスティルムの近くの遺跡。そう、あのミツクビガメが出てきた遺跡だ。周囲は何もない荒野。視界の先に王都とカスティルムが小さく見えるけれど、ディック様が思い切り剣を振れる開けた場所だ。


 ニコルが巻き付けた太いツルの先、未だ正体を変貌しきれない悪魔は、不気味な笑みを浮かべて宙に居た。


 深い深い漆黒の髪をどんどん伸ばしながら、奴は二股に分かれた舌をニョロリと出して言った。

「転移か? お前の仕業か?」 

 射貫くような赤い瞳に、プルちゃんが反応してカバンの中で一層小さくなった。

「悪くない。俺様にとっても名手だ」


 徐々に身体を大きくさせる男の背に、翼竜のような漆黒の翼が音もなく生える。ぞくり! ディック様の威圧のように周囲の空気が重くのしかかってくる。


「民衆の力がなくとも、俺様には・・・」

 悪魔が言いかけた時、アイファ兄さんの剣が走った。

ー---ガキッ、キンー--

 ガガガガガ、キキーーーーン!

 風のような速さに、稲光。風圧で砂塵が舞い上がり、またその風で視界が開ける。凄い、凄い、凄い!

ー-----だけど・・・


 悪魔は笑みを絶やすことなく、オレ達に向かって話しかける。

「おいおい、話を聞かん奴らだ。敵役のセリフは最後まで聞くものであろう?」

 「 っ! そんな物語みてぇなこと、やってられっかよ!」 

 剣を取り出したディック様は、サーシャ様にオレを託すとアイファ兄さんの間合いの隙をついて悪魔に剣技を放った。

 

 轟音と共に周囲の空気が膨れ上がる。悪魔の姿が砂煙の向こうに消えるけれど、汗だくのアイファ兄さんとディック様は厳しい目を向けて様子を伺っていた。


 砂塵が徐々に黒い煙に変わっていく。宙で膝を組んだ悪魔は、愉快そうに高笑いをすると、天秤を操るかのように両の腕を開いて見せた。


「ここに呼んだのは、知ってか知らずか? お前たちは敢えて()()を選んだのか? くくくくく・・・・」

 右手の平が薄紫に発光したかと思うと、後方の遺跡から不気味な音が聞こえてきた。この音って?


ー-----ブォオオオオオ!


 直後、遺跡から大きな火柱が上がる。ドドン、ドドンという衝撃音。


 周囲に静寂が戻ったころ、ディック様は片眉をあげて唇を濡らした。

「おめぇにとっての()()じゃねえか? あそこにはキールとクライスを仕込んでいる。おめぇが仲間を呼んだって、大抵のものはアイツらが相手をしてくれるさ」


「くくくくく・・・。面白い。あの頃を思い出す。だが、手はまだある」

 悪魔は左手を薄緑に発光させた。


「ー---なっ?」


 目の前に現れたのはブレイグさん。そして、ギルドマスターに幾人もの憲兵達。あのワイバーン部隊まで赤い目をして悪魔を護っている。


「お前たちに斬れるか? なぁ、猛犬の兄さん。 随分、後悔していたんじゃないのか? おかげて酒が美味くなった」 

 ペロリと覗かせた舌を、アイファ兄さんは正視できていない。その瞬間、兄さんが遠くに吹っ飛ばされた。


「「「 ニ、ニコル?」」」

「 いっ、痛てーよ」


「リーダー、腑抜けるんじゃないよ! さっさとやっつけな! コウタにいい恰好すんじゃなかったの?」

 太いツルを投げて再び引き戻したニコルは、その勢いのまま悪魔に突っ込んでいくが、簡単に護衛達に阻まれる。身を孵す度に()()が腕や頭を突く。蹴りを入れる度に小さな魔石が爆ぜて目を潰し、短剣の横から毒()()が牙をむく。

 兄さんも凄いけど、ニコルも凄い。これがAランク? 兄さんたちの戦い方? サーシャ様とソラのシールドに守られたオレは、ただただ目を見張るだけだった。


「ワオーー----ン」

 ジロウが遠吠えをして加勢してくれた。爪と牙で腕や足を狙う。一振りの尾で風を舞い起し、漆黒の毛皮が光を帯びて白銀の氷粒を舞い上げて。護衛の腕や足は武器もろともあっという間に凍り付き、その手足の攻撃力を奪っていく。


「オ、オレも・・・」

 悪魔が手の平を発光させるたび、遺跡や周囲の敵が湧いて出てくる。直接の攻撃に集中するディック様とアイファ兄さんだけど、微笑みの悪魔に対して、すでに肩で息をし始めている。

 加勢しようと身じろぎすると、サーシャ様がぎゅっと強く抱きしめてオレを拘束する。


「駄目よ、コウちゃんが行っても足でまとい。できることなんてないの。私と一緒にここで見届けるのよ」

「だ、だけど・・・」


 もとはといえば、オレのせい。みんなオレが欲しいんだもの。悪魔だって俺の魔力が欲しいんだ。オレにできることを考えるんだ。


 オレにできること。

 魔法で何か・・・。

 魔法魔法。

 

 考えているうちに気が付いた。オレは戦える魔法なんて知らない。こうしたい、というイメージで魔力を動かして魔法を使うけれど、炎を出したって、どんな威力で、どこをねらって、どうやって致命傷を負わせるか、分からない。魔法は駄目だ。でも、弓も剣も、戦えるほどにうまくない。


 魔法でなく、武器でなく、できること。

 あっ?!


 そ、そうか!











 

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