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171 予想


「おはようございます」

 いつもと同じ朝。メイドさんは初日に会った高貴なお姉さん。今日はサンじゃないんだ。サンにオレの計画を打ち明けたいのに。


「あの、メガネとそばかすの可愛い感じのメイドさんは?」 

 おずおずと聞くと、彼女は含み笑いをしてそっけなく言った。


「お休みですよ。2・3日、まとまったお休みが欲しいと上の者に交渉していましたから。あの方、可愛いものがお好きだと、赤子に熱を入れていましたからね、お一人がご出立されて寂しくなったのでしょう」

「赤ちゃん、出立って・・・?」


 不安げに聞くと、魔術師みたいな黒いコートを頭にかぶせながらクスクスと笑っていた。

「おめでたいことなのです。あの方に召し上げられて、きっと今頃は高位なご貴族様のお子になられているのではないかと。さぁさぁ、今日は魔法の先生がいらしゃいますよ。朝食を召し上がってください」


 せかされて椅子に座る。仕方がない。今日はオレ一人でも計画を実行する。魔法の先生が来るなら、ちょっとくらい魔力がこぼれたっていいかもしれないしね。緊張と不安と、そしてもっと早く動かなかった自分への後悔で、胸がパンパンだ。だけど、気付かれないように一生懸命食べた。


「スカ、ここに入って!」

 プルちゃんと一緒にカバンに入ってもらう。エンデアベルトから送ってもらったオレのカバン。今日はみんな、離れないよ。


 朝食を終えると、オレは急いで赤ちゃんの所にいった。魔法の先生は気難しくて、時間に正確。メイドさんたちはその準備に追われるから、オレが赤ちゃんのお世話を手伝うと喜んで任せてくれる。そこがチャンス。


ー---果たして。


「すぐに戻ってまいりますから、しばらく遊んでいて大丈夫ですよ」

 予想通り。メイドさんは食事を片付けたり本を準備したりと忙しくしている。オレと赤ちゃんだけになった。


「いくよ! プルちゃん、お願い」

ー---シュン!



ー---ガシッ


 え? ガシッ? あれ? 

 王都では安全な場所はない。そう思ったオレは、モルケル村のオレの部屋に転移した。こんなに遠くに転移するのは初めてだったから不安だったけれど、緊急事態。それにプルちゃんが協力してくれる。だけど、なぜ?

 オレは執事のセガさんにがっしりと抱きとめられている。そして、メリルさんもいる。


「し、執事さん? どうして?」

「びっくりなさいましたか? いえ、何かあればそろそろコウタ様が転移なさって来るかなと予想しまして。ですが、可愛い赤子までお連れとは。こちらは予想外です」

「うふふ。あぁ、コウタ様! ますますお可愛らしくて! ですが、このご様子だとお急ぎですわね。私が赤ちゃん様のお世話をさせていただけばよろしいのね? ご安心なさって。たとえゴーレムが来ようとも、指一本触らせませんので」

 ニッコリ笑ったメリルさんに、ちょっとだけ不安の風が吹いた。


「う、うん。そう! 赤ちゃんをお願いしたいの。オレ、忙しいから。だけど、だけど、ちゃんと戻ってくるから。じゃぁ・・・」

 そういって踵を返すと、執事さんが珍しく力を込めて腕を引っ張った。


「お渡しする物があります。少しだけお待ちを・・・」

 そう言うと、近くの小瓶からたくさんの小さな四角い包みを取りだした。


「ブルの乳で作ったキャラメルです。気候が良くなってきましたから、キャラメル作りは終わりましたが、コウタ様の空間収納でしたら溶けないでしょう?」

 子どもみたいな銀杯色の瞳に、うるると視界が歪む。

「これからなのでしょう? 泣いてはいけませんよ。 何をされようとしているか、私には予想ができませんが、決めたのでしょう? 大丈夫、そのお心をご信じください」


 話す時間がないことも、安全でないことも、一人で動き出したことも全てお見通し。それでも行かせてくれる。そんな瞳に、やさしさに、一人前だと認めてくれたみたいな気がして、何も言えなくなった。


「大きな勢力でしたら、すでに3つほど動いて、ぶっ潰してありますから。村への圧力など気になさらなくて大丈夫です。あっ、あと、これをイチマツに」

 小さな手紙をくれたメリルさんは、両手に赤ちゃんを抱えて、満面の笑み。お顔が半分とろけている。


「もし、お会いできたらこちらをディック様かタイトに」

「あっ、あの・・・どうして?」

 オレがディック様に会えない立場だってことすらお見通し。オレは少しだけ困惑した。


「ディック様がお近くにいらっしゃれば、書状か何かを持たされるでしょう?あの方は過保護ですから。お一人でこんな無茶をされることを許すはずがない。ということは、今は私の予想を遥かに超える事態なのかと。ですが、私はエンデアベルト家の執事です。多少の想定外も、それを超える想定外も誤差の範囲。何しろ規格外のエンデアベルト家ですから」

 ぱちん。らしくないウインクを受けると、オレの情けなかった顔が光に満ちたように変わった。


「ありがとう! じゃぁ、行ってきます」

「ご武運を! 必ず、必ず赤ちゃん様をお迎えに来てくださいませ」


 執事さんの深々としたお辞儀姿を目に焼き付けて、メリルさんの赤ちゃんに溶けた微笑みを胸にしまって。

 オレたちは・・・。

 オレとソラとスカとプルちゃんは、囚われの部屋に戻った。


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