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169 隠密スカの報告


「じゃぁ、行ってらっしゃい」


 紅葉葉のようにちっこい手の平に見送られ、俺様はプルルンスライムと転移する。転移先はこの国で一番危険な場所。ちょっとでも気を抜けば、ガシと掴まれ捻り殺される。そうでなくても脳みその最後の一滴まで絞られるような恐ろしい威圧で呼吸できずに窒息なんてことも起こりうる場所。


 俺様は誰かって? 

 時を超えて世界を見守り続ける神聖な女神の遣い。スカイルミナス・タマタマジェスティック様だ。地球では神聖な縁起ものとされる ”鶴”と”亀”を由来にした高貴な生き物。(誰だ?ペンギンなんて表現しやがった奴は。色だけ見りゃペンギンガメだが、頭の先っちょに鶴らしい赤い色が残ってるし、泳げねぇって特徴があるぜ、亀だけど) まぁ、魔物寄りの存在ではある。


 うちの女神さん、地球大好きっ子で、この星も兄弟星にするべくありとあらゆるものを真似た。ただ、星を創った場所が悪くて、豊富な魔素のおかげで恐竜だなんだの進化は魔獣になるし、一度崩壊しかけたから文明はほとんど滅びたし、そのおかげで進んでんだか退化してんだか、生まれて数千年でも近代的になりようがない世界になったわけだけど。まぁ、そんな情報を持ってるってあたりが俺様が聖なる生き物である証拠なわけで。遠慮なくどうぞ、敬ってくれたまえ。


「おう、待ちかねたぞ。早速報告だ」

 野獣みたいなこのおっさんは、俺様の主の父親役らしい。俺様は主と野獣の連絡係として隠密に抜擢された。今日はその報告だ。掴まれた身体が苦しいけれど、精一杯の笑顔を浮かべて開放してもらう。


 (あるじ)は不本意ながら、ちっこい餓鬼だ。まぁきれいな見目をしている。魔力が豊富でなんとなく不思議な気持ちになり、うっかり契約してしまった。(自動的というか)酔っぱらった勢いみたいなもんだ。だけど、それで正解だった。なぜならばこんな恐ろしい輩の味方だからだ。

 

 主も野獣も今は監禁中。自由に動けないらしい。俺様との会話は極秘事項。だから、夜中に真っ暗な主の部屋にいるのだ。プル助が転移するとすぐに視界が真っ暗になるから、俺様の緊張は半端ない。踏みつぶされたら、握りつぶされたらと恐怖が走る。だが、このおっさん、勘が鋭く、今のところ致命傷はない。


「・・・・・・そうか。まぁ、現状維持だな。赤ん坊は三人か。数が合わねえのが気になるな。あと・・・、お前、首飾りの行き先、尾行して突き止めろ。そこが本星だ。まぁ、検討はついている。確証が欲しい」

「いや、いやいやいやいや、無理です! 見つかったら踏みつぶされます」

 全力でお断りをする。俺様、何の力も持たないキュートでひ弱な生き物だ。今までだってクマのドッコイに寄生するように生きて来た。


「つぶされりゃいいぞ。プルがそこまで連れてってくれる。なるたけ遠くでつぶされろ」

「いやいやいやいや、無理です。死んじゃいます」

 ああ、この人たちは。高貴な生き物に対する畏敬の念がないというか、なんというか。


 不機嫌な瞳に汗が身体じゅうから滴り落ちる。

「お前、ドッコイと何年生きたって言ってたか?」

「せ、千年。・・・・・・いや、だって、それとこれとは・・・」

「じゃ、いいじゃねぇか。もう十分生きたんだ。俺達の役に立てりゃ本望だろう」


 体中の血液が赤から青に変わるかのような冷酷な言葉に気絶しそうになった。すると突然、扉が開かれ部屋がオレンジの光で照らされた。



「辺境伯。誰とお話で? 大人しいと思ったらこんな夜中に密談ですか?」

 黒いマントを羽織った男が嬉しそうに入ってきた。


「誰が・・・? 誰と話してるって?」

 頭の後ろで腕を組みなおした野獣が、得意の威圧を放ちながら返した。俺様は硬直して固まっている。こんな時は必殺人形スキルの発動だ。


「おや…? どこに隠れた?」

「何のことだと聞いている。俺はずっと一人だ。離れ離れになった我が子を思い出して感傷にふけってるんだよ。館の者との接触を絶ったのはお前たちだろう。誰一人ここに来ちゃいないし、誰も俺と話してもいない。俺一人で感傷に浸ることすら制限するのか?」

 徐々に高まる語気に、見張りの黒マントが一歩脚を引いた。


 野獣は俺様をガシと掴むと、男の鼻先に突き出した。早鐘のように鳴り響く心臓に、必死で静まれと祈る俺様。


「俺は可哀そうな親父なんだよ。まだ幼いアイツの近くにいてやれねぇんだ。お前にこの不甲斐なさが分かるか? 俺達が何をした? 手前らに管理されるようなことは何もねぇって言ってんだろうが。」

(怖い怖い怖い怖い、近い近い近い近い、バレるバレるバレるバレる、たすけて~)

 ベシッ

 ヒューーーーーーーン ドサッ


(よかった、ベットの奥だ。壁にたたきつけらんなくて。死角に飛ばされて。は~命拾い)


 野獣の勢いに押され、鼻先に突き付けられた俺様をはたき飛ばしたい男が忌々しく背を向けた。


「民衆を騙した罪は重い。あの子を我が者にしようとした罪も。時期にあの方が裁いてくれます。たとえ、国の英雄であろうと。無敵を誇るエンデアベルトであろうと。あの方のお力は一国どころではないのだから」


 男は扉の外で待つ部下に部屋の中を探させた。俺様はその間中、必死で身体を硬直させて耐えた。人形の振りをして・・・。


 しばらくすると部下たちも部屋を出ていった。野獣はふうとランタンを灯して外を見た。


「これを持って戻れ。アイツの所とここに1つずつ。スカ人形だ。無理はしなくていい。しっぽを掴まれんな。ただ・・・、勘でいい。不味いと思ったらバラせ。そして俺達を呼ぶんだ。やべー日が近い」

 野獣は俺様に等身大の人形を背負わせた。どこに隠れていたのか、プルが現れ、ひゅんと主の建物の外に転移した。ここから門が開くのを待って、中に入って主の元に行く。そういえば......、ドッコイの奴は何をしているのだろう。そして。


 主が、日々、少しずつ金の魔力を失っていることを報告するのを忘れたことに気づいた。










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