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162  隠密は・・・



 白い魔石が散りばめられた首飾り。確かに軽い。そして、ほんのり金色が滲みでている。ブレイグさんは、魔力の色だと教えてくれた。


 魔法使いには得意な魔法がある。それがその人の属性だ。生活魔法程度の簡単なものならば魔力持ちなら大体使えるのだけれど、得意な属性の方が威力も強くコントロールがしやすいそうだ。たとえば火属性が得意なら赤い魔石になり、料理人や鍛冶師など火を扱う職に就きやすくなる。また、炎の攻撃魔法が強くなるんだって。ただし、幅広く攻撃できるのか、ピンポイントで高威力を出すのかは人それぞれらしい。

 魔法使いのキールさんは炎と氷魔法が得意だ。きっと白い石は赤や青になるんだね。火属性と水属性。得意属性が2つもあることは珍しいそうだ。だけど、たくさん鍛錬したから範囲は小さくても雷撃の威力は強いし、土魔法なら広範囲に変化させて使うことができる。


「コウタ殿は黄色ですから土魔法が得意のようですね」

 にっこり笑ったブレイグさんが、魔法に詳しくなくてよかったとオレは胸をなでおろした。黄色く見えるオレの魔力。ジロウ達が言うもの、きっと金色。得意の属性なんてきっとない。全部が使える不思議な魔力だ。きっと賢者の父様と魔法剣を使った母様の特別な魔力が混ざっているからだよね。そのことは内緒。それくらいはオレにだって分かる。


 つけられた首飾りを外そうと引っぱったりねじったりしてみたけれど、どうも自然に外れるのを待つしかないらしい。普通は1か月くらいかかるらしいんだけど、どうもオレは既に二つ目。いったいどれくらいオレの魔力を吸い取っているのだろう。怠いはずだ。


 しばらくブレイグさんと話し込んだオレは、いつの間にか眠ってしまっていた。窓から見た小さな空は既に薄暗い。きっと西の空にはきれいな夕焼けがでているだろうと思わせる。ソラに見てきてもらいたいけれど、どうも結界が張られていて、破らなければ遠くまでは行けないと言っていた。それにオレの魔力がなかなか元に戻らないからそばを離れないでいてくれる。ありがとう、ソラ。


 目覚めたときは、ブレイグさんは既にいなくて、朝とは違うメイドさんがいた。やはり名前は教えてもらえない。同じ黄色の髪に、同じお仕着せ。朝の人より少しふっくらしていて頬が桃色の可愛い人。(朝の人もきれいな人だったよ)

 豪華な夕食を食べれば、することがない。オレはメイドさんをつかまえて情報収集をする。片づけを手伝えば退屈もしないしね。そして、やはり少し動くだけで眠気がやってくる。厄介な眠気だ。だけど、すでにたくさん寝たのだから、きっと大丈夫。オレは贖うことをやめて、睡魔を受け入れて早々に眠った。



 思った通り。夜中に目覚めたオレは、ベッドからそっと起きだす。時計を見れば日付が変わったばかりの時刻だ。周囲を伺えば窓辺に小さなランタンが灯されていて、扉には鍵。きっとランタンの炎が燃え尽きたころ、見回りに来るのだろう。エンデアベルトでも王都でも、オレが困らないように一人にならないように誰かが一緒にいてくれたけれど、ここではきっと見張りだ。優しい顔をした敵に惑わされないようにソラと目を合わせた。


 もうすぐランランの炎が尽きそうだ。うっかり眠ってしまったら起こしてねとソラに頼んで、じりと見回りが来るのを待つ。赤ちゃんの泣き声が小さく聞こえて、しばらくすると夕食の時のメイドさんが部屋に入ってきた。予想通り、ランタンを取り換えて部屋を出て行った。しばらくは来ないはず。


――――シュン!

「わ、わわわわ」

    ――――――ドスン!


 転移したのはオレの部屋。留守だと分かっている部屋には誰もいないはず。そう思って転移したのに、オレはディック様にガシと抱き留められていた。


「ディ、ディ・・・」

 ディック様の首にぶら下がって抱きつこうとしたら、シッと唇に指が押し当てられる。そうだ。今、オレがここにいること、知られちゃダメなんだ。


 無事に会えた喜びでぽろぽろぽろぽろ涙がこぼれた。ディック様は大きな手の平でオレの頬を包んでくれた。だけど、時間がない。すぐに帰らなくては。


 大丈夫だから心配しないでと、取り急ぎ伝えると首根っこを押さえられて、宙ぶらりん。今日は全然身体を動かしていないから、なんだか嬉しくて「ひひ」と声が出た。


「静かにしろっていったろう?」

 暗くてよく分からないけれど、うすぼんやりとした瞳にはまぎれもなくオレが移っていて、嬉しくて、だけど悲しくて、辛くて苦しくて、うっぐうっぐとしゃくりあげてしまう。

「おま、それじゃ帰れねえだろう? いいか、よく聞け。分かっちゃいると思うが、幾つかの組織が動いている。 単独なのか、連携しているのかは分からん。お前、賢いから寝返ったふりして探って来い」


 思った通り。ディック様はオレを取り戻すために動いてくれている。手荒な方法だと同じことの繰り返しになるから、根本から叩こうとしてくれている。オレは今日集めた情報を端的に話した。そして、定期的に会いに来ると言うと、首を横に振って断られた。


「切り札は残しておくもんだ。いいか。お前は最後の最後に戻ってくればいい。傷つけられることはないのだから。危険なことはするんじゃねぇ。代わりに・・・・」

 

 目の前に差し出されたのはスカ。ブルブル震えて瞳いっぱいに涙をためている。


「コイツは人語がしゃべれっからよ。それに結構賢いぞ。プルと一緒に連れていけ」

「えっ? プルちゃんと?」

 ことり、首を傾げれば、その声は不謹慎ながら楽しげだった。


「転移は大きく魔力が動く。もうちっと制御できるようになって来い。プルがいりゃ、お前の魔力に注視してる奴らも誤魔化せるし、お前の居場所が分かればいざとなった時には俺達も駆けつけてやれる」


 力強い言葉で、オレの胸が一気に高鳴った。すごい、すごい。やっぱりディック様はすごい。この絶対の安心感。オレ、絶対戻ってくるからね!


「なぁ、スカ。お前、ドッコイと随分長く生きて来たんだろうが。お前、コウタの従魔だから繋がり、分かるだろう? 今からお前はエンデアベルト家の隠密だ。頼んだぞ」

「お、お、隠密ー-?! なんかかっこいい。俺様にぴったり! お任せアレー―。正義の味方、このスカイジャ・・・ふがっ」

(( しずかにー-))


 





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