表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/257

161 敵か味方か


 オレとブレイグさんとの問答をくすくすと笑いながら見ていたメイドさんが、そろそろお昼にしましょうと、部屋を出て行った。きっと持ってきてくれるんだね。オレは上目遣いでブレイグさんを見ると、困っていたブレイグさんの瞳が厳しいものに変わった。


「コウタ殿、私をからかうのは楽しかったですか?」

 悪戯な漆黒を取り上げられたオレは、しゃんと背筋を伸ばして姿勢を正した。真剣な話? いよいよ教えてもらえるのかな? オレの雰囲気が変わったことを察してソラがピピと頭に乗っかった。ありがとう、ソラ。心強いよ。


「さて......。確信の一つ、かな? お父上達は今、お屋敷で謹慎をしていただいている。謀反の疑いがあってね。だけど国の英雄だから下手に扱うわけにもいかん。だからコウタ殿だけがこちらにいるのだ」

「む、謀反? それってどんな? どんな悪いことをしたの?」

 食らいつくオレをハハと笑い飛ばし、今度はブレイグさんが悪戯な瞳を寄越した。


「さぁ、次は私の要求を聞いていただく番ですよ。コウタ殿。エンデアベルトに来る前のあなたのことをお教えいただきたい。いいことも悪いことも正直に。お辛いかもしれないですが、大事なことなのです。本当のご両親のことも、なぜ、四歳のあなたが魔法を使えるのかも含めて」


 あれ? いまさらそんなこと? 確か養子の申請の時に必要だろうって、執事さんが手紙にしたためたはずなんだけれど。 不思議に思ったけれど、オレは順序だててディック様達に話したことと同じ内容をブレイグさんにも話したのだった。


■■■■


「あの......、コウタ殿?  食べるか寝るか、どちらかにしませんか?」

 遠のくブレイグさんの声を聞きながら、オレは桃色の柔らかな肉のローストを口に運ぶ。付け合わせの野菜が飴色に艶めいて、優しいお味でとっても美味しい。デザートの氷菓子までたどり着くために、一生けん命食べているのだけれど、なぜだか睡魔が襲ってくる。

 あんなにたくさん寝たはずなのに。まだ魔力が戻ってこないのかな? いつもならすっかり元気なのに。また怠さが戻ってきたのかな?


 食事に埋もれる前に、ブレイグさんに抱かれてベッドに戻されたオレは早々に眠りにつく。ふかふかのお布団は気持ちがいいな。午後の日差しとふわり穏やかな風がとろりとろりと深い眠りに誘っていく。 ああ気持ちいい。 ちゃぷんと眠りの海に足を突っ込んだその時、けたたましい泣き声で意識が戻された。


「おぎゃぁ、おぎゃぁ! おぎゃぁ、おぎゃあ」


「??? ねぇ、赤ちゃん?」

 きょろきょろと周囲を見回すと、声の主はどうやら隣の部屋らしい。今まで気が付かなかったけれど、赤ちゃんがいるの? うわぁ、オレ、絶対見たい! 赤ちゃんをちゃんと見るのって初めてだもの。期待満面でブレイグさんを見上げると、ブレイグさんはニッコリ笑って頭を撫でてくれた。


「そのうち、会えるだろう。赤子は引っ越し中だ」

「引っ越し中?」

「そうだ。コウタ殿がこちらに来ることになったからな。我々が保護している赤子もこちらに来てもらったのだ」

「今まではどこにいたの? 孤児院?」


 首を傾げたオレを抱き上げて、窓辺に連れてきてくれたブレイグさん。一緒に外を眺めた。


「赤子はどこにいても世話ができる。だが、コウタ殿が健やかに育つには場所を選ばねばならん。当分はこちらでお過ごしいただくから今は急ピッチで整備をしているのだ。もう少しすれば、外で鍛錬もできよう。今しばらくはこの部屋で我慢いただきたい」

 そういって見せてくれた景色。ここが大きな建物から離れた小さな離れであること、周囲をぐるりと壁で囲われていること、空はとっても小さくて、ここが王都なのか町なのか村なのかも分からないことを示していた。


「赤ちゃんは……。普通の赤ちゃんなの?」

 外を見ながらポツリ呟くと、ブレイグさんは頭を掻きながら困ったように言った。

「ははは......。本当に賢いな。 全員、魔力漏れが大きい赤ちゃんだ。つまり、たくさんの魔力持ちってことだな。ここなら魔力が漏れても安心だから」


「赤ちゃんはお母さんとお父さんのもとで育つ方がいいんだよ。こんなところに連れて来ちゃ駄目だ。どうして? どうして、そんなひどいことをするの?」

 じたばたと厚い胸で暴れると、ブレイグさんがよろけながらオレを下ろした。

「危ないです。コウタ殿。 魔力が漏れたらもったいないのです。赤子の純真できれいな魔力が世界の為になるんだから。()()()のために、我々はきれいな魔力を集めているのですよ」

「きれいな魔力? 魔力なんてどうやって集めるの?」


 ブレイグさんはオレの服の胸元をそっと開いた。いつの間に? オレの首には白い魔石が散りばめられた細い首飾りが取り付けられていた。


「これはあの方が作られた魔道具ですよ。余分に放出した魔力を貯めるものです。軽いでしょう? 赤子にも同じものがつけられています。満タンになったら外れるのですよ」

 これ、きっとこれのせい! オレがすぐ眠くなる原因はきっとこれだ。魔力が吸い取られているからだ。余分に放出した魔力っていってるけど、きっと違う。ちょっとずつ、ちょっとずつ奪い取ってるんだ。


 オレはブレイグさんが敵の一人だと感じ取った。そして、きっと森での事件にも関与しているのだと確信した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ