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159  可能性


「おい、坊主は寝ちまったか? あとで証言、取らせてくれるだろうな? 学校区のときのように誤魔化すんじゃねえぞ?」


 ギルドマスターが不満げに言った。俺はコウタを此処に来させたくはなかったが、アイファたちの生死がかかている。大人しく館で留守番ができるとは思えなかったから仕方なく連れて来た。随分体調が悪そうだったから、限界ならそれでいい。余計なことを考えずに眠れるときに寝てくれればと、表情を緩めた。


「うふふ、可愛らしいですわね。隣室に仮眠用のベッドがありますから、寝かせてきますわ」

 ギルド員がコウタを抱こうとするが、俺達は皆、鋭い目つきでけん制しながら断った。そうか、お前たちも気づいたか? だったら話が通しやすい。鼻筋にしわを寄せて笑ってやれば、意図に気づかない奴が困惑の表情をした。


「そいつだろう? 天下の英雄でも意見が通らんっていうガキは? 役人らがこぞって保護したがってるって? ()()、随分甘やかされてるなぁ? いっちょ前に魔法を使うなんて噂もあるが、実際のところはどうなんだ?」

「俺のおもちゃに手を出すんじゃねぇ! 今はコイツの話じゃないだろう? キール、話してやれ。 ()()が限界まで魔力を使って強制送還されるとこまでよ」

「「きょ、強制送還ー-?!」」


 絶句する二人の前で、キールは静かに昨夜のことを話した。クマ公のことは巧みに誤魔化し、ジロウと共同で魔法を使ったと……。


「俺は雨の後、地上に戻ることで魔力を使い切って気を失ってしまったから、よく覚えていないが......。アイファんらが魔法都市スペルバーグで手に入れた高価な転移石を使って送り返してくれたんだと思う」

「僕は研究のために転移石の対を借りていてね。強烈な光の後、転移石が割れてキールさんたちが僕の部屋に転移してきたから間違いないよ。部屋に戻れば空の魔石がいくつもあるから、必要なら持ってこさせるけど」


 ギルドマスターは、うーんと天を仰いで、キールの話と持っている情報とを繋ぎ合わせ始めた。俺達はコウタの柔らかな漆黒の髪や白い頬をなでながら、ほんのひと時の癒しを得ながら結論を待った。




「昨晩の火事は仕組まれたもの。ここまでは確実だな。あとは誰が、何の目的で、と言うことだ」

 コウタが眠ったことで遠慮がなくなったのだろう。奴の瞳が鋭く俺達を値踏みするかのように動いている。だが、少なくともコウタを狙うものではなくなっている。クライスもキールも、サーシャまでもがごくりと唾をのんだ。


「可能性は3つ。1つ目は()()()()()()にそこに居合わせた奴らを狙った野盗の襲撃。だが、この可能性は低い。あそこの草原はそこそこの広さだ。互いに連絡を取りつつそこで野営する奴らを狙うなんざ普通は無理だ。まぁ、普通の奴らならあんな森ん中で野営しようなんて思わねぇが。無理すりゃ抜けられる、その程度の広さだし、本当に殺るんなら、森の中の方がいい。 二つ目の可能性だ。これは『砦の有志』か坊ちゃんを狙った襲撃だ。お前たちの失脚で利を得ようってやつか、恨みを持つやつか? 坊ちゃんを狙ったんなら、坊ちゃんが命を落とすような危険なことはしないだろうが......、相手はギルドも注目するAランク。普通の奴は手はでねぇ。ましてや後ろにディック、今をときめく英雄がついてるんだ。近衛兵だって二の足を踏むだろう」


 そうだ。そもそもコウタが欲しくて俺達をつけ狙っている奴らも、直接手出しができない理由はそこにある。俺達相手に実力行使は極めて難しいだろう。だから難癖をつけ、あの手この手でコウタを自分の近くに置こうと画策をしているのだ。

 なら、誰だ? そして目的は?


「あー、気を悪くすんな? あくまで可能性の問題だ」

 席を立って窓に歩み寄ったギルドマスターは外を伺って、窓枠にもたれた。ちらちらと外の気配を気にしている。


「ー-で? 三つ目の可能性は?」

 俺が催促をすると、慌てるなとでも言うかのように自分の紅茶を取りに来て立ったまま仰ぎ飲んだ。嫌な気配がする。俺も冷めかけた紅茶をぐびり飲み干した。


「低ランクもいたとはいえ、冒険者たちだ。日々、魔物と戦って糧にしている奴も多い。ましてや、ここは王都だ。いくつもの軍が置かれるここでやっていく奴なんざ、低ランクだってそれ以上の実力がある奴が多い。報酬のいい獲物、割のいい依頼。どこの町より争奪戦は激しい。たとえ手柄を立てたとしても、お前のように特別な目立った獲物が目の前にくるなんざ、奇跡としか言いようがない。 なぁ、ディック、違うか?」

「ミツクビガメのことか? まぁ、あんな獲物がそこかしこに転がられちゃたまらんが......。 お前、何が言いたい?」


 穏やかな奴の口調とは裏腹に、ピリピリとした空気の張りを感じている。周囲を警戒する視線に、クライスの拳に力が入るのが分かった。


「己の立場を脅かす者が邪魔だった。ランクを上げて俺が一番だと認められたかったんだろうよ。お気に入りの坊が、自由にならなかった腹いせ。つまりー--ー三つ目の可能性は、自作自演だ!」


「「「 なっ?! なにを............」」」


「冒険者の大量虐殺、おそらく今までの功績も自作自演だ。王を思い通りに操ろうと強さを見せつけ、主要部を壊滅させることで国力を下げようとした謀反の疑い。一族共に捉えろ」


 奴の合図で窓から扉から、天井から床から憲兵が流れ込み俺達を拘束していく。反撃するのは簡単だ。だが、眠っているとは言え、幼子の目の前で血を流すわけにはいかない。

 そう、奴らの狙いはコウタ。ぐっすり寝入るアイツをサーシャの腕からもぎ取るようにかっさらっていった。俺は、らしくもなくギリと唇を噛む。どこまでが計算だ? ここでか? 昨晩からか? それとも・・・・・・

 









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