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157 証拠



「ニ、ニコル?! 何で? なんでプレートがここにあるの? これって身につけてなきゃ駄目なやつでしょ? 簡単に外せないようになってるって、アイファ兄さんが見せてくれた……」


 オレの全身から血の気が引いた。鼓動が大きくなって、戻らない魔力のせいで倒れそうだ。どうして? どうして? 不安だけがぐるぐる過ぎる。


「ああ、ニコルは何でも屋だからね。潜る時は外すんだ。もしかして、ううん、恐らく。わざとだよ。カードだと敵に拾われるかも知れないから。暫く戻らないっていうメッセージさ」


 拾い上げようとしたオレより早く、キールさんがプレートを手にとって、まじまじと確かめながら教えてくれた。

 潜るって? 外すって? 落とすって? わざと?

 

 だってプルちゃんが拾うとは限らない。大事なプレートだもの。伝言なら他に方法があったはず。まさか、まさか?



 そんな時、玄関の大扉が大きく開いた。サロンのオレ達が飛び上がるような大きな音だ。


「なんだ、なんだ? 無礼にもほどがある。ここがエンデアベルト家だと……」

 執事のタイトさんの制止を振り切って、主人自らいそいそと席を立つ。ディック様が扉の取手に手をかけようとした時、ガチャンと扉が開いて、憲兵達が流れ込んできた。


「失礼を承知で参りました。英雄殿には大至急ギルドまでお越し願いたい。できればご家族も!」


 兜にカラフルな羽根をつけた兵士さんがディック様の前に傅き、書状のような巻物を渡した。ディック様は急いで巻物を開いて目を見開くと、オレ達を振り返った。そして、オレを見て難しそうに顔をしかめた。だけどすぐに唇をぎゅっと噛み締めて静かに言った。


「行くぞ。話は馬車だ。キールも来れるか? ()()はいらねぇ」


「まさか、キール殿はご帰還で?! いえ、あの、その……。すぐにご支度を」


 不思議な顔をした兵士さんにぐるり周囲を固められ、オレ達は急いで支度をした。従魔は留守番だって言われたけど、ソラだけは許して貰った。


 オレ達は四頭立ての大きな馬車に乗ってギルドに向かう。説明は馬車でって言ったのに、ディック様は難しい顔をして黙り込んでいる。サーシャ様もキールさんもクライス兄さんまでもが怖い顔だ。馬車の不規則な揺れで瞼が落ちそうだけれど、不安が先立って眠れない。



 貴族街を抜けて商業区に入ったあたりでディック様が重い口を開いた。


「深夜からの騒動で気が付かなかったとは。俺も耄碌(もうろく)したもんだ」

 視線を追って街を見る。いつもの光景だ。陽が少しずつ傾いてきているけれど、いい天気。サーシャ様を見上げると、細い柔らかな指でオレの髪を撫で、そっと笑った。


「よく見て。人々の顔。服装。いつもより活気がないっていうか、元気がないっていうか。汚れた人が増えていない?」

 言われてみればそんな気がする。オレには分からないけれど、感覚が鋭いディック様達は空気が変わったみたいだって言う。だけど馬車の中の方が思い空気だ。


 ギルドに着くと、冒険者達がざわついた。いつもの英雄を見るような羨望ではなく、押し黙った憂えた瞳だ。怖くて不安で悲しい雰囲気。まるで死刑を宣告されるかのようだった。


 キールさんを見て、驚いたり、ヒソヒソと噂をしたり。きっと昨日の襲撃や火事に関係があると直感した。



「おう、ディック。久しいな。悪い、俺は礼儀が分からんから、冒険者だった男と会うってことで許せ」

 目の上に大きな傷跡がある熊みたいな人が握手を求めてきた。ディック様はパチと手を合わせて、誘われるまま奥の扉に入る。ボロボロだったランドのギルドマスターの部屋と違って、館みたいな豪奢な作りだ。マスターは幾つもの魔石のボタンを押して、防音の結界を張った。


 熊みたいなギルドマスターは目の上の傷跡を指でなぞって気持ちを落ち着かせると、チラリとキールさんを見た。


「あー、キールがいるなら昨夜の話が聞けるな? まずは聞かせてもらおうか? 何があったか……」

 指を組んで前のめりになったマスターに、ディック様が首を横に振った。


「こっちが先だ。見せろ。 証拠と根拠だ」

「おいおい、慌てるな。 話を聞かなきゃ根拠もへったくれもないだろう?」

「いいから見せろ! 違ってたんじゃ証拠とは言えねぇ」


 凄い剣幕でバキバキに威圧をかける。オレは怠いところに威圧を受けてクラクラしてしまった。


「父上! ストップ、ストップ! そんな力押しでいったら、ほらコウタが倒れそうだって」

 オレの顔色に気づいたらクライス兄さんが止めてくれたおかげで、なんとか気を失わないですんだ。



「チッ! 仕方ねぇ。証言、変えんじゃねぇぞ」

 そう言ってギルドマスターは、腰に下げた収納袋から一枚のコートを取り出した。黒く煤けて随分汚れているけれど、特徴的なキャロットオレンジが垣間見える。ポケットがいっぱいついたコートだ。オレは驚いてひとつポケットの中を弄った。ここには確かーーーーーー。


 あった。干しトカゲ。


 猛禽にあげるご褒美だ。じゃぁ、こっちのポケットには? やっぱり! オレにくれる棒付き飴。クッキーはバリバリに割れているけれど、やっぱりこれはニコルのコート。


「やっぱ、ニコルんだな? 昨日、森で火事があったろう? 今朝、調査に入った冒険者が拾ってきた。あと、もう一つ……」


 そう言って取り出したのはアイファ兄さんの大剣だった。オレ達はゴクリ、唾を飲み込んだ。


 


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