153 待ってるから
戻って! 戻って!
お願い!
お願い!
ーーーーぱあああああああああああああ!
白い光が一面に広がった。
もうもうと立ち昇る黒煙を、赤く照らされた木々を、重苦しい漆黒の空を、真っ白な光が覆う。と、思うとドッコイが胸をかき乱して苦しみ出す。
「ドッコイ、……だい、じょぶ? ドッコ……イ」
また間違った? どうしよう。ドッコイ、とっても苦しそうだ。
オレはドッコイを抱きしめたかったけれど、もう力が入らない。オレを受け止めたソラの上でポロポロと涙を流した。
倒れた兄さんの横で、キールさんを背負ったジロウがクインと小さく鼻を鳴らす。泥の中で疲れ切った兄さんが手招きしたから、ソラがふわとオレを渡した。
しばらくすると、グオングオンと苦しんでいるドッコイから金の光が溢れ出した。白銀の毛が金の粉を纏って、とっても綺麗だ。まだ暗い森と空を照らして、神秘的な輝きを見せた。
ーーーーすると、ドッコイの身体が小さく小さくなって……。オレよりちょっと小さい子グマになってしまった。
丸いお耳。スンスン鳴らす大きな鼻。丸いふわふわの尻尾だけが漆黒で、肉球はツヤツヤの桃色だ。
「ド、ドッコイ?! か、可愛い! 可愛いよ」
兄さんの手から飛び出すと、力が入らないからころんと転がってしまった。ドッコイもオレに向かってころん! なんて、なんて可愛いの?! 二人(?)で泥だらけで向き合った。
「「ぶっ! あは、あははははは!」」
思わず吹き出した兄さんを見上げると、後ろでニコルも大笑いしていた。さっきまでの緊張が解けて、オレもドッコイもソラもジロウも、プルちゃんも、そうスカだって大笑いだ。
ああ、よかった!
ガタッ、ガタガタガタ。
突然、大地が小さく震える。地震だ。今日は次から次へと事件が起こる。
「でかいぞ! 掴まれ!」
みんなで兄さんの元に集まり、互いに抱き合って揺れをやり過ごす。小さい縦揺れがどんどん大きくなって、ズズズと大地が持ち上がっていく。
? 持ち上がる?
足元の水がどんどん引いていき、柔らかな草が長い葉を持ち上げていく。さっきまで煤けた草原だった場所が、小さな丘になり、焼けこげたチューリッシュの木が、再び枝を空に伸ばした。
燃えてしまった木々は、全て元通りにはならなかったけれど、小さな細い若木や新芽をつけた枝を茂らせて、確かに燃えてしまったはずの森は、発光しながら蘇っていった。
「おいおい。 マジかよ?」
「あの丘って、リーダーとキールがえぐる前の姿じゃん」
「ああ……。やらかす前に戻ったってこと……か?」
訝しげにオレを見つめた兄さんに、オレは全力で首を横に振った。違うよ。オレじゃない。だってもう魔力だってなかったし、こんなに広く地形を変えちゃうなんて無理だ。
「ヘッ! さっすが俺様の主だぜ。やることが半端ない。どうだ? 俺様の慧眼はなかなかだろう?」
突如、みんなの前に躍り出たスカが、自慢げに胸を張った。ベシとドッコイが背を叩き、ベチと潰れたので、オレはそっと手の上に乗せてやった。
「オレのせい?」
不安げにスカに聞く。スカは満面の笑みを浮かべてオレの手の上で仁王立ちになってドヤ顔をする。
「主、言っただろう。元に戻れって! だから森が答えた。風が土が答えたんだ。お前、チビのくせにやるじゃねえか。魔力以上の力を発揮するなんて」
「魔力、以上の力?」
キョトンと首を傾げれば、ピョンと肩に飛び乗って、短い羽根でオレの頬をペシペシ叩く。
「魔力以上に決まってんだろう? お前、もうボロボロだし。金の光を失ってるぜ? こんなことができんのは……」
言いかけたスカの顔がサッと青くなってぶるぶる震え始めた。兄さんの顔が引き締まる。ジロウもグルルと唸り始めた。兄さんはゴシゴシと鼻を擦ってドッコイを見ると、再び剣を握りしめて言った。
森の奥に赤い瞳が、幾つもこちらを伺っている。倒れていたのか、地面から起き上がったみたいな動きだ。潜む息遣いが、殺意がオレにまで届いている。
「チッ。ドッコイは無事だな? しつこい奴らだ。プル! キールとコウタを連れて帰れ! 邪魔だ」
プルちゃんがぴょんと前に躍り出た。
確かに。動けないオレたちは兄さんの邪魔だ。だけど兄さんだってクタクタだよ? 一緒に行こう。
兄さんは、キールさんをぐるりとロープでジロウに縛りつけると、眉を寄せたオレと小熊のドッコイもジロウに乗せた。それからゴソゴソと荷物をくくりつけてプルちゃんを掴んだ。
「行けるな? 王都の……、クラの部屋だ。そこに転移しろ! それからコイツをオヤジに渡したら戻ってきてくれるか?」
「プルプル、プルルルル!!!」
「リーダー! アイツら、来るぞ! 構えて!」
油断なく周囲を見張っていたニコルが兄さんを急かした。
「兄さんは? 兄さんだってクタクタだよ! 戦えないでしょ? 一緒に……」
「アタシ達は大丈夫! リーダーが言ったろう? プルがもう一度戻ってきたら帰るよ! 流石に今のままの二人じゃ分が悪い」
「プルの転移は速い。心配すんな! 俺はAランクのエンデアベルトだぜ? 普通の奴が束になってかかってきたってやられるもんか。向こうで待ってろ! さぁ、行け! キールを頼んだぞ」
「あ、主ぃ! 急いでくだせー! 俺が、俺様が危ないっす」
ジロウの漆黒をギュッと掴んで、オレはプルちゃんに合図をする。待っててね! 兄さん。すぐに、すぐにプルちゃんに戻ってもらうから。
ギュッと目を瞑った瞬間、ぐにゃりと空間が歪んでオレたちはプルちゃんの魔法陣に包まれた。
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