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152 みんな助ける



 兄さん!


 恵みの雨でホッとする間も無く、下を見れば、燃え尽きた草木の泥水が湖を造るように広がっている。オレが掘った地面には渦巻きが作られてゴウゴウと濁流が吸い込まれている。


 水が川となって兄さん達のいる空間に押し寄せているのは間違いない。再び全身が凍りつくように冷たくなっていった。



 グッ、ドゴゴゴゴゴゴゴ、グワッ

         ーーーーーーザザン!


 未だ炎が(くすぶ)る森の一角から、土が盛り上がり、木々が吹き飛ばされ、水柱が上がった。

 ーーかと思うと、たくさんの生き物達が空を舞ってヒュンヒュンと落ちていく。


 ああ、よかった! オレは雨と涙と煤でぐちゃぐちゃになりながら、ソラ達と飛び進んだ。


「はぁはぁ、お、俺、生きてるか? もう、動けねぇぞ」

 小さな岩の上に這い上がったキールさんが息も絶え絶えにオレを見て笑った。兄さんも自慢の大剣にもたれ掛かって肩で息をしていた。

 よかった。兄さんの剣技とキールさんの魔法で地面を持ち上げて逃げてくれたんだ。ニコルだけが元気に忙しなく、転がっている動物や魔獣達を拾い上げて、無事な生き物を放していく。


 あれ?

 ドッコイは?! ドッコイだけがいない!


「兄さん、ドッコイは? ドッコイはどこにいったの?」


 大きな虹鳥から転がり落ちるようにして、兄さんに飛び込むと、兄さんはオレから顔を逸らして黙ってしまった。



「……アイツは、デカ過ぎんだよ。キールが持ち上げる地面にゃ乗せられなかった。だが、普通のクマじゃねぇんだろう?」


 いつもの自信満々の兄さんじゃない。動かない表情。オレは慌てて水を吹き出している場所に顔を突っ込んだ。


ーーーーゴボッ! ゴブ、ボボボ!


「馬鹿! 何してる? あっぶねぇ、溺れるぞ。」


「ゲフッ、ゴホッ。 でも、ドッコイが……」

「……………………………………」


「ドッコイ! ドッコイ! ドッコーーーーイ!」



ーーーードカン! 

  ビュビュ、ジュジュジュジュ!


 少し離れた木々の間から岩が吹き飛ばされてきた。もちろん水柱も上がる。きっとドッコイだ! オレは何度も転びながら新たな水柱の方に駆けて行く。どうか、どうか、ドッコイが無事でありますように。



「ドッコイ!」

 視線の先に白銀のクマを見つけた。


「グルルルル、グワァッ!」

 振り返ったドッコイは、真っ赤な瞳でオレを睨みつける。ドッコイじゃない? ううん、ドッコイのはず。


 振りかぶった爪がオレに向かう。

ーーーーガキッ!


 兄さんの大剣が爪を捉えた。グググっと押し戻された兄さんが、歪めた顔でソラを呼ぶ。


「連れてけ、ソラ! 邪魔だ」

「い、嫌だ。 兄さん、ドッコイだよ。優しい友達、ドッコイだよ」


 オレの腰をくちばしで啄んだソラは、グングン上昇する。ドッコイ、様子が変だ。


 ガキン、ドガガガ!


 剣と爪とがぶつかり合う嫌な音が響き渡る。ざんざと降る雨と、ビュンビュと吹き出す水の音が小さく感じるほどに。


「アイ……」


ーーーードガッ、ヒュン…………


 真っ青な顔のキールさんが魔法を放った。でも、勢い及ばす、ドッコイに弾かれて空中で消滅した。ニコルがポーション(多分、魔法回復薬だ)をぶっかけたけど、ぐったりと気を失ってしまった。


「コウタが悲しむぞ。ドッコイ。お前、自分でも分かってんだろう?」

 賢いドッコイ。人語は話せないけれど、こちらの言っていることは伝わっているはずだ。でも変だ。口いっぱいによだれを垂らし、グルグルと唸りながら兄さんに牙を見せている。


 再び、兄さんとドッコイの打ち合う音が響く。目で追えないほどの速さだけれど、時折、拮抗して力比べになると、泥にめり込む兄さんの足に分の悪さを感じて胸が締め付けられた。


 こんなの、嫌だ。いつものドッコイじゃない。それに、いつまでも兄さんの体力が持たない。どうしたの? ドッコイ。あの赤い目。まるで、まるで……。


 たくさん魔法を使って、オレもクタクタだ。どれだけの力が出せるか分からないけれど。もしドッコイに何かの力が働いているのなら、オレが助けなければ。


 ジタバタとソラのくちばしの先で(あがな)うと、改めて背に乗せてくれた。ソラはシュンと一段小さい青い猛禽になり、旋回しながらオレをドッコイの背に運ぶタイミングを測る。


 ソラは父様達と一緒にドッコイと旅をしていたから、ドッコイの動きがよく分かるんだね。そして今が普通の状態でないってことも。



ーーズルッ、ズズッ


 泥に足を掬われた兄さんが体勢を崩した。ソラ、今、放して!


 ガシッとドッコイの背に乗って、硬い銀毛の奥に魔力を送る。ドッコイ、しっかりして! 赤い目は駄目だ。兄さんと戦わないで! お願い、ドッコイ。


 ガシガシとオレを掴もうとする爪を、ディック様の背でするように逃げながら魔力を送ってドッコイの体内の変化を探る。だって穏やかで優しいドッコイから、嫌な気配が吹き出している。ゾゾゾと悪寒が走り、ブルルと身体が震える。


 戻って! 戻って!

 ()()()()

 ()()()()


ーーーーぱあああああああああああああ!

 






 


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