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145 速っ?!


 キャンディ騒動が収まると、草原はまた静寂を取り戻した。

 ジロウは暇だからと散歩に出かけたし、兄さん達は野営の準備を始めた。今日は出発が遅かったからここで一泊するんだって。久しぶりの野営にわくわくしながら、相変わらずオレは籠を編んでいる。


「ーー速っ?! マジ? コウ……」

 ニコルが不意にオレを呼んだ。と同時に頭上で激しい音がした。


 ガキッン! ドゴオオオオン!


 ザザと弾き飛ばされたアイファ兄さんの気配に、思わず首をすくめる。続け様に稲光が走り、突風が巻き上がる。


 ーーーーガガッ! ドガガガガガッ! キン! ザン! ズズズ!


 あげた顔にピッと生温かな液体が飛ぶ。滑った頬を拭えば、それは赤い血液だった。 兄さん?


 ハッとして周囲を見回すと、オレのすぐ側で兄さんと大きな銀灰色の魔獣が、剣と爪とを打ち合わせて睨み合っていた。兄さんの顔には無数の擦り傷。銀灰色の毛に陽を浴びた獣は巨大なクマだ。艶々と光を反射したクマは大きな腕を上げ、グルルと唸っている。

 

 対岸には弓を引き絞るニコル。随分向こうでキールさんの指輪が鈍い光を内包し始めていた。


『ピッ? ピピピピ、ッピ? 』

「えぇ? うん、そう! 何で?」


 状況が飲み込めないオレに、歯を喰い縛った兄さんが、呼吸を荒げて絞り出すように叫ぶ。


「じゃ、邪魔だ! 退け! くっ……。 行けっ、コウタ!」


 声を出すたびにズズっと一歩後退する兄さん。汗がたらりと滲み落ちた。

    ーーーーーーヒュン!


 ニコルの放った銀の矢が獣に到達する前にポトリと落ちた。

そのタイミングで無数の氷柱が落とされ、ソラのシールドがオレ()を守る。


ーーーーーーダダダダダ! ゴゴゴ ガッキガッキ!


 強く重い衝突音が繰り返される。速すぎて目で追えない。だけど間もなく、離れた草の上に兄さんとニコルが投げ出された。再び火柱と氷柱がぶつかり合い、獣の頭上で大きな爆発が起きる。

――――ピキッ、パアアアアアアアアン


 粉々に砕け散ったシールド。ソラが怒って猛禽になり、兄さん達に風を送った。


「ちょっ、ソラ! 邪魔すんじゃねぇ」

「はぁ? アンタ、操られてるの?」


 風に立ち向かいながらニコルがオレに手を伸ばすけど、それより早く白銀の獣がオレを胸元に引き寄せた。


「「 コ、コウタ! 」」


 慌てて獣に体当たりする兄さん。獣はオレを抱いたまま兄さんを薙ぎ払う。

「アイファ兄さん!」

 とっさに叫んだけれど、魔物はびくともしない。鼻息をオレに吹きかけて柔らかな毛をオレの頬に押し付けただけだ。


「っひぃ!」

 ニコルの顔が恐怖に歪んだ。


 あっ、まずい。駄目だよ、心配をかける。


 魔物の身体によじ登り、耳元でささやくと、クンクンと鼻を鳴らして魔物はごろんとごろんと身体を横たえて転がった。わぁ、オレ、つぶれちゃうよ!


「おっ、お前! 馬鹿野郎! どかねえと許さん! 退け、コウタを返せ」

「やめろアイファ! 腹を見せたんだ、今、(たた)っ込む!」


「馬鹿! コウタまで巻き添えだ!」

「邪魔するな! アイツは大丈夫だ! 信じろ! ここで殺らねぇと俺らも危ない」

「リーダー! 落ち着け」

「落ち着いてられっか!!」




 ああ、この感触! 懐かしい。温かくて優しくて。


 でも、兄さんたちが変だ。殺気だって随分慌ててる。そうだった。兄さんたち、戦ってたんだった。


 懐かしい記憶に、一瞬、思考が停止したけれど、場を収拾しなくてはと、大きなクマの身体の下からはいずり出て、兄さんたちを見上げた。


 うん。間に合った。


 ニコルが兄さんを羽交い絞めにして止めてくれている。兄さんはキールさんの身体に足を巻き付けて、キールさんは身体をよじりながら何やらぶつぶつ詠唱を始めていて、空には大きな魔法陣。これは大事だ!


「えっと、大丈夫だ……よ?」

 兄さんたちを見上げて小さく呟けば、三人の視線が止まる。


 血走った瞳、血まみれのアイファ兄さん。ニコルの赤い髪がぼさぼさと魔力で吹き上げられていて、クールなキールさんの片頬だけが引き攣った。


――――ひゅるるるる

       ーーーー シュ……ン……


 緩やかな音で魔法陣がゆっくりと消え、巨大なクマのゴロゴロと喉を鳴らす音が静かに響いた。オレは肘でつんとつついて、クマを座らせる。もちろん、オレも一緒に正座だ。


 ずるい。ソラは気持ちよさそうにプルちゃんを乗せて空を泳いでいる。


「ええっと、兄さん? あの……熊爺のドッコイです」


「「「 はぁぁぁぁぁあああああ? 」」」


「ドッコイは黒い毛をしていたんだけど、ほら、こんなふうにきれいな銀色になってたから分からなかったの。でも、やさしい瞳でしょう? どっからどう見ても、やさしいクマのドッコイです」


 エヘン! 胸を張って立ち上がると、兄さんたちがへなへなと膝から地面に崩れ落ちた。


「えっと、チビッ子? アンタの知り合いってことでいいの?」

「うん。友達」


「お前、まさか? コイツと従魔契約なんて……」

「やめろ! みなまで言うな。(おっそ)ろしい」


 キールさんと兄さんに、ことり首を傾げて考え、ドッコイに確認した。


「従魔契約、する?」

「「 わああああ。やめろ! これ以上、非常識なことはすんな! まだならいいぞ? やめろよな、なっ? 」」


 なんだか二人は慌てふためいているけれど、ドッコイは優しく首を横に振った。


 だってドッコイはとっても大きいから。大きくなったジロウくらい。それでは街中を歩けない。ヒトを怯えさせてしまう。魔物は街の外で、人は街の中で。それぞれが適した場所で暮らすことがお互いを守ることなんだって。やさしくて賢いドッコイらしい考え方だね!


「契約、しないって。でも、オレの友達はやめないよね?」

 ニッコリ笑えばふふふと顔をこすりつけて甘えてきた。ああ、嬉しい! ドッコイが生きていてくれて! だったら、もしかしたら、熊爺やアックスさんも生きていてくれるかもしれない。ふっと胸に過った希望をすっぱりと跳ねのける甲高い声がした。


「 コイツは死に損なったポンコツだ! みんな使命を果たして逝っちまった。コイツだけが臆病で……甘い奴だったから死ねなかったんだぜ」


 酷い! なんて酷いことを言うの? あんまりな言い分に憤慨して声の主を探した。そして・・・対面したのは不思議な奴だった。


「えっと、あのう。 …………だれ?」

「「「 ??????? 」」」



 

 今日も読んでいただきありがとうございます!


 いいね、ブックマーク、評価などしてくださった方、ありがとうございます。嬉しいです!

誤字報告もいただいています。ありがとうございます。すぐに直すべきですが、すみません。私生活で年度末処理に追われ、余裕がありません。せっかく教えていただいたのに、今しばらくお待たせしてしまい、申し訳ありません。

 皆様の勇気あるアクションに励まされ、何とか綱渡りのように生きております。


 多忙な日々でも、読者様にたくさんの愛と励ましをいただいていて、感謝しかありません。読者の皆様もご自愛いただき、柔らかな春の日差しのような、心温まる日々をお過ごしくださいませ。


 今日の日が皆様にとって温かで幸せな一日となりますように。

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