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141 あの子が欲しい(あの子じゃ分からん)

あのねぇ、ディック様。お姉さんが元気になったらねぇ、レイったらお姉さんにもたれかかって甘えるの。こんなふうに」


 とろとろと落ちそうな瞼に抗いながら、奴は珍しく俺たちに甘えている。サーシャに抱かれ、クライスに髪を()かせて。レイリッチ が甘える姿に人寂しくなったのかも知れない。コウタを連れ帰ってきた不機嫌なニコルには後で報告させるとして、俺は頭痛のタネを拾い始める。


「……で? 道具屋で買った薬が、病気に効いたってのか?」

 カマをかけてやれば常識に疎い奴は悪びれもなく話し始める。


「えっと……。一緒にいたおばさんは〜、今さら〜薬なんて〜って言ったけど、回復してあげたら〜。なお、治った〜の?」

 うつらうつら。サーシャの肩に柔らかな頬を擦り付けてニマニマと笑みを浮かべる。回復の言葉に反応したクライスを制して続けた。


「そうか。治っちまったか。……で、コウタちゃんは何でそんなに眠いかね?」

「眠くない……よ〜。ちょっと魔法使いすぎちゃったか……もぉ〜」

「ほぅ……。他にどんな魔法を使ったんだ?」


「あ〜の〜ね〜。オレの魔力を吸い取る場所があって〜、頑張ったのと〜。シュワシュワってお家とお姉さんをきれいにして〜…………。ふわっと乾かして〜……」

 ズズっと大きく鼻を啜るとコウタはことり夢の中に落ちていった。


 もともと風邪が十分に治っていない奴だ。よほど疲れたのか、頬をつねっても引っ張っても見事に起きない。俺達は頭を抱えて、この呑気な奴が抱えている問題を話し合うのだった。



■■■■■


翌朝。


「ディック様、至急、お会いしたいと学校区の代表がいらしています」


 朝食の紅茶がまだ飲み干せていない。

 こんな朝早くにとイラつくが、気難し気なタイトの表情に、どうやらそこそこの地位の奴が来たのだと悟る。仕方がねぇ。呑気なコイツに現実を見させるかと、ちらと奴の表情を伺う。ことり傾げた首にニヤと含み笑いをしてから対応に向かった。ニコルがふうとため息をついたから、きっと聞き耳に協力してくれるだろう。


■■■■■



「……ええ。随分と賢い方だとお聞きしまして」


 コウタの養子縁組に否を唱えた組織の一人であろう。宮廷魔道研究所の所長である。もみ手に張り付いた笑顔。俺の機嫌を伺いつつ、遠回しに話を進める。さすが教授の一人とあって、一筋縄ではいきそうもない。俺達は打ち合わせ通り、そこそこに応え、そこそこにすっ呆ける。


「あぁ。まぁ、相当賢い奴だ」

 タイトと共に同意をすれば、身を乗り出して食らいついてきた。


「やはり、そうでありましたか。でしたら、将来は国を背負って立つ逸材でありましょう」

「ああ。俺もいずれは領を任せようと思っている」


「なんと! それはいけません。優れた才能は国で保護すべきです。失礼ですが、英雄殿には他にも優れたお子がいらっしゃるではありませんか?  領は他のご子息にお任せすればよいのです。才能あるお子には、一刻も早く教育を施し、国の宝となっていただいきたい」

 やはり、奴を寄越せということだ。


「だがな、()()()の気持ちはどうなる? あいつは親の元が良いというぞ?」

 想定内。所長となるほどの気位の高い男だ。あからさまに欲は見せぬはず。俺はわざともったいぶって椅子に背を預けた。


「だからこそです。幼い今であれば、馴染むのは早いのです。このまま彼を預からせてはいただけないでしょうか?」

 長いマントのような魔道服の袖をまくり、はやる気持ちを見せたが、タイトが小さく咳ばらいをしたことで、ふっと冷静さを取り戻した。


「賢いっちゃ賢いが……。幼いかぁ? まあ、それはいいが、伸びしろがなぁ…?」


「 ! 何をおしゃいます! あるに決まっています! 私が伸ばします! さぁ、彼を! すぐに彼に引き合わせてください」


 そろそろ潮時か。まぁ、ここまでよく持った。うん。俺はいい仕事をしたぜ? 


「分かった。断腸の思いで、貴殿に託そう。 おい、タイト。呼んで来い」

「はっ。承知しました」


 高揚した表情で扉を見つめる所長に、俺はニヤと唇が緩んで仕方がない。コンコンと弱弱しく乾いたノック音が響く。奴は腰を上げて嬉しそうに向き合う。


 果たして……。


「なっ?! 話が違います!」


 声を荒らげた男の視線の先にはクライスが、やはりニヤル表情で突っ立っていた。わなわなと彼を指した男は、タイトに食ってかかろうとする。


「あぁ?  コイツが俺の自慢の息子だが? ()()間違えたか?  コイツの賢さは有名だぞ? 以前は宰相直々に宮廷で働かないかと誘っていただいたくらいだ」

「えぇ、まぁ、確かに。クライス殿の優秀さは私も存じておりますが……。いえ、ですが、本日は……」


 そう言いかけたところで、俺達は殺意を込めて威圧する。


「僕は、成人したとはいえ、まだまだ幼いです。伸びしろは少ないかと思っていましたが、伸ばしていただけるのです()()? 魔力はありませんが、ぜひ鍛えてください」

 いやらしく語気を強めてクライスが食って掛かれば、魔導士の男はたじたじと後ずさり、踵を返して立ち去った。


「お待ちください! せっかく覚悟を決めたのです。僕だって鍛えれば魔法で国の役に立てるはずです。お待ちください! さあ、連れて行ってください」


 そう。

 図々しくもコウタの名を告げぬのだから、これくらいの嫌がらせは可愛いものだ。己の私利私欲を隠して、このエンデアベルト家に正面切って向かい合おうというのだから。

 

 幸い優秀で賢い役はクライスで事足りる。鍛えたいという輩にはアイファを差し出し、『砦』の奴らや使用人を差し替えてやればいい。アイツが欲しいという奴らは慌てて引くしかなくなるはずだ。


 俺達は悪い顔で見つめ合った。


 さぁ、次は騎士団の人材育成部。その次は正教会。商人にテイマー(従魔術)ギルド。コウタを欲する輩が示し合わせたように尋ねて来ている。じっくり、いやらしくもて遊んでやるとしよう。


この話ばかり膨らんでもと思いつつ途中で区切りました。

♪勝~って嬉しい花いちもんめ♪ のノリですみません。


他バージョンはSSでそのうちに。


今日は皆様に、小さなハッピーのある一日となりますように。願いを込めて。

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