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140 ねえさん



 レイと一緒に古く汚れた道具屋に辿り着くと、レイは銀貨を一枚出して店主から薬を貰った。欠けた茶色の小瓶に満たされた薬。レイは唇を噛んで、急足で家に向かう。オレの存在を忘れているかのようだ。


 スラムと呼ばれる古くて汚い集落に着くとご近所だろうか、汚れた中年女性がレイを待っていた。


「レイ! こんな時にどこに行っていたんだい? 早く姉さんのところへ」

 エプロンをくしゃくしゃに丸めて真っ青な顔をしている。そんなに? お姉さん、そんなに悪いの?


 頷くレイの後ろについていくと、目深にニット帽を被った若者がオレの手を引っ張って、ぐいと同じ帽子を被せた。


「ーーったく! 目立つんだよ」

「あ、ありがとう」


 誰だろう? 気になるけど……、今はレイだ。


「姉さん、ただいま。薬が手に入ったんだ。さぁ飲んで……」

 横たわる姉の身体を起こすレイ。力なくだらりと持ち上げられる身体。レイの震える腕を助けるようにオレも側に行った。


 冷たい。

 ガサガサの肌に正気のない唇。ごく僅かに感じる呼吸音。思わず見上げた叔母さんの瞳にキラと雫が光った。


「あんた……薬なんていまさら……」


 そんな? もう手遅れっていうの? レイのたった一人の姉さんが?


 ドキリ。


 胸が早鐘のように鳴り響く。嫌だ、嫌だよ。オレ、嫌だ。


「あぁ、姉さん! 俺だよ。レイだよ。しっかり!」

 そっと眼を開いた女性は、ただ悲しそうに(くう)を見つめて柔らかく微笑んだ。


「嫌だ! レイ! 退いて」

 上手くいくかなんて知らない。

 ただ生きて欲しい。オレでは何もできないかもしれないけれど、何もしないなんて嫌だ!


 お姉さんの身体に手をかざし、できる限りの魔力を巡らせる。


 優しい温かな体温。身体の奥の奥の方に蔓延る黒紫の煙のような嫌な気配。龍爺の身体にあったものよりずっと嫌な気配だ。細く伸びる煙が身体中にしがみついて離れない。

 こっちに、こっちに集まるんだ。温かな命の光はこっちに。オレの魔力と混ざって勢いをつけて悪いものを押し流して! 

 

 さぁ悪い煙め! オレの手の中に来い! 来て固まれ! 出ていけ! そこから!


 そう、これが魔力操作だ。オレ、ちゃんとできるよ。針のように細く細く伸びて身体の隅々まで入り込め! どこまでも集中。呼吸の揺らぎすら与えちゃだめだ! 


「あれ?」

 しばらく魔力を巡らせると、引っ張るようにオレの魔力を吸い込む場所があった。きっとここだ! お姉さんの身体から生命の力を奪っているところ。ここを……ここを閉ざさなければ。


 ぐんぐんと吸い取られる力に(あらが)って、落とし穴のように溢れ落ちる魔力を力尽くで塞ぐ。塞いで塞いで固めるイメージ。無限にも思える吸い込みに、全力で対抗する。大丈夫。オレの魔力の方が強い!


◾️◾️◾️◾️



「あんた誰だ?」


 知らせを聞いて慌ててきてみれば、レイリッチ の部屋の前に見覚えのある男が立っていた。建物に溶け込むような白茶の出立。アタシは舌打ちをして真意を問う。此処では敵じゃないつもりでいたが……。


「姐さんこそ名乗れよ」

 目深に被った帽子をそっと上げ、草を咥えた男が言った。


「狙ってんのか?」

 手の中の()()を確認して周囲を伺う。手足はいない。消されたか、近づけないのか。


「庇ってやったんだぜ? 礼を言うべきじゃねぇ? 貸しでもいいぜ?」

 嫌な野郎だ。相まみえる相手ではない。


「……助かった。だが、これで貸しは無しだ」

 たっぷりと入った金貨袋を投げれば、奴はチャリと音を聞いて、満足げに胸のポケットに押し込めた。


「取り込み中だ。これきりにしてもらいたい」

 奴が草を吐き捨てて言った。本音だろう。やはり敵じゃない。安堵の中に疑惑が残る。


「あんたの獲物は何だ?」

 奴は再びアタシを見て嫌な顔をした。


「邪魔すんのか?」

「いや……」


 手の内は晒したくない。だが敵にするには厄介な相手だ。しかもこちらは王都に入って間もない。刻々と変わる情勢を掴めきれていない後ろめたさがある。


「アタシ達はまだ見えちゃいない。あんたじゃないことを祈ってる」

 正直に手の内を晒すと、男は愉快そうに唇を引いた。


「正直だな」

「あぁ? 大事だかんな。あんたも気に入ったんじゃないのかい」


 男は静かに笑うと嬉しそうに濃紺の瞳をよこした。


「あぁ、そうだな。気に入った。気に入ったが……俺の獲物には邪魔だ。それより、()()()()に近寄らねぇで欲しいんだが?」

「……言っとく。 けど……、きかねぇんだよ。餓鬼だかんな」


 ため息混じりに頭を掻けば、奴も愉快そうに返した。


「ちげぇねぇ」


 アタシ達は油断なく距離をとって対峙する。



「ところで、あんたのチビちゃん。何者だ? 今、すげぇことしてんな?」

 小屋から漏れ聞こえる声で、帽子の男が目を丸くした。予想外。狼狽える様子が愉快だが、あまり気にしてくれるなよと奥歯を噛む。


「だろう? 面白い()()。気にすんな。あぁ、当分は色々うるさいだろうが邪魔はさせない。心変わり、すんじゃねぇぞ」


 オレンジの瞳に殺意を混ぜると、奴は口角を上げて煽るように返事をした。


「心得ておこう。じゃあな、オオカミ」

「あぁ、二度と関わるんじゃねぇよ、()()

「くくく。どっちがよ?」


 女は男を見送ると頭を抱えて座り込んだ。

「……ちびっ子、どんだけ巻き込まれんだよ。面倒くせぇ」


 見上げた先に不審な影を見つけた女は、僅かに安堵して口角を上げ、さてどうやって収集をつけるかなと思考を巡らせるのだった。

姉さん、姐さん 


ねえさんは書き分けられますが、兄さんはどうしたらよいのでしょうか。


 ちなみに私は「小説を書く」ではなく「描く」の文字を使うことが多いです。頭の中に漫画を描くように作業をしていくので。ストーリーはあるのですが、誰か、脳内を映像化してください!


 イラストも挑戦していますが……。特にソラは絶対に皆様に伝えたい可愛い感じなのですが、表現ができなくて……。きれいな瑠璃色ですが、水彩画の青や水色などで柔らかく塗ったような温かみのある鳥なんです。最近「シマエナガ」のキャラクターがありますよね? あんな風にお顔が、全身が丸みを帯びてふっくらしています。

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