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131 じゃんけん


「ここ、お前の部屋か?」


 ぶっきらぼうなレイのセリフにこくりと頷く。レイは戸口に立ったままだ。


「すげーな。さすが坊ちゃん」

「え?」


「ベッドだけで俺んちくらい広い」

「そんなことないよ、それに……。凄いのはオレじゃなくてディック様だから」


 ゴシゴシと目を擦ると、レイの手を引いてベッド横に敷かれた絨毯に座らせた。ベッドの下からおもちゃ箱を引っ張り出してレイに見せ、どれで遊ぼうかと問う。


 レイは木剣をひとつとって立ち上がるとぶんぶんと振ってみせた。


「おもちゃなんかで遊んだことねぇから、分かんねぇ。俺、今、剣の訓練してんだ」

 ひゅんひゅんと剣を振り、くるり身体を回転させる。蹴りを入れ、背を逸らせ、しゃがんで飛んで、実践さながらの動きにほうと見惚れた。


「す、凄いね。かっこいい! 剣だったらアイファ兄さんもディック様も教えてくれるよ。今度、教わりに来てよ。村の子にも教えてくれてたから、レイだって教えてもらえるよ」

「本当に? いいのか? お前、ディック様っつたら英雄だぞ?」


「うん、いいよ。 オレも一緒に教えてもらうし」


 にっこり笑うと,輝いていたレイの顔が急に曇った。

「やっぱいい。 俺、時間ねぇし……」


 レイは木剣をポイと投げ出し、寝そべったジロウに背を預けた。


「ねぇ? レイはどうしてギガイルの店で働いているの? ミルカがね、(うち)で働いた方が給金も待遇もいいって言ってたよ?」

 家で……なんて嫌な言い方だ。だけど、ギガイルの店よりずっといいのは確か。それに……。


「レイ。 冒険者だったら自分の力でお金を稼げるよ。薬草採取とか、石拾いとか。街中依頼なら子供でもできる物があるって兄さんが言ってたよ、意地悪な店で無理に働かなくても」


 レイはドンクよりも大きいから、きっと冒険者にもなれる筈だ。確信をもって言ったのに、フンと鼻でせせら笑われてしまった。


「何にも分かってねぇな、坊ちゃん。色々あんだよ。でも……、外に行くんは姉ちゃんが心配するから駄目だ」

 まっすぐな銀灰色の瞳が、セガさんと重なって、意思の強さにキュッと胸が絞られた。


「じゃあ、じゃあ、石探しは? 王都ではどうか分かんないけど、村では探してる子がいなかったから! きっとここにも売れる石があるよ」

 オレはポケットから出すふりをして、空間収納から磨いた石を出した。


「なんだこれ?! お前、馬鹿だろう? こんな石、落ちてるわけねーじゃん」

 魔道具の明かりにかざして色や光の具合を眺め見る。うん、そのままじゃ落ちてないよ。


「見た目は普通の石だったよ。でも、魔法でお願いしたら出来るの。レイ、魔力は?」

「やっぱ馬鹿だわ。魔法でお願いって、お前、魔法なんか使えるのか? 確か四つって言ってなかったっけ?」


『ピピッ! コウタ、やっちゃってるわよ』

 慌てたソラが体当たりをしてきた。


「えっと、魔法は使えないけど、お願いが……、お願いなら出来るの!」


「はぁ? よく分かんね〜。分かんね〜けど、ちょっとの生活魔法で出来んのか?」

 あっ! レイ、ちょっとは魔法が使えるんだ。よかった!


「うん! 出来るよ! 晴れたら、今度晴れたら、石、探そう! 出来るようになったら、お店、辞められるでしょう?」


 そう言うと、レイは口角を半分だけ引き上げて嬉しそうに笑った。

「…………辞めね〜けどな。」




◾️◾️◾️◾️



「じゃんけん?! なんだそりゃ?」


「えっと、拳骨がグーで、手の平を開くとパー。紙って意味なの。二本指がチョキ。ハサミなんだって。順番を決める時に硬貨を投げるでしょ?」

「んなもん、投げねー。持ってねぇもん」


 ズコッと前のめりに転がる。どうやら地位が高い人から順番がつくらしい。そうでない時は譲り合いだそうだ。


「いいから、こうして出すでしょ? 勝ち負けが決まったら、階段を一段ずつ登ったり降りたりするの。早く往復できた人が勝ちなの」

「へぇ、変な遊び。でも、これなら俺も出来るぞ」


 中央階段で、ソラとレイとオレと三人でじゃんけんで遊ぶよ。母様と何度も遊んだことを思い出す。山の石段は果てしなく険しかったけど、こうして登るとあっという間なんだ。


「じゃんけんぽん、げ、ん、こ、つ。こんな感じか?」

「うん、そう! じゃんけんぽん。またレイの勝ち! は、さ、み」

「ピ、ピ、ピピッ」


 ソラのじゃんけんは可愛いよ。グーは身体をきゅっと丸めて、パーは両羽根をふわと開いて。チョキは片足をピッとあげて上を向くの。ねぇ、ほら、キュートって感じでしょう?



「……なぁ? 俺ばっか勝ってるぞ? お前、貴族様なのにいいのか?」

 何度か進むとレイが心配そうに言った。


「だってゲームだよ? 身分なんて関係ないよ?」

 オレが不思議そうに言うと、レイは首を傾げてもっと不思議そうだった。


 中央階段は案外に短くてレイが三回、ソラが一回勝った。オレは負けちゃったけど、とっても楽しかった。

 階段を通るメイドさんにソラが踏まれそうになったり、レイが後ろ向き片足飛びで登ったり。ふざけあって笑い合って、こんなふうに遊ぶのは久しぶりだったから。


 だけどすぐに三時になってレイが帰る時間だ。雨は止んだけれど、ギガイルの店に顔を出すんだって。


 イチマツさんに給金を貰って裏口に行こうとした時、正面の大扉が不躾に開いた。そこに立っていたのはギガイルだ。


 オレとレイは思わず顔を引き攣らせて、その場で動けなくなった。




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