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119 見つけた


ー---ドドドドド!

ー-----ガガガガガ!

ー-バキバキッ!


「「「「 きゃあ、 誰か来て~ 」」」」

「「「「 護衛は? 護衛はどこー?」」」」


 もう。 兄さんの学校は騒がしい。

今度は隣の塔から幾人かの人が駆けだしてきた。窓や扉からもくもくと煙。明らかに異常事態。


でも・・・。

ここの人たちは落ち着き払っている。


うん、こんなときは大丈夫ってこと、よくあることなんだね。エンデアベルトでしっかり学習してきたオレはもう慌てない。


「あっ、クライス! いるんだったら頼むよ、助けてくれよ」

「ジョッキー、駄目だよ。 弟を一人にはできない。 護衛を雇ってるんじゃないのかい?」


 知り合いなのかな?

 何の騒ぎかと慌てて飛び出してきたオレ達を、赤髪、短毛、そばかすのお兄さんが引き留めた。クライス兄さんはチラとオレを見て、きっぱり断っている。

 オレ、一人でも大丈夫だけど。そう声をかけようとしたら、塔の方から聞き覚えのある声がした。



「ああん? 手前ェら、いつまでも逃げてんじゃねえ! 俺達がいる間にちっとは戦えるようになれよ」


「「「「 ぎゃぁぁぁぁぁぁあ、無理無理無理~! 誰かたすけてぇぇぇぇぇぇぇぇええええ 」」」


ー---ドドン! ズシャヤヤヤ!


「悪い、ちょっとやりすぎたか? 崩れちまった」

「キヒヒ! 許容範囲、誤差、誤差~! 二階が崩れたって、まだ何階にも分かれてんだ。広くなっていいんじゃない?」


「ひっ・・・。 ど、どうやって上の階に行くってんですか?」

「ああん? 飛べばいいだろう? 無理なら鍛えてやっぞ?」

「ひぃ、すんません。 ぎゃあああ、お、お断り、どぇええええええええ」


 塔から逃げ出す人を先回りして引き留め、後ろからジリジリと歩いてくる魔物の前に転がす三人組。


 腰を抜かして動けない人。手当たり次第に瓦礫(がれき)を、魔物ではなく三人組に投げつける人。

 その雄叫びは魔物に対して?

 それともアイファ兄さん達に対してだろうか?


 逃げ惑う人々と逆行して歩み寄るオレ達。クライス兄さんと不意に目が合うと、アイファ兄さんは嫌そうな顔をしてぷいとそっぽを向いた。だけど遅いよ。クライス兄さんはすでにカンカンに怒っているのだから。


「兄さん! 見つけましたよ! ちっとも帰って来ないかと思ったら、こんなところで騒ぎを起こして! 素人を脅して楽しいですか? ほらほら、とっとと魔物を片づけてください」


 背を向けて逃げ出そうとしたアイファ兄さんの首根っこを確実に捕らえて、びしっと魔物を指し示すクライス兄さんにサーシャ様とセガさんの姿が重なった。


 じたばたと悪あがきするアイファ兄さんとは対照的にキールさんは既に詠唱を始めて魔物を撃退しようとしている。


ーードン! ザクッ!


 小さな雷撃が起こるとニコルの短剣がトドメを刺す。さすがの連携。大きなウサギのような魔物があっという間に仕留められた。


「うわぁ、凄い!」

 オレがぱちぱちと拍手をすると逃げ出してきた人達がヘナヘナと座り込んだ。だけどすぐに気配が変わる。


 塔の奥から土煙。新しい魔物が湧き出したみたいだ。


 大きな(つの)が生えた太っちょな蛇のようなトカゲのような生き物。見たことがあるような、ないような。周囲の人が怯え切っているし、不気味な生き物だから早く退治しないと。


「チッ。デケェな。 流石に俺らの獲物か?」

 舌打ちしたアイファ兄さん。いつの間に? キールさんは、大きな杖に持ち替えて振りかざし、新たな詠唱を唱え始めた。

 あっ! 待って! 確かそれ・・・。


 いつか聞いた母様たちの冒険譚。太いトカゲで(つの)が生えた魔物、たしか“オトナコトオオトカゲ”。あの角に魔力を集めて跳ね返すって聞いた奴。


 まずい! 魔法はまずいよ!


「待って! キールさ・・・」


 激しい閃光。


 爆烈音。周囲の空気が熱く膨らみ、つぶれたトマトみたいになった炎がグワンと縮こまると、反動で宙に広がった。


ーーーーソラ!!




ーーーーーーッキン!

   ーーーーーーダダダダダダダダ

ーーーーゴゴゴゴォオオオオオ

   ーーーーーードドドドドドドド



 歪んで熱せられた空気。バキバキと飛び交う瓦礫。


 跳ね返された魔法が増幅され周囲を木端微塵にする。

 魔物を取り巻くように瞬時に張ったソラのシールドと、かろうじて間に合ったキールさんと居合わせた魔法使い達のシールドのおかげで助かったけれど、破られたシールドから弾けた威力だけでこの被害。


 キールさんが凄いのか、魔物が凄いのか。オレはクライス兄さんの腕をぎゅっと掴みブルブル震えていた。


 ズン。

 ズズズ、ズン。


 高らかに(つの)を掲げたオオトカゲが長い舌をチョロリと伸ばして近づいてくる。ゆっくりのっそりと。緩慢な動きだけが救いだ。


「 っ?! 俺の魔砲を跳ね返したのか? 馬鹿な?」

 呆然とするキールさん。


「聞いてないよ。あれ、コドモトカゲじゃないのかい?」

「くそッ! 俺の剣も弾じきやがった! 対策が必要な奴ってか?」


 余裕だったアイファ兄さんの顔色が変わった。鋭い目つき、潜めるような呼吸。

 それを見てニコルがいち早くみんなを誘導する。


「 ここから離れて! 遠くへ! 兵を呼べ! 学生を、子ども達をいち早く逃がせ! 」

 タタと駆けて立ち止まっては道を確保し、()()を集めて飛ばせ、建物の中に入っては多くの人を連れ立って逃していく。

 さすがBランク。危機管理にも長けている。


「テメェらもさっさと逃げろ。結構不味いぞ! 」

 腕組みして思案げに見下ろすアイファ兄さん。クライス兄さんが頷いてシュルとおんぶ紐を肩にかけた。


「兄さん、アイツ……。古代生物ですか?」

 難しい顔で問いかけたクライス兄さんに片眉を上げて黙り込んだ兄さん。そこにさっきのジョッキーさんが割り入ってきた。


「おそらく。 ミツクビガメが出てきた転移陣を床石ごと運んできて調べてたんだ。 僕らが魔力を通したら、ゴブリンやら古代ウルフやら出てきたから護衛を雇ってね。あんな大物にぶち当たるなんて、ついてるんだかいないんだか……」


 興奮気味のジョッキーさんは、クライス兄さん同様、古代学の研究者みたいだ。苦虫を噛み潰したような顔でアイファ兄さんが続けた。


「ーーチッ。さっきまでは小物ばっかだった。キールが魔力を加減してたからな。だが、急に魔法陣にふわりと金の渦が乗っかると 徐々に手応えのある奴が出てきやがった。 さぁ食っちゃべってねぇで逃げろ。手柄は俺がもらう」


 金の渦。それってオレがもういいやって魔力を放出しちゃったから?!


 クライス兄さんとピタリ目が合って、たらり冷や汗を流した。プルちゃんが『そうだよ!』とでも言うようにぴょんと跳ねた。


 あっ、そうだ! もしもあれが “オトナコトオオトカゲ” だったら。オレはバタバタとクライス兄さんの手から飛び出した。


「聞いて?! あれがオレの知ってる魔物だったら、こうするの! キールさん、手伝って」


 混乱する人混みできっと誰も見てないから。ううん、見ていたって構うものか!

 オレはキールさんと一緒に地面に両手をついた。


「囲むの土壁で! 分厚くね! 硬く硬くって念じながら」


 身体から突き上げるような金の魔力。地面からズズズと盛り上がる壁にじわりじわりと魔力を浸透させる。ちょっとくらいぶつかっても大丈夫なように! みんな、協力して!


 周囲の瓦礫が空を飛び、めりめりと立ち上がる壁に飲み込まれていく。キールさんもオレと同じように、いつか一緒に炉を作った時みたいに、地面に這いつくばって壁を作っていく。


 ズゴゴゴゴゴ。ズゴゴゴゴゴ。


 壁を避けようとする魔物をジロウがグルルと追い詰めていく。鋭い爪と牙でも奴の硬い表皮は切り裂けない。そう、やっぱり弱点はあそこ!


「兄さん、壁の上から行って! 喉元! 顎の下のグルルと袋みたいに伸びるところ! あいつが上を見上げたらそのまま搔き切るの。出来る?」


「誰にもの言ってやがる? ()()()()ってことだろう? 俺じゃなきゃしくじるだろうが」


 ひいふうと乱れる息にアイファ兄さんが悪い顔で笑った。そう、スースと同じ。身体の一点だけに弱点がある。きっと大丈夫。兄さんなら、きっと。


 押しつぶされそうな不安によろめいたオレをクライス兄さんが抱き上げて頬を合わせた。


 高く上がった壁にタタンと乗り上げたアイファ兄さんは、いつもの濃茶の瞳で真っ直ぐにオレを見下ろした。そして親指をひとつ立ててから高く高く飛び上がると、土壁で作られた穴の中に向かって落ちていった。




 今日も読んでいただきありがとうございます!


 いいね、ブックマーク、評価などしてくださった方、ありがとうございます。嬉しいです!

 皆様の勇気あるアクションに励まされ、執筆活動・日常生活をがんばります。


 今日の日が皆様にとって温かで幸せな一日となりますように。

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