宝箱クッキー
大変遅くなりました。
最終話まで投稿予約済みです。
エレノアの知らないところである噂話が流れていた。それはとある高貴な方々の恋の物語。
はた目にも険悪だったその関係が、いつからかはた目にももろ分かりなむず痒い空気が流れる関係になっていたという。そのきっかけについてはっきりと教えてもらった者はいなかったが、同時期にその話の令嬢がとあるお菓子にはまっていたことも噂となった。お茶会でことあるごとにそのお菓子を出したのだそうだ。きっとこのお菓子がきっかけだろうと皆推測した。
恋愛成就のお菓子。それは年頃の少女たちの琴線に触れた。
初めは貴族の間で流行っていたその小箱クッキーは、やがて市井の流行にも取り込まれる。
流行の先を行くインビテーションは早速そのクッキーを商品化した。貴族の関係者が店にいたこともあり城下街では一番乗り。そこまでは良かった。
インビテーションはこの小箱クッキーを改良し、一回り大きくして装飾を増やした。そして名前を『宝箱ビスクイテ』とし、なんと元祖を名乗ったのだ。
確かに『宝箱ビスクイテ』としては元祖だ。しかし、町の人は箱型のクッキーを見たのはこの店が初めてとなる。この構造の発案者がこの店だと考えても仕方がない事だった。
さらに良くないことが起きる。たまたまエレノアのパン屋に通りかかった女性がエレノアの小箱クッキーを見つけた。この女性は模倣品だと鼻で笑っただけで済んだが、徐々に同じようなことをさらに口悪く噂をするものが増えた。
エレノアの知らぬところで動いた事態が、巡り巡ってエレノアの店の評判を落としてしまうことになった。そして最終的にインビテーションの店員が、小箱クッキーの取り扱いを止めるように忠告してくるまでとなってしまった。
「でも私が作ったのはだいぶ前の話です」
エレノアがそう説明しても、
「では証明できるものは?」
と言われてしまっては何もできない。メニュー作成も外部に出さず自作。お客さんも近所の知り合いばかり。何人か証言してくれたけれど口裏を合わせていると言われた。
ドュードたちも怒ってくれたし慰めてくれた。
「大丈夫よ。もうあきらめるわ。私は別に喧嘩したいわけじゃないもの」
そういうエレノアの頭を友人たちが交互になでた。
貴族の噂は市民に届く。市民の噂も貴族に届く。
噂話を聞いたクリンダは怒っていた。自分のひそかな癒しである少女がいる、あの素晴らしパン屋がいわれのない誹謗中傷を受けていると。
優秀なクリンダの行動は早かった。主に状況を説明し、主の婚約者にも直訴し、王族御用達の証明書を発行してもらった。クリンダの調査メモもあるので正確な日付もわかり正式に証明書が作成されることとなった。何よりも二人の仲を改善した記念のお菓子だ。主と婚約者が率先して証明書の発行に携わった。
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