表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

結婚式

大変遅くなりました。

最終話まで投稿予約済みです。

 今日はパン屋はお休み。どうしてかというと、一つ隣の通りで町のお姉さんの結婚式があるから。


 この町では結婚式の時に、結婚する二人が道の端の方から端の方まで進んでお祝いしてもらうという風習がある。その時に、町の人はみんなたくさんの花びらを撒いてお祝いをする。それはもう大量の花びらで、場所によっては足首が埋まってしまうくらい。


 二階の窓からも撒くので、通りがすべて花びらで埋め尽くされているみたいに見える。町の女の子、ううん、お母さんもおばあちゃんも目を輝かせるお祝い。そしてお父さんやおじいちゃんは、この花嫁さん花婿さんのパレードのために色々な商品や食べ物を用意して、商売に大忙し。さらにパレードの後は自分たちで呑むお酒の準備に大忙し。


 町の男の子たちは撒かれる花びらの中に混ぜられている、金色に塗られた特別な花びらを探すのに夢中になる。もちろん女の子たちも参加する。女の子が花びらを見つけると幸せな結婚ができると言われているから。男の子は単純に楽しいから。


 私は結婚式のパレードに参加するのが大好き。今回もパレード中はどうせお店にお客さんは来ないので、お父さんは一時閉店にして、私にパレードに行ってきていいよと言ってくれた。お父さん大好き!






 仲良しのシャルロッテとルイーゼと待ち合わせをして、一緒にパレードの行われる通りへ向かう。通りの近くになるともう花びらが売り切れているかもしれないので、シャルロッテとルイーゼのいる通りで花びらを買って、花びらがあふれそうな籐のかごを片腕にぶら下げながら目的の通りに向かう。


「シャルロッテ。パレードに行くのかい?」

「もちろん」


「ルイーゼ、その量で足りるのかい?」

「たりないかも~」


 途中知り合いに声を掛けられながらようやくたどり着いた先は、すでにたくさんの人が集まってた。


 花嫁さんと花婿さんは、市民用の教会でお式を挙げる。そのあと地元の通りに移動してから、パレードを始める。お式が終わったときに鐘が鳴ることになっている。


「あ、鐘の音」


 私がそう言うと、二人はかすかな鐘の音に耳を澄ませて、「あ、本当だ」「来るね! 来るね!」とワクワクしながら返事をした。


 さっきまでにぎやかだったのに鐘の音が鳴った途端急に静かになる、通りで待ち構える人々。その様子がおかしくて少し笑いそうになるが、そんなことしたら目立ちそうなので一生懸命我慢。


 でもよく見るとおじさんもおばさんも、みんなニコニコ、ソワソワ。辺りはとても和やかな雰囲気。


 と、道の端の方で、わっと歓声が聞こえた。


「おめでとう~」という声も聞こえてくる。


「「「来た~」」」三人で手を握り合って喜ぶ。


 ちなみにわたしたちが立っているのは、知り合いの商店さんのお店の前。


 三段ほど壁に沿うように階段があり、踊り場があり、お店の入口がある。その踊り場には柵があるので、背の低い子供の私たちでも安全にパレードを見ることができた。お店のおばさんに感謝しなきゃ。


 だいぶ時間がたった後、目の前を花嫁さんと花婿さんがゆっくりゆっくりと通っていった。来てくれた人に感謝するために右に左に、丁寧に手を振りながら歩いていく。ずっと手を振っているから、翌日筋肉痛になるそうだ。そして、足元の花びらをかき分けながら歩くのであまり早く歩けないという。脚も筋肉痛になるそうだ。


 ドレスには花びらの色が付く。真っ白なドレスは下の方がきれいな花の色に染まり、グラデーションになるらしい。そしてその色の染まり具合を見てまた占いとかをするのだと、近所のお姉さんが話してくれた。


 そこに私たちは追加で花びらを撒く。ひらひらと舞う色とりどりの花びらはとても綺麗。二階からも花びらが舞い散る。上を見上げてみると、建物の合間から見える空と、花びらを撒く幸せそうな人の顔と、さらにはるか遠く空を悠々と飛ぶドラゴンが見える。






 花嫁さんと花婿さんが通り過ぎて十分遠くなった後、いよいよ花拾いが始まる。男の子も女の子も、おじさんもおばさんも。老若男女問わず花びらを拾い始める。おじさんたちは花びらで布を染めたりポプリを作ったり、暮らしの中で使うみたい。


 私も早速参戦するけれど、なかなか金色の花びらは拾えない。他の色もきれいでいいけれど、やっぱり金色が欲しい。


 他の子たちも同じく拾えないみたいで、みんなしばらく真剣に探していると、


「あった〜〜!」と叫ぶ声が。同じくらいのタイミングで少し離れたところからも『あった〜』と声が上がる。


 同じ所で見つかるわけでもないのに、みんなワサワサと花びらを掻き分けて、その見つけた子たちの周りに駆け寄る。そして褒めたり、金の花びらを見せてもらったり、周りにまだないか探し始めたりしていた。


 私ももう少し探していたかったけれど、夕方のパン屋の開店時間が近づいてきた。お父さんがいつもよりちょっと遅めにしたけれどその分閉店時間も遅くするみたい。


 今日はお祝い気分でたくさん買っていく人もいそうだから、忙しくなりそう。そう思い、まだ名残惜しかったけれどシャルロッテとルイーズに声をかけて先に帰ることにした。


「そうなの? まだありそうなのに。残念ね」

「3つ見つけたらエレノアにあげるわ〜」


 二人はそう言って手を降ってくれた。その姿は二人とも花畑にいるみたいでとても綺麗だった。






 帰りにドゥード達五人組に会った。彼らは仕事の帰り道で、これから花拾いに参戦するみたい。


「エレノアは拾えたの?」

 テルーがそう聞いてくれる。


「拾えなかったよ。まだロッテとルイーゼが残ってると思う」


「そうなんだ。僕たちは見つけるまで残るつもりだよ!」


 そう言って五人は元気に走っていった。仕事終わりなのに元気だわ。


 私はこれからお仕事。多分とても混むから気合を入れてこう!






 その日は見込んだ通りパン屋はとても大好評だった。ほとんど商品もなくなった通り沿いのレジを締め、閉店作業をしていたら声をかけられた。


「エレノア。これやるよ」


「ドュード。今帰り? これくれるって、金の花びらじゃない」


「エレノア拾えなかったんだろ?」


 そう言って、金色の花びらを渡してくれた。話で聞いたことはあるけれど、見たのは初めてだった。


「嬉しい! ありがとう!」


 女の子が金色の花びらを見つけると幸せな結婚ができるという。けれど、男の子は見つけるのが楽しいだけで、持っていても意味がないのかも。そう思い、ありがたく受け取ることにした。


「探すの大変だったでしょ?」


「俺は時間があったから。夜まで探せたから」


 そう言いながら、ちょっと顔を赤くしてまだモゴモゴ何かを言っていた。女の子にお花を渡すのはやっぱり照れくさいのだと思う。それなのにわざわざ渡しに来てくれたのだから、やっぱり嬉しい。


「ありがとうね! ドュード」


 改めてお礼を言うと


「別にエレノアの為じゃないから」そう言ってドュードは走り去ってしまった。






 夜、教会から奉納の鐘がなる。結婚した報告を夜に祭司様がもう一度行うらしい。

 同時に遠くでドラゴンの咆哮が聞こえる。教会の鐘の音に呼応しているだけだと言う人もいるけれど、私はお祝いしてくれているのだと思っている。

読んで下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓書籍化しました!↓↓↓
(画像クリックで書籍詳細が表示されます) cd486hpren7w4se8gx1c24dvmeqc_9r5_u6_16o_17e12.jpg
エンジェライト文庫様より2023/12/23電子書籍化
販売ストア一覧
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ