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ドラゴンの卵殻拾い

大変遅くなりました。

「エレノア!」


 店番の合間に井戸に水くみに行くと、ドュードたちに声をかけられた。ダフとチャックがドュードの後ろから顔を覗かせる。


「『ドラゴンの卵殻拾い』に行かない?」


 この前の約束を覚えていてくれたみたい。ドラゴンの卵殻拾いというのは、川にドラゴンの卵の殻を拾いに行く遊び。私も大好きなので、


「いく!」


 と答えた。


「お父さん、川遊び行ってくるね。」


 ちょうど店から顔を出したお父さんに声をかけた。


「気をつけていくんだよ」


「わかってるよ〜」


 お父さんは荷物を片手で持ちながら、もう片方の手を振ってくれた。夕方の店番まではまだ時間があるから今から遊びに出かけても大丈夫。そう計算しながらドュードたちを追いかける。


 ドラゴンと言うけれど、危ないことは特にない。遠い山に住むドラゴンの卵の殻は、川に流されて町の近くを通る小川にも流れてくる。色々な色をしているので、とてもきれい。その殻を使って様々な工芸品を作る職人もいるくらい。私もたまに作ったりする。ただ、殻の色の種類がありすぎて、思ったような作品を作るのは意外と難しかったりする。今も作りかけの作品があるので、完成させられるような素敵な殻を見つけて早く完成させたかった。






 この日集まっていたのはいつもの仲良し男子五人組だった。

 いつも元気なドュード。体格のいい笑顔が素敵なダフ。小柄だけれど運動神経のいいチャック。賢いテルー。無口で優しいリツ。


 私の家の周りは商業地区なので子供があまりいない。男の子はこの五人が一つ隣の通りに住んでいる。女の子は二人ほど仲の良い子が居るのだが、三つ離れた通りにいるので、お店が休みの時でないとなかなか遊べない。今日も女の子二人は来ていなかったので、男の子五人と私の合わせて六人で遊ぶことになった。


 川は浅くあまり流れも速くない。卵の殻は色とりどりに川のあちらこちらに沈んでいて、遠くから見てもこの川はカラフルな川に見えた。


 川の水は冷たいけれど、今は初夏。ちょうどいい暑さなので、キャーキャー声をあげながら裸足でみんな川に入る。足を踏み外さないように気を付けながら、思い思いに卵の殻を取っていった。ドゥードとチャックが珍しい色の殻を見つけたようで遠くで叫んでいる。ダフなんかはなぜか卵の殻ではなく、つるつると丸くなった大きな石を両手に抱えてうれしそうにしている。


 そんな中、一瞬きらりと光ったのが目に入った。


「もしかして、金の殻?」


 金の殻はとてもレアだ。取れたら今作っている小瓶の作品にぜひとも飾りたい。そう思って手を伸ばすと、水の流れが変わったからか、ふわっと流れ始めてしまった。私が慌てて手を伸ばしたが、つい足を踏み外してしまう。しかも運が悪いことに、足をついた場所の石が尖っていたようで、足を切ってしまった。






「大丈夫か?」


 私がバタバタしているのをドュードがすぐ気づいてくれて、駆け寄る。そのドュードの動きを見て他の四人も近づいてきてくれた。


「うわ~、血が出てる」


 チャックが自分が切ったかのように顔をしかめてそう言う。


「おう、背負ってやるよ」


 立っていたのが川の中央だったので、お言葉に甘えてダフに背負ってもらうことにした。


 川岸にたどり着いてダフにおろしてもらうと、次はテルーが手際よく怪我の手当をしてくれる。


「家に帰ったらもう一度消毒してやり直して。今は布を巻いただけだから」


 そう言うテルーに私がうなずくと、無口なリツも一緒にうなずいていた。






 結構深く切っていたようで、歩くと痛む。結局帰り道もダフが背負ってくれることになった。周りにいるドュードたちも私を気遣ってくれる。でも、街中で女の子を背負っていればやはり目立つ。みんなの家の近くに来ると見知った顔も増えてきて、『ダフ、頑張れよ』だとか、『えらいぞ、ダフ』だとかいろんな人が声をかけてくる。


 その言葉にダフは顔を真っ赤にしていた。


「重いよね……? ごめんね」


 申し訳なくなって、何か言いたくなって、そう言ったけれど、そうじゃないことを知っている。ダフも黙って首を振る。


(女の子を背負うなんて恥ずかしいよね。ごめんね、ダフ)


 直接口に出すとお互いもっと恥ずかしくなりそうなので、心の中で謝る。


 家につくとお父さんに怒られた。

 

 お父さんはダフたちのことも勢いでしかりそうだったけれど、ちゃんとひと呼吸おいて様子を見たら私の世話をしてくれているのだと気がついたようだった。そしてちゃんとお礼を言っていた。


 そしてお父さんはそのまま、帰りが遅くなって叱られる可能背の高いダフたちの家にいって、事情を説明してお礼を言って回った。私は怪我の手当をするようにと言われてついていけなかった。






 お父さんが帰ってきて晩御飯を食べた後。拾ってきたドラゴンの卵殻を小瓶に貼りつけながら、色々と考えてしまった。


(こうして男の子たちにだんだんついてけなくなっちゃうのかな。これからも一緒に遊びたいな。でも迷惑はかけたくないな)


 拾えなかった金の殻のスペースを残してほぼ完成した小瓶。それを眺めながら、次もドラゴンの殻拾いに誘ってくれたらいいなと思った。

読んで下さりありがとうございます。

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