アタクシのお嫁さんはいつも可愛く、愛おしいのですわ。
初めての方は初めまして。
私の親友達が~の続編みたいなもの。
ほぼセリフはないのでご注意を。
設定には突っ込まないでいただけると助かります。
アタクシはナルラ・エルフィラ。
皇帝陛下より公爵を賜っておりますの。
もう少し詳しく話すならば、魔力の性質は陰、攻撃魔術全般が得意ですわ。
歩く戦略的魔術兵器の二つ名は皮肉気で気に入っていますのよ。
誰かしら、想い人限定マスコットなんて不名誉なあだ名を付けたのは。
アタクシの耳にも届いていますわよ。
あとは元魔王ということくらいが特徴ですわね。
さて、それはさておき、アタクシの親友を紹介いたしますわ。
まずは一人目、セレス・ノースウッド。
いえ、今はセレス・フォレスティアでしたわね。
ヒトの中ではトップクラスの魔力の持ち主。
とは言っても、元魔王のアタクシほどではないのですけれど。
魔力の性質は陽。治癒術や光系統に優れていますわ。
外見の美しさやその分け隔てない性格から、学園では聖女なんて呼ばれていましたが、なるほど、言い当て妙ですわね。
あまりにもヒトを信じてしまうので少々危なっかしいと言うのがもう一人の親友との共通認識ですわ。
人当たりが柔らかく、いつもにこやかにしている割に芯が強く、意外と頑固者ですわね。
それに自分のことも他人のことも含めて恋愛話好きで、それが高じていろんな方の恋愛相談を受けては解決したり、カップル成立の手助けをしたりと、縁結びの聖女なんてあだ名まで付けられていましたわ。
彼女には内緒ですけれども。
しかし、学園にいる間は災難でしたわね。
高位の治癒術士というのが中々いないことに加え、生来の美貌も相まって注目されてしまいましたから。
それだけならまだしも、元皇太子達に目を付けられて……。
あの方達、貴族としては優秀なのですが、いかんせん人となりがあまりよろしくないのですわ。
特に皇太子は皇帝になる器ではなかったもの。
あのパーティーで突き付けてきた証拠、ほとんどが自分達や懇意にしてる愚かな貴族が仕出かしたことでしたわ。残りは捏造でしたし。
アタクシに全てを押し付けるなんて呆れたこと。
皇帝陛下に確認したところ、去勢して各所属の最もきつい部署に送ったらしいですけれど、表向きは。
実際は折を見て病死か事故死かしら。各家の判断に任されるのでしょう。
厳しいけれど、貴族的には子を成せないのは無価値ですものね。
それが事故や生まれもってのことではなく、罰則であるなら尚更。
あのコには伝えていないけれど、元騎士などは既に魔獣討伐の前線で大怪我を負ってまともに動けなくなっているそうですわね。
ちゃんと訓練していればそこまでではなかったでしょうに。
あれでも入学当初はそれなりに期待されていたからこそ側近候補足り得たのですから。
今となっては意味もないことですけれど。
そんな彼女は卒業後、婚約者でもあったエドワード・フォレスティア辺境伯とご結婚なされて、幸せそうに暮らしていますわ。
アタクシ達もフォレスティア辺境伯領にご厄介になっていますのよ。
公爵を賜っておりましても、アタクシは国内唯一の領地を持たない公爵ですもの。
皇帝陛下にも自由にしていいと言われておりますし、フォレスティア辺境伯領も魔獣討伐の最前線の一つですからね、アタクシも微力ながら戦力として協力する所存ですわ。
毎回心配顔のあのコには悪いですけれど。でも帰ってくる度にする嬉しそうな顔も好きなんですのよ。
二人目の親友は、最近親友ではなくお嫁さんになりましたのよ!!
アタクシの! お嫁さんに! なりましたのよ!!
だから、今はリーン・エルフィラですわ!
リーン! エルフィラ! ああ、なんて素敵な響き!
彼女は良くも悪くも普通の女の子でしたわ。
魔力の性質はどちらかと言うと陽、炎と風系統が得意ですわ。
魔力量は平民にしては多めですが、魔術が必要な職業に就くには足りない程度。
だから彼女が学園では魔力を制御して暴発しないようにする術を学んでいましたわ。
ともすれば魔方陣学の成績はトップ、といいますか、天才でしたわね。
在学中にいくも新しい魔方陣を生み出しましたわ。
特に医療系魔術式や、低魔力でも発動可能で生活に必要な術式を良く作っていましたわね。
リーンが言うには今までそういった分野を研究する人が少なかっただけとは仰っていましたし、これまでの魔術というのは攻撃に特化したものが多いのも確かですが、それでも素晴らしい功績ですわ。
それに彼女の生み出した魔方陣は民衆や貴族達にも広まり、無くてはならない存在になっていますの。
そう言いつつも戦略級大規模魔術式も組んでいたのは流石ですわ。
威力に伴って必要魔力量が悲惨なことになっていますけれど。
あれはアタクシか、せめてセレスくらいの魔力量が無いと無理ですわね。
あのコは優しいですのであまり攻撃術式は好きではなかったようですわ。
学園の薄汚い古狸共は生活魔術式を無駄だと主張して、攻撃術式ばかりを作るように喚いていたようですが、全く、これだから戦好きの老害は……。
アタクシ直々にお話し合いをさせていただいたのも良い思い出ですわね。
アタクシ達三人が出会ったのはまだリーンとセレスが幼い頃でしたわ。
セレスのご実家は男爵と言えど領民と良い関係を気付いていましたので、彼女が街に遊びに行くことも多く、そうしているうちに仲良くなったのが孤児院にいたリーンだったそうですの。
最初は相手が貴族だからと打ち解けることができなかったリーンも、セレスやそのご両親の優しさに触れて少しずつ心を開いていったようですわね。
セレスが言うには中々懐かない猫のようで可愛かったそうですの。
☆
そうしてある日、彼女達が親や孤児院のシスター方に内緒で遊びに行った森に現れてしまったのが、アタクシの元になった【魔王】でしたのよ。
正確に言うと【魔王】になるための核だったわけですけれど。
魔王とは伝説では突如として世界に現れ、破壊の限りを尽くし、勇者に討伐された強大な魔獣とされていますが、事実は違いますのよ。
【魔王】は古の文明で造り出された魔術的生物兵器ですの。
【魔王核】を中心に辺りの魔力を血肉に変え、根源たる核を破壊しない限り、傷を付けても辺りに魔力があれば再生し続ける悍ましき破壊兵器。
伝説の勇者でさえ完全に破壊することは出来ず、その命と聖剣を以て時空の狭間に封印するしかなかったモノ。
本来は自我などなかったはずですが、勇者と聖剣の魔力と混ざりあって生き永らえた【魔王核】は、いつしか自らの意識が芽生えていましたの。
その最たる想いは郷愁でしたわ。
ただ、アタクシは還りたかった。アタクシの生まれた世界へ。
感情も無く、見えるもの全てを破壊することしかできなかったあの世界へ。
今度は壊すことなく、路傍の花を愛で、青い空を仰ぎ、ただ道を歩いてみたかったのですわ。
何より、誰かを愛してみたかったのです。
今思えば、それは取り込んだかの勇者の影響だったのかもしれませんわね。
そして、気が狂うほど永い永い時を過ごして、アタクシはリーンに呼ばれたのです。
それは偶然だったのでしょう。本当なら有り得ないはずだったのでしょう。
それでもリーンはアタクシの声に気付き、手を差し伸べてくれたのですわ。
そうしてこの世界に顕現した【魔王核】は、姿形を似せるためにも、辺りからだけではなくリーンとセレスからも魔力を少しだけ貰い、アタクシを生み出したのですわ。
性別こそ女性になっていますが、姿形の基盤はかの勇者だったりしますのよ。
うぅん、この時、男性になっていればまた別の未来もあったのでしょうけれど、リーンとセレスに近付くように形成したからでしょうね、この姿になったのは。
まあ、正直、今のアタクシには性別はあまり重要ではないのですけれど。
改めて幼女となったアタクシはリーンとセレスに連れられてノースウッド領でお世話になっていましたのよ。
色々と大変でしたけれど、リーンとセレスと一緒に森を駆け回ったのは楽しかったですわ。
それから何年か経ち、アタクシ達はその魔力量から学園に入学することになりましたの。
そうして皇帝陛下や今代の勇者にアタクシの存在が露呈して、その足枷の為にもと公爵を賜り、元皇太子と婚約させられたのですわ。
アタクシとしては伝説上の魔王とはもはや別物でしたし、その頃にはリーンに惹かれていましたから抵抗したのですけれど、彼女にも説得されてしまいましたから、結婚後もリーンと離れ離れにならないことを条件に渋々承諾いたしましたわ。
一応これでもあの元皇太子と子供を作ることも納得はしていましたのよ、死にたくなるほどイヤでしたけれど。
でもまあ、子供を作ってもリーンと育てられるならそれはそれで良いと思いましたもの。
後で聞いたらリーンも本当は婚約してほしくなかったようですが、アタクシの立場や今後を思っての説得だったようですわね。
けれどそういった出来事の数々があったからこそ今のアタクシ達がいるのですから、悪いことばかりではなかったのでしょうね。
☆
長々とぼんやり考え過ぎていたせいか、アタクシの膝に座るリーンがむくれ顔になっていますわね。
あら、可愛い。
「別に良いんだけど、考え事をしているとそっちにばっかり集中しちゃうのはナルラの悪いくせだと思うな、私は。別に良いんだけどね」
頬を膨らましたままお茶を飲みながらそんなことを言うリーンの姿に思わず笑ってしまいますわ。
「むぅ、なによー」
だって、そんなふうに怒りながらもお膝の上から降りる素振りは見せないんですもの、本当に可愛くて愛おしいコ。
アタクシの様子に見透かされたと思ったのか少し居心地悪そうに頬を赤らめるリーン。
「ねえ、僕達が居ることを忘れてないかね? ここまで見せ付けられるとこちらとしても少々思うところがあるよ。
どうだいセレス、君も僕の膝の上に来るかい?」
「ご冗談を、エドワード様? でも、確かにこちらも二人に当てられてしまいますねぇ」
テーブルを挟んだ向こう側ではセレスとエドワード様が寄り添って、微笑ましそうにアタクシ達を見ていましたわ。
でもリーンには上げませんわよ、アタクシのものですもの。
「しかし、リーン嬢もその定位置には慣れたようだね。
以前はあんなにも抵抗していたのに」
エドワード様は少し揶揄うように頬杖を付きましたわ。
あらあら、お行儀が悪いですわね、エドワード様。
「慣れたくはなかったですが、ナルラが離してくれないので逃げるのも諦めました」
「まあ、リーンたら酷いですわ。
ここに来て初めて魔獣討伐に出向いた帰りに離してくれなかったのはリーンのほうですのに」
「待って、それは言わないで! もう、ナルラのばか!」
そんなアタクシ達の言い合うアタクシ達にセレスもクスクスと笑っていますわ。
それにつられてリーンも、アタクシも思わず笑ってしまいましたわ。
ああ、幸せですわね、なんてアタクシの柄でも無いですけれど。
こんな穏やかな日々を過ごせるなんて、思ってもみませんでしたわ。
セレスとエドワード様とのお茶会も終わり、アタクシ達も帰路につきました。
道行く馬車の中、リーンが徐にアタクシの肩に寄り添った来ましたわ。
「ここまでいろんなことがあったけど、私、すごく幸せ。
バタバタしちゃってたから言えなかったけど、今までありがとう。これからもずっと宜しくね。
私も、ナルラを愛してるよ」
その柔らかな頬が赤いのは西日のせいなのか、なんて野暮でしたわね。
ああ、アタクシのお嫁さんはいつも可愛く、愛おしいのですわ。
アタクシは思わず頬が緩んで。
「アタクシも幸せですわ、リーン。愛していますわ」
この幸せな日々を、いつまでも。
なぜこんなに長くなるかというと作者に文章をまとめる力がないからです。
終わりを決めないままつらつら書くからこうなるのです。
面白いと感じて頂ければ幸いです。