スプーンと流れ星 1/3
夜ふけのキッチンに、坊やが顔を出しました。
ママがやさしくふりむきます。
「坊や、眠れないの?」
「うん……」
坊やは、もじもじしながら、お友だちのことを考えていました。
今日、おもちゃを取りあってけんかして、ごめんねもバイバイもしなかったお友だち。
どうしようかな。
ママにおはなししようかな……
けれど勇気が足りなくて、小さくいいました。
「目がさめちゃった。あんまりお空が暗いから」
キッチンの窓は、まるで闇を塗ったよう。レースのカーテンがクモの巣みたいに浮きあがります。
ママは、坊やの頭をそっとなでました。
「それじゃあ、星をあげましょう。キラキラひかる、ものがたりのお星さま」
ランプのあかりを引きよせて、お話がはじまりました。
‥…¨°∵☆。°゜‥¨°∵☆。°゜‥…
お家がまるごとベッドに入った、夜のまんなか。
キッチンのかたすみに、ちかっとランプが灯りました。
「ねえみんな、眠っちゃったの?」
あかりの下できょろきょろするのは、銀色の服をきた男の子。
手のひらにのるくらい小さくて、背中に羽がある、スプーンの精です。
「ひとりぼっちで、どうやって遊ぼうかな。そうだ、お星さまを数えよう!」
妖精くんは、元気に飛んでいって、窓を見あげました。
「ちぇっ、今日はお外がまっくらだなあ」
がっかりした、そのとき。
黒い空にキラキラの光がまたたきました。
「あっ、お星さま、こんばんは!」
妖精くんが手をふると、光はどんどん大きくなります。
「あれっ?」
と首をかしげているあいだに、キッチンめがけて飛んでくるではありませんか!
「わあっ、落っこちてくる、ぶつかっちゃう!」
スプーンの精は、あわてて窓を開けました。
キラキラのお星さまは、ぴったりのすきまをすり抜けて、キッチンに転がりこみました。
「きゃあっ!」
「おっと、だいじょうぶ?」
妖精くんがキラキラを受けとめます。
その光は、すてきな女の子の姿をしていました。
ピンクとすみれ色のドレスをきて、金色の長い髪にこんぺいとうをかざっています。大きな青い目をぱちぱちさせて、いいました。
「わたし、リトル・シュガー。
夜空の舞踏会にいくところ…… なのに、くつが壊れちゃった!」
白いくつを見ると、両足のかかとがポッキリ折れています。
スプーンの精は、明るく笑って手をさしだしました。
「かしてごらん、直せるから!
ぼくはウェイビー。ここで休んでいきな、リトル・シュガー」
ふたりは、ランプのそばにならんで座りました。
ウェイビーは、くつを大切に直します。
「ふむふむ、ずいぶんすりへっていますね、お客さん」
「それはね、いつも使っているくつなの。
ドレスを作るのにいそがしくって、新しいくつを用意できなくて。わたしって、いつもそうなの」
リトル・シュガーは、はずかしそうに笑います。
それがとってもかわいくて、ウェイビーもいっしょに笑います。
妖精くんと流れ星は、たくさんおしゃべりをしました。
すっかり女の子が好きになったウェイビー。けれど、もう少しでくつが直ってしまいます。
(リトル・シュガーは、このくつをはいて飛んでいっちゃう。
豪華な舞踏会でおどったら、キッチンのスプーンのことなんて忘れちゃうよ……)
ウェイビーが迷っていると、女の子は、ランプにもたれてうとうとしはじめました。
やさしいあかりが閉じたまつげをかがやかせます。
スプーンの精の胸が、ぎゅっと苦しくなりました。
「あとちょっとだけ、いっしょにいたいな」
ウェイビーは、もとどおりになったくつを、ミルクポットの中に隠してしまいました。
そうして、
「わっ!」
と声をあげて、リトル・シュガーを起こします。
「大変だ、ネズミがくつを持ってっちゃった!」
女の子の大きなひとみが、サッと悲しい色になりました。
「まあ、どうしましょう!
はだしじゃ舞踏会にいけないわ。明け方までに、お城につかないといけないの」
「ぼくにまかせて。取りかえしてきてあげる」
パッと飛びたちながら、ウェイビーは考えます。
しばらく、くつが見つからないことにしよう。
あの子をはげまして、もう少しおしゃべりをして、それからきっとくつをかえそう……