女湯に忍び込むのにモヒカンは要らねぇだろ!
18:00
二泊三日の旅行の二日目に、その作戦は決行された。
当然覗き及び侵入は犯罪である。気を付けられよ。
「この日のために装備は完璧だぜ?」
後ろ姿は完璧なる女子。しかし前から見るともっと完璧なる女子! そう、アホ共はこの日のために化粧スキルのレベルをカンストするまで上げ腐りやがったのだ。
「待たせたな」
忍び寄るもう一人の男も、その見た目は完璧なまでに女子であった!
「野口は?」
「いや、まだ来てないな……」
「何やってんだアイツは……」
野太い声をヒソヒソと、二人がコソコソ辺りを見渡すと、異形が二人の傍を通りかかった。
「──おい野口……!」
「ん? あ、ああ! 二人とも女子にしか見えなかったぞ!? すげぇな!」
「そんなことはいい! 何故お前はその格好なんだ!?」
二人が頭と腰を指差す。
頭にはこれでもかと言うくらいの赤いモヒカンが、腰にはブーメランパンツが……そしてそれ以外は何も身に付けていなかった。
「ん? なにか変か?」
「何かじゃねぇ! 全てだ!!」
「いやぁ、これは想定外ですなぁ……」
二人が呆れた顔で野口を見つめる。あからさまな変質者ぶりは度を超しており、二人は示し合わしたかのように『コイツには犠牲になってもらうか』とアイコンタクトをした。
女湯と男湯は通路を挟んで反対側になっているため、覗くためには女湯に侵入するしか方法は無かった。そのための変装、そのための女装である。
「よし、行くぞ……!!」
「おう」
「うい」
女装二人、モヒカン一人が女湯の暖簾を潜り、脱衣所へと入っていった。二人は自らの背徳的な行為に鼓動の高鳴りを押さえられず、罪の意識とそれでも見たい欲望が入り混じり、一線を越えた後ろめたさが加わって脳細胞が震えるように覚醒していた。
そしてガラス戸の向こうからはお湯を流す音が聞こえ、その戸を挟んだ向こう側にこそは行けないが、湯上がり美人を一目拝もうと、三人は部屋の片隅でコーヒー牛乳を飲み始めた。
──ガラッ
そしてついにその時は訪れた!
「──!!」
「──!!」
「──!!」
三人の眉がピクリと動き、先ずは素肌を隠すバスタオルに目が行った。
しかし、すぐさまその異形に気付く二人!!
そう、なんとその女性は青のモヒカン刈りであったのだ──!!
「千枝美……」
「えっ? 隆介……!?」
赤と青のモヒカン刈りが出逢うとき──それは新たなる恋の始まりであった。
「俺に黙って部屋を出て行くことないだろ……」
「ごめんなさい……! ああでもしないとダメなんじゃないかなって……わたし……!!」
熱い抱擁を交わす二人。訳が分からない二人。
「早く服を着ないと、風邪ひくぞ」
「……ありがとう」
そそくさと服を着る女。そして「じゃ、後は頑張れよ」と野口は女と二人で脱衣所を出て行った……。
「……どうする?」
「……分からん。どうすれば良い?」
「……知らん」
「……だよな」
二人が二本目のコーヒー牛乳に手を付けようとしたとき、脱衣所へ入る暖簾が激しく動いた!
「おっ! 女の子居るじゃーん」
「しかも丁度2対2じゃん?」
脂ぎったヒゲ面、ハゲ、デブ、スネ毛、短パン半袖。それはもうあからさまにオッサンと呼ばれる類いの生き物が二人現れると、酷く酔った顔で女装二人へと近寄ってきた。
「ヒッ!」
「あわわ……!!」
自分達の女装がバレてしまう故に声も出せず騒ぎも起こせず、二人の肩にオッサンの手が回される。
「ワタシ、カズヤ。ヨロシクね♡」
「女の子同士仲良くしようぜ……!」
酒臭い吐息が顔にかかり、二人は引きつった顔で「は、はい……」と答えるしか無かった……。