8 ちょっとした復讐の話
「でね、私は少し怒っているんだ。もちろん罪は罪、その賠償金は国に払ってもらうけど……、フローラを一年も孤立させた上に、婚約者まで君の味方をしなかった。許せないと思わないかい?」
ショコラは濃厚に甘く、少量でも満足感があった。
その後味を洗い流すように、さっぱりとした柑橘系の冷たいフレーバーティーが運ばれてきて、殿下と私はお喋りをしていたのだが……急にこんな事を言い出した。
ジクリード公爵はケイトお兄様の言う通りなら喜んで慰謝料を払いあちらの有責で婚約破棄をしてくれるだろう。このショコラというお菓子が販売されていけば……自領は大いに潤う。
縁に頼る事なく保存の効く穀類を手に入れて、蓄えて置けるはずだ。
「ジュペル領は実は宝の山だと、アイゼンは知らなかったようだね。本当ならばジクリード公爵も頭を下げてでも婚約の継続を願いたかっただろうけど……宰相という立場で息子の不貞を元に散々な目にあっていたから、それはしないだろう。仕方なく、ネイピア子爵令嬢と結婚させるはずだ。ネイピア領は直轄地だから富みもしてなければ貧しくもない。とはいえ、ネイピア子爵にとっては公爵家との婚姻は名誉であり、アイゼンに嫁がせるのは不名誉だろうね。何せ、これからジュペル領はかなり盛り立てられていく、その家と不和になったのだから……社交界には顔を出せなさそうだ」
「殿下……、我が領が宝の山というのは、一体……?」
アイスティーを一口飲んで、殿下は面白そうに話し始めた。
「まず、豚肉。これは飼料にジュペル領で改良を続けたサツマイモが混ざっているでしょう。生のジャガイモは毒だからね。肉の味は食べたものの味というけど、ジュペル領の芋も肉も領内消費されてるから知らないだろうが、最高級食材になるレベルだ。サツマイモの収穫量も質もいい。豚は繁殖しやすくて量も取れる。カカオだけじゃないよ」
「まぁ……、全く知りませんでした。王都の豚肉を食べた時に、こういう物なのね、と思っていたので」
「ふふ……、それから、養蜂。これは数年前から技術者を向かわせている。コーヒーもショコラと合わせて売り出すし、コーヒーの花はジャスミンと似た芳香を放っている。安価な甘味として蜂蜜も売り出せる。サツマイモ、豚肉、コーヒー、カカオ、蜂蜜。それに今売り出してる白砂糖と黒砂糖。白砂糖は更に価格が高騰するだろうね、ショコラにたくさん使うから。コーヒーにも蜂蜜より砂糖の方が合う。相当潤うし、ジュペル領のノウハウも高く評価される。サツマイモと豚肉は数年ブランド物としてジュペル領が専売、その後は数が必要になるだろうから年間の売り上げに応じてジュペル領に使用料を払って他領でもやり始める」
実に楽しそうに我が領の発展を話してくれているが、我が家はそんなにすごい所だったのか、とポカンとしすぎて話についていくのが精一杯だ。
これが一体何の復讐に繋がるというのだろうか?
「つまりね……君がやられた事を、ジクリード公爵家と、ネイピア子爵家にやろうと思う」
私は、テーブルの下でスカートを握った。
「詳しくお聞かせください」
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