4 服が無い!
翌朝、クローゼットを開けた私は絶望的な事実と、ここまで見抜かれていたのかもというちょっとした恐怖に、下着姿で頭を抱えていた。
「ふ、服がない!」
学園を卒業したのだから、大人のレディとしてはしたない行動は慎まなければいけないとは分かっている。分かってはいるが……1年間、オシャレの機会がなかったと言うのはかなりの大ダメージだった。
背後で侍女2人がおろおろしているが、女の服の流行は早い。去年の今頃はまだ少しは出かけることもあったけれど、その時の流行は小花柄にフリルとパフスリーブで、今はAラインやハイウエストにパステルカラーと、あってもストライプ位の抑えたアクセントが流行っている。
さすがに最先端の服を着てくるだろう第二王子の隣を、去年の流行の服で歩くわけにもいかない。さりとて、いつ着てもいいようなドレスを着てカフェに行くのは目立ってしまう。
私はデートの服を買うため、伯爵令嬢という名目の元毎年与えられていた流行りの関係ないしっかりした作りのドレスを着て、急遽出かけることにした。
(だから明後日、なの……? 殿下、貴方はどこまで知っていてこうなさったのですか……!)
私は一応、今日は服を選んだら悲しみに浸るつもりだった。昨日も泣きそびれて、今日も泣きそびれて、では、いつ決壊してもおかしくないくらいには悲しい。
のに、殿下のやることなすことに翻弄されてそれどころではない。
きっちりメイクもしてもらい、髪も結い上げて、お父様の名義で買い物に行ける一番いいブティックにでかけた。
「わ……」
可愛い。ブティックの中にはいくつも普段着のサンプルが飾ってあり、パステルカラーでシンプルな形のブラウスやワンピース、スカート、合わせた靴まで見てちょっと驚いた。
余り肉感的では無い体型なので、色を間違えなければどれを着てもよさそうだ。
ブティックの店員さんと5着と3足まで絞り込んだが、さすがにいつまでも店内で唸るわけにもいかないし、今後も着る機会があるものだ。思い切って買い取った。
お父様には久々の出費の説明は、今朝伝令に事の顛末を書いた手紙を持たせて(昨夜書いたので今思い出すと恥ずかしい悲壮感に溢れた手紙だったが)おいたので、帰ってきた時にすればいいだろう。
貧乏とは言わないが、余り富んでもいないのが我が領、我が家だ。こんなにたくさん買ってしまった、という罪悪感はあれど、あとは明日の髪型を侍女と相談しながら服を決めればいい。
ブティックと同じ貴族街に出掛けるはずだけれど、一年引きこもっていた私は殿下がどこに連れて行ってくれるのか皆目見当もつかない。
楽しみだけれど、一体どうなる事か、そもそも久しぶりの他人との事務的で無い会話でちゃんと話せるのか……不安も大きい。
そんな気持ちで家に帰ったら、お客様です、と言われてそのまま応接間に向かった。一体誰だろう? と思うも、執事がそれで伝わると思ったという事はある程度知っている方だろう。
家の者にはまだ、婚約破棄の話はしていない。新しい婚約相手の話も。アイゼン様だったらどうしよう、と思いながら応接間に入ったら気が抜けた。
「よっ、フローラ! 卒業おめでとう!」
「ケイトお兄様……」
今は王宮で官僚として働いている従兄弟が、我が家のように寛いでお茶を飲んでいる所だった。
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