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29 広まっていく幸せの味

 カフェ・ガブリエラは短期間で、右肩上がりの売り上げを見せた。しかもリピーターが多い。これは、完全にショコラが貴族の間で流行りだしたことの証明になる。


 その売り上げを元にショコラトリーの建造を始め、もうそろそろお店が出せそうな技量と盛り付けを覚えたショコラティエには貴族街の開いた場所に専門の厨房を専門の業者に頼んで誂えた店を、国益事業部門が支援して造らせてある。


 それぞれ、ケーキのイートインのみや、持ち帰りのみ、特定の種類のみの販売といった特色を出している。


 全てガブリエラからの派生なので、小さくガブリエラの名前も入っている。同ブランドの商品です、という表示になれば、真似て作ろうとする商人の牽制にもなる。それに、カカオはガブリエラ以外には、ジュペル伯爵領からは今は卸していない。


 薬の材料としてのカカオは摘果したものを卸して、ちゃんと育ったショコラ向きのカカオはガブリエラと系列店専用に卸す専売契約が結ばれている。


 ここまで1年半。この成果を鑑みて、ガブリエル殿下はいよいよ、ガブリエル・ド・ショコラトール公爵となり、国益事業部門の責任者として収まった。


 カフェ・ガブリエラの厨房も任せられる人材も揃ったが、やはり元が趣味なので、時々顔を出しては一緒に商品開発をしている。


 私はというと、新商品がこうして熱心に開発されるので、社交活動の時間が増えた。私よりも経営の専門家に任せた方がいい事業規模になってきたし、私は学園での最後の1年が嘘のように、いろんな方との交流を深める事ができている。


 持ち帰りでも買えるようになったショコラだが、ショコラトール公爵就任と同時に、今は夫婦になったジクリード家とネイピア家への、ショコラの譲渡禁止、も法に付け加えられた。期限は変わらないが、その間もしも与えた者が居たらショコラトール公爵の権限で与えた家にも販売しないとされた。


 纏めると、あと8年はジクリード家、ネイピア家へのジュペルブランド品やガブリエラブランドの販売・譲渡の禁止。もちろんお茶会や夜会で食べさせるのもいけないのは変わらない。


 期限付きの事ではあるし、ジクリード領とネイピア領がどういった経緯で10年間のジュペル伯爵預かりになったかは皆が知るところである。


 わざわざ危険を冒す者もいなかったし、ジクリード家もネイピア家もそれを遵守できている。


 私は……何もここまでしなくても、という気持ちと、私は同年代の貴族の令息令嬢にあのまま不名誉な婚約破棄を押し通されていたら社交界でこういう立場になっていたのかもしれない、という恐怖の板挟みにあった。


 こうなったのが私なら、法ではなく、人の口に登る噂でどんどん広まり、ひどい事になっていったのだろう。期限も無く、嫁ぎ先も無く……そう思うと、この位なら、とも思ってしまう。


 でも、結婚のお祝いにショコラの最高級ケーキを贈っておいて、9年間それを口にできない状況を作るというのは……人は、1度の衝撃の方が強く心に残るものだという。きっと歯噛みしているに違いない。


 何かできないかな、と思って、私はガブリエル様にちょっとだけ相談してみた。


「……いいけど、君も甘いね?」


「ショコラトール公爵夫人になるのですから、甘いくらいがちょうどいいと思いませんか?」


「ふふ、そういう所、好きだよ。――じゃあ、ちょっと手を回そう。彼らが普段食べてる菓子店に、こっそりガブリエラから卸す形で委託販売の契約をしないとね」


「その位の書類仕事ならお任せくださいませ。……とびきり美味しいのを、作ってくださいね」


 ガブリエル様は私のお願いに、面白そうに笑うと肩を抱き寄せて前髪にキスをした。忙しくてお互いなかなか会う時間が取れないからか、結婚式ももう少し人が育って安定してからという事になっている。その分、二人きりの時間はとても甘くて、楽しいものだった。


「もちろん、とびっきり幸せの味がするお菓子を作るよ」

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