25 ショコラの皿選び
ケイトお兄様とガブリエル殿下の知るところだった公爵家への相談に一応私は納得したので、サンプルに貰って帰って来た皿を持ってガブリエラへと運び込んだ。
20を越える木の平らな箱は、割れないように柔らかい紙で包まれた皿が入っている。らしい。
私やお父様が見てもさっぱり分からないので、オリバーに全部見てもらう事にして開封していない。
「オリバー、皿のサンプルが届いたの。どれがいいか見てもらえる?」
今は厨房で、ショコラのケーキやショコラをいかに美しく、美味しそうに見せるかの指導をしているオリバーに声を掛ける。
客室の一つではモルガン指導の元、接客の言葉遣いや立ち姿、皿の置き方の指導が行われている。怒鳴ったり嫌味を言ったりはせずに、モルガンは根気よく部下となる人間を育てているようだ。今の所従業員から不満は出ていない。
「ショコラのケーキは皿の中央に置けって! だぁ、もう、触ったら指の跡がつくんだから慎重に……、っと、フローラ様、了解っす」
一方のオリバーは、職人たちへの指導に四苦八苦していた。どんな皿でも置く位置を狙って置けるようにしないと、人肌で溶けてしまうショコラのケーキは確かに大変だ。置き直しが出来ない。
トリュフ等も専用の器具で置いてからカカオの粉末と砂糖を混ぜたものを振りかけるらしい。
ショコラそのものの作り方や、ショコラを使った各種お菓子の作り方は殿下にみっちり仕込まれたショコラティエたちも、盛り付けには四苦八苦していた。違った才能がやはり必要らしい。とはいえ、オリバーを盛りつけ専門にするわけにはいかない、店が回らなくなる。
というわけで、今は彼らの指導をして貰っているところだ。ガブリエル殿下も「私はオリバーのようにはいかないからね」とオリバーの才能を認めている。『凝り性』の殿下にしては珍しいことである。
一階の客間の一つに運び込まれた皿の山にオリバーを案内すると、オリバーはソファに座って一つ一つ箱を開けていった。
並べてみるつもりらしいと気付いた私は、その開かれた箱を良く見えるように順番に横に並べていった。
テーブルには収まりきらない量なので、床に膝をついての作業だ。オリバーは床に最初から座り込んでいる。
中に納まっていた皿は、私の想像を超えて美しい品々だった。
瑠璃色の四角い皿は表面が平なのに波打っているように見える。白い皿に繊細な絵が描かれているものもある。丸い皿の右斜め上に女神が、左下に牡鹿が象られている皿もあるし、どの工房の品も素晴らしい逸品だ。
オリバーも難しい顔で立ち上がって皿を見比べている。美術鑑賞……特に絵画はそうだが、離れて観るとその美しさはまた違って見える。オリバーは離れて皿を一望してから、一枚一枚の皿を、ちょうどテーブルについた時に見える距離で眺めていく。手には取らない。皿は置いて使う物で、手に取って眺めるものでは無いからだ。
オリバーは白い皿に置いたときにはバラを散らすと言った。しかし、薔薇の季節にだけショコラは提供されるものじゃない。
一年中ショコラは提供される。その為には、薔薇の花に劣らない皿が必要だ。そして、皿とティーウェアやコーヒーウェアは同じ種類の物が好ましい。
それらを総合して、オリバーはじっと皿を観察し続けた。私の方が根を上げそうになったが、これはガブリエラにとって大事なことだ。私はオリバーが選んだ理由を聞かなければならないし、何をどうして選んだのか興味がある。
「……うん、やっぱり、これだな。これが、年中よさそうだ。庭は季節ごとに作るけど、皿は年中だからな」
そうしてオリバーが選んだのは、白く滑らかな平らな皿に金の縁取りがされ、華やかながら控えめな植物と花が描かれた皿だった。




