20 ガブリエラの従業員面接
最初に入ってきた子は、そばかすの散った顔のハキハキと話す、ショートカットの茶色の巻き毛の女の子だった。15歳くらいかな、と思って書類に目を落とすと17歳とある。童顔だ。
「城では洗濯係をしていました、ユーリーです。よろしくお願いします!」
少し元気が良すぎるけれど、笑顔は抜群に可愛い。私たちを前に緊張していないのも重要だ。客は貴族だから、臆してしまって普段の働きが出来なければ意味がない。
どんな事が好きで、洗濯係の仕事内容を聞いて、それに対する答えもハキハキしているし、仕事内容は細かく語れるくらいに熟知している。
今後全く新しい事をするようになるが、これならきちんと教えればうまく働いてくれそうだ。
モルガンとも頷きあって、ユーリーは合格となった。
モルガンの見る目は確かなようで、厨房係であったり雑務係(備品の整理整頓などを行う使用人だ)であったりしても、あまりこの場に緊張せず、溌剌としていたり、たどたどしくも礼儀正しくあったりしていた。皆好感が持てる。
全員雇うつもりで、というモルガンの慧眼には感謝したい。拗ねていても、大事な仕事だと言われた事はキッチリ守る。そういう人だからガブリエル様も選んだのだろう。
ただ、面接の最後に入ってきた青年だけは様子が違った。
金髪に水色の目をした青年は不機嫌を隠そうともせず、面接用の椅子を音を立てて引いて脚を組んで座る。
オリバーという彼は、城の庭師の弟子だったらしい。その彼を引き抜いた意味が分からず、モルガンを見ると苦笑していた。
「彼はとてもセンスがあるのです。接客もですが、店内の飾り付けや盛り付けにそのセンスが活かせるのではないかと……」
ひっそりと耳打ちされた内容に合点がいった。
彼は庭師としてそろそろ独立できる立場だったのだろう。この若さでそこまでに至るのは、センスだけではなく技を盗む目と努力が必要だ。
「オリバー、私はこのカフェの裏方の責任者のフローラです。貴方、城ではどこの庭を造っていたの?」
「……初夏の白薔薇の庭、春の小径の庭、冬の夕庭。あとは、師匠と一緒に手入れして回ってました」
声が硬いが、見習いで3つも庭を任されるのは凄い事だ。城の庭は無数にあるが、どれもガブリエル様と見て回った事がある。お茶会の会場に使われた白薔薇の庭は素晴らしかったし、冬の夕庭はポインセチアという、花ではなく葉が赤く花ひらいたような植物と白い大柄の花の取り合わせが、雪の降らないこの国にも冬の雰囲気を運んでくれていた。
春の小径は自然の丘のようになっていながら、絶妙な配色で春に満開になる背の低い花が固められた小径の脇に並んでいる庭だ。
「どれも知っているわ。すごく綺麗な庭だった。あなたはあまりこの仕事がしたくない?」
「まぁ、正直……興味はないっすね」
「少し待っていて」
私は裏の事務所の応接間に向かって、ショコラをシンプルな白い皿に載せて持ってきた。
「なんすか、これ」
「この店の商品よ。私は飾り付けは全く出来ないけれど、貴方ならこの商品をどう飾る?」
茶色の濃淡はあっても彩には欠ける。お菓子としては完成されているから、盛り付けは難しい課題の一つだ。
「……薔薇を散らしますね。茶色が引き立つ赤か、白、皿は青と金のふちどり。季節によっては紫もいいと思いますけど。ブローチみたいなんで、そのつもりで天鵞絨を下に敷くように、色を足します」
「それよ! お願い、オリバー! 接客は嫌ならしなくていいわ、盛り付けと食器の組み合わせの指示を出してちょうだい!」
モルガンもそのつもりで引き抜いてきたに違いない。
ショコラの職人は、口の硬さと温度管理などの細かい事が苦にならない器用さを優先して選んでいる。
食べ物と花を盛り付けるなんて発想が出てくる人はいない。みんな製作の方に掛かりきりになるはずだ。
そして、オリバーのセンスは数年後、独立して店を出す時にも役に立つ。
「あなたのセンスが必要なの。これを、貴族に、目でも楽しんで欲しいのよ。そして、お店の内装から食器類まで、あなたのセンスで必要な物は揃えるわ。お願い、庭師として大成したいならきっとここは合わないけれど、才能を発揮したいなら、この場所は最高の場所よ」
私はモルガンに口も挟ませずオリバーを熱心に勧誘した。本当に素晴らしい発想だ。食べ物を飾るのは食べ物と思っていたが、薔薇の花びらで飾るだなんて誰が思うだろう。
オリバーは難しい顔で考え込んでいた。
「俺は……庭師の師匠に見出されてなきゃ、スラムでのたれ死んでたヤツです。師匠は、チャンスだから行ってこいって言ってくれましたけど……」
「生まれは関係無いわ。貴方が師匠の元で磨いたセンスが欲しいの」
オリバーは、いよいよもって言いたく無いことを言わなきゃいけない、という顔でため息をついて頭をかいた。
「いくら出しますか? 俺に」
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