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19 従業員取り纏め役・モルガン

「本日よりカフェ・ガブリエラ、従業員取り纏め役として就任致しました、モルガンです。よろしくお願い致します、フローラ様」


 本当にこの人が? と思ってしまったのは許して欲しい。


 硬い表情に硬質な銀髪を綺麗に撫でつけて固め、清潔感は抜群だが鋭い灰色の目と相まって愛想が無さすぎる。


 このカフェは華やかで素敵な場所だ。高級感もあるから多少の硬さは必要だろうと思うけれど、この人の接客は高級感よりも恐怖を与えそう、というのが私の感想だった。


「えぇと、モルガン? あの、従業員の取り纏め役は貴方なのよね」


「そのように仰せつかってここに参りました」


 私の質問に、少し眉間に皺が寄った。


「失礼でなければだけれど、貴方の王宮での役職は?」


「はい。男爵位をいただきました、執事でございます」


 なのに、爵位名は名乗らない。先程の反応を見る限り、この人は硬い訳ではない。


 左遷された、と思って内心とっても不貞腐れているのだろう。ガブリエル様は信用して寄越したのだろうけど、忙しくてちゃんとガブリエラの事を説明していないに違いない。


 ケイトお兄様がそこはフォローすべきだけれど、お兄様も忙しい。だから私に「お前も面接に参加しろ」「喧嘩するな」と言い含めていったんだ。


 つまり、信頼に値する人物だから選ばれたのに、まだプロジェクトの全貌は内緒だから、この人は何も知らずに第二王子の道楽に付き合わされている、と思っているのだろう。


(困ったわ……、どこまで話していいのかしら)


 ガブリエル様は、裏方を私に任せる、と言った。私はこの人に従業員を任せる立場にある。


 従業員全員に知らせる必要はない。大事な仕事だと思って、誠心誠意働いてくれればいい。


 きっとモルガンは接客の技術と、口の硬さについてはガブリエル様とお兄様の折り紙つきだ。だからここに責任者として派遣されている。


 なら、私はこの人には話さなきゃいけない。面接の前に、ガブリエラがこの国にとってどんな重要な場所になるのかを。


「モルガン、早速だけどお茶を淹れてくれる? 少し話があるの」


「かしこまりました」


 綺麗な一礼をして給湯室に去っていく。客室は10以上ある。広い給湯室にはいくつものお湯を沸かす暖炉と高級な茶器……それに、コーヒーウェアも揃っているし、茶葉も砂糖も蜂蜜もコーヒーもある。


 何を淹れてくるか楽しみにしながら、私は応接間の棚から宝飾品を象ったショコラを取り出して飾り皿に並べた。


 周りにレースのような穴が空いた白い皿に並べるだけで、本当に美しいお菓子だ。プロが盛り付ければより一層だろう。そして、モルガンはこのショコラの事をよく知らないのだ。


 極秘だから当たり前だけれど。だけど、扱う商品なのだから、接客担当者が決まったら一度はちゃんと食べてもらわなければ。


「お茶が入りました。凄いですね、コーヒーまで淹れられるとは思わず……一先ずは、紅茶をお持ちしました」


「ふふ、コーヒーの方がたくさん淹れることになるわよ。座って、モルガン」


 そうして私たちはショコラを挟んで対面に座り、美味しいお茶を飲みながら、ショコラをつまんだ。


 彼はその間説明された、カフェ・ガブリエラの重要性に目を白黒させ、得体の知れない綺麗な菓子を一口食べると、目を輝かせた。


「……だからね、モルガン。貴方はガブリエル殿下に信頼されてここに寄越されたの。情報を外に出さない、出すような人を従業員に選ばない、それでいて接客の腕は一流で、指導もできる。王宮で高い位に就く事はたぶんできないわ、長い仕事になるもの。……でも、国にとってもとても大事な仕事なの」


「フローラ様……、私が勝手に拗ねていた事を恥じています。たしかに殿下は、とても大事な仕事だと私に言ったのに……まだオープンもしていない、殿下の個人的なカフェの従業員の取り纏め役とは、と。誠心誠意お支えし、この店を盛り立てていきます。——このような素晴らしい菓子を扱う、国で一つだけの店。やり甲斐が出てきました」


「その調子よ。よろしくお願いするわね。で、面接はどうやって募ったのかしら?」


「はい。城の下働きの者に声をかけました。あまり位は高くないですが、城で雇い入れている者は身元がしっかりしています。洗濯係や厨房の下働きなど、補充のききやすいところから声掛けをしています。一応は、全員雇うつもりで」


「面接は一応という形なのね。わかったわ。夕方からだったかしら?」


「はい。あと2時間後ですね」


 壁にかかった時計を見て、モルガンは頷く。


 私は面接の内容について、モルガンから詳しく話を聞いた。

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