18 カフェ・ガブリエラのお手伝い
「あら、ケイトお兄様」
「フローラ、だいぶ顔色よくなってんじゃん? 殿下のお陰かね〜」
正式な婚約から2週間、私は殿下の忙しさが見ていられなくて、カフェ・ガブリエラを手伝う事にした。
学園を卒業したばかりだが、貴族は卒業と同時に家督を継ぐ人もいる。ある程度の政治経済、それに関係する帳簿やお金の流れはしっかり習う。税金もだ。
事業をしている貴族も多いので、私もその知識で多少のお手伝いがしたいと申し出たら、ガブリエラの裏方の取り仕切りを任された。といっても、プレオープンに呼ぶべきお客様と、研究用の仕入れと商品用の仕入れ、そして厨房の維持費に商品管理費、人件費……意外と多くのお金に関わる事になった。
学業の傍らこの草案と、カカオを使ったショコラの研究、さらにはジュペル領の特産品の汎用性を見極めて事業にしていたのだから、ガブリエル様の器用さには頭が上がらない。
あ、殿下呼びは禁止された。婚約者だし、今後は公爵になるから今から名前で呼んで、と。まだ極秘事項なので人前では殿下だけれど、ケイトお兄様の前ならいいようだった。
「ケイトお兄様はどんな仕事をなさってるんですか?」
「ん〜、強いて言えば見回り担当かな。あらゆる店でジュペル領の特産品を扱うようになったしな、それを見回ってる」
「じゃあ、ここも?」
「そ、度々顔出すからヨロシク。お金の関係とかはお前に任せときゃいいけど、技術の流出ばっかりはな。やっぱり見張らないとならないし」
ショコラはプレオープンからも暫くは持ち帰りはできない。数年単位で、ガブリエラでしか口にできないお菓子になる。
充分な客室と、従業員、そして強気な値段設定。これは研究費も含まれている。
カカオをショコラにするには、ガブリエラにある特別な厨房でないと難しい。温度調節が必要で、季節によって内部の温度が変わってしまう普通の厨房ではダメなのだそうだ。これも、極秘事項。
冷え過ぎても暑過ぎてもいけない。だから、持ち帰れるような商品が作れるような職人が育つまで……ちなみに職人はショコラティエ、と呼ばれるらしい……持ち帰りは禁止。需要と供給のバランスが悪くなるし、ガブリエラで食べられる特別なお菓子、というのを印象付ける。
そうすれば、いざ持ち帰り販売のお店ができても、値段が高い、などという人は出てこないだろう。ショコラは高級菓子として、貴族の間で流行っていくはずだ。
とても、長い目で見れば。
ガブリエル様はどこまで考えているのか、私にはやっぱりわからない。テストの成績をずっと追いかけていたように、私は一部門のお手伝いが精一杯だ。
「何考え込んじゃってんの。あのね、お前がいなかったら殿下の負担は凄かったんだから自信持てよ」
「そう思いますか?」
「そりゃーだって、信用に値する経済と流通と会計が理解できる、外に話を漏らさない専門家を雇うって……結構な労力だぞ。人を探すくらいなら私がやる、だなんて言いかねないからな、あの方は」
「それも、そうですね。私は一番信用……できる、知識も備えた人間です」
私の言葉にケイトお兄様が笑って軽く背を叩いた。
「そういうこと。あ、そうだ、明日から従業員の面接するってよ。この間は王宮の使用人を駆り出したからな、王宮側から一人責任者を引き抜いたからその人がメインで従業員の面倒は見るけど、お前も面接参加しといたら?」
「私も?」
「なんかその方がいい気がするわ。お前がダメって思った人間はたぶん採用されないから。あ、でも従業員の責任者の話もよく聞けよ、喧嘩するなよ」
ケイトお兄様の言ってる言葉は要領を得なかったが、わかりました、と頷いておいた。
この後は違う店を見回るらしい。お兄様も忙しそうだ。
とりあえず、私も事務所に戻って研究用のカカオと厨房維持費の帳簿付の続きに戻った。
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