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12 素朴なお菓子

 スイートポテトの材料は簡単だ。


 サツマイモに、生クリームとバター、好みでバニラエッセンスやブランデーを香り付けに混ぜるだけ。途中弱火にかけて水分を飛ばしたりすれば滑らかで濃厚な舌触りになる。


 あとは卵黄と生クリームを混ぜたものを塗って焼けば完成だ。ジュペル領のサツマイモは、品種改良の成果で糖度が高いので砂糖を入れたらくどくなるのだ。


 お菓子作りの素人でも簡単ですよとシェフに太鼓判を押された。


 なのだが。だったはずなのだが。


「18年間生きてきてこんなに無力感を感じたのは初めてだわ……」


 表面の黒焦げを取って、よく出来ている中身を食べる。当然味はよくても焦げた匂いはするし、見た目もよくない。


 シェフが気を利かせてミルク粥に混ぜたり、ポタージュにしたりと失敗作を工夫して食卓に出してくれる。私が食べ切れる量しか失敗してないのが救いだ。


(何が悪いのかしら……、プロに見てもらいながら作ってるのに……)


 今日も少し甘めのミルク粥(スイートポテトのみじん切り入り)を食べてから、厨房に顔を出す。宝石箱の中身は、あと3つまで減っていた。


 ちょうどシェフが何か作っていたようだ。焦げているのかと思うような匂いだが、不快ではなく逆にいい香りがする。


「それは何?」


「カラメルソースですよ、と……はい、お嬢様。デザートです」


 鍋の中でふつふつと煮立ったカラメルソースは火を止めるととろりとした茶色で、失敗作のスイートポテトを伸ばして卵とミルクを足して器で蒸したものの上にかけられた。


 器自体はひんやりと冷えていて、熱いソースはトロトロと半透明にサツマイモ色をした表面をすべっている。


「ありがとう。いただくわね」


「それはサツマイモのプリンで、今かけた茶色いのがカラメルソース。これは砂糖と水を煮詰めて作るんです。焦げないようにするのが難しくて……目が離せないんですよ」


「砂糖って……焦げるの?」


「はい。焦げやすいです。水の量を間違えると飴になってしまいますし」


 だからこんな茶色くなっているのか、と思いながらプリンを匙で掬ってカラメルソースごと口に入れる。


 溶けた飴玉のような直接的な甘さが、素朴な味のプリンに絡んで、冷たくて柔らかくて、美味しい。焼けているから茶色になっているのだろうが、ほんのり苦味も感じる。それが嫌じゃない。


(砂糖が焦げる……なら、糖度の高いサツマイモも焦げやすい……?)


 プリンを食べている間考えていたが、やっとそこに思い当たった。レシピ通りでは我が領のサツマイモのスイートポテトは焦げてしまう。


 もっと低温で焼かないと……あとは小まめに様子を見て、キツネ色になったら取り出す。


 私はプリンをごちそうさまときれいに食べた後、今日もスイートポテト作りを始めた。シェフのおかげでうまくいきそうな気がする。


 生地を形成して、卵黄と生クリームを塗って……普段より低温の釜に入れて覗き窓から様子をじっと見守る。


 綺麗な狐色の焼き目がついたそれを取り出して、少しさます。焦げてないだけでも大成功だ。


「 みんな、助けてくれてありがとう! おかげで綺麗に出来たわ。よかったら味見してくれるかしら?」


 今の所、見た目が焦げているので私しか失敗スイートポテトは食べていない。


 1度に焼く数も5個までと決めて練習していた。


 幾つかに切り分けて振る舞ったら、皆美味しいと言ってくれる。私も一つ食べてみたが、素朴で美味しかった。


 ようやく今日は普通にご飯が食べられる、と思うと、頑張ったなと思う。確かに、お菓子作りは楽しい、ガブリエル殿下がハマるのも分かる。


 だけど、今後私が作るのはこのお菓子だけにしよう。失敗したクッキーを食べ続けるのはちょっと辛いもの。

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