99 無敵ゾンビ
「そう。これは回復魔法の心得を学ぶ際に聞く話なんだけど、人は死んだ時、一定時間死体を守る力が働いて、ありとあらゆる攻撃が効かなくなるんだよ。この無敵時間は神様が授けた祝福で、既に失われてしまっている蘇生魔法の猶予時間なんて言われているんだ。使役魔もある程度育てると発生するようになるね」
死者の蘇生というのは物語とかで語られる奇跡の魔法だ。
今では失われてしまっているとか色々と言われていて、死んだ人は生き返らない。
その蘇生の猶予時間として人は死ぬと非常に頑丈になる……死後硬直と言われている。
ルナスの勇者の怒りで大幅に強化された攻撃を受けても、マシュアやルセン、ドラーク達の死体が残っていたのはそれが原因だ。
でなければルナスのメガ・ブレイズで跡形も残らないだろう。
「で、ここで僕のスキルが関わってくるんだけどね。墓守……死者を埋葬する力でもあるんだけど逆も出来る。つまり……」
シュタインが魔法を唱えると黒焦げになっていた魔物の亡骸がむくりと起き上がった。
「ヌ、ヌマアアア!?」
クマールがびっくりして俺にすり寄ってきた。
「し、死霊術か!?」
「正解。僕は死霊術、ネクロマンシーが使える教会の執行人なんだ」
なるほど。
シュタインがファーストスキルを明かさずに教会所属になったのはそういう理由があったのか。
墓守とやらは随分と特殊なスキルらしいな。
同時に納得する部分もあった。
墓守……この場合、職業としての墓守の事なんだけど、墓を守る人ってそれなりに高い立場だった人が多いと聞いた事がある。
一国の王や歴史に名を残した様な勇者……貴族や権力者の墓を死後も守り続ける役割を担うんだ。
並大抵の忠誠心では務まらないし、権力者の墓となれば結構な財宝を一緒に埋めたりもする。
そういった墓荒らしや盗賊を撃退するだけの戦闘能力も求められるとか。
こういった関係で教会が職業として認定している。
そうでなくても死に関係する事は教会が受け持つ事が多い。
だから死霊を操るスキルに関しても教会が管理しているんだろう。
「表向きはプリーストでもあるけどね。戦闘は死体操作なのさ。後は分かるでしょ?」
「なるほど……味方を犠牲にして強くなる外道勇者にはこれほど適した相手は居ないな。無敵の元仲間ゾンビと外道冒険者による同士討ちが始まる訳だな」
「ご名答、勇者の怒りの効果時間は大体死んだ仲間の無敵時間と同じ。新鮮なゾンビは生前の戦闘力より多少落ちるけど術者の能力に合わせて強くなる。大抵の外道冒険者は同士討ちで終わりさ」
なんとも恐ろしい話をしている。
無敵のゾンビによって勇者の怒りを乱用する勇者は処分されるという事か。
確かにそれは納得だ。
味方を当たり前のように犠牲にする外道勇者にはふさわしい末路だろう。
……死霊術、ね。
死んだフリ……なんか嫌な予感がしてきたぞ。
「僕の戦闘スタイルは死体を操って戦うって事なんだ」




