97 公平でも公正でもない
「信用に値するのかね?」
「そこはリエル次第……だね。勇者ルナスさん、君はあくまでリエルのお陰でそれだけの力が振るえる事がわかっているんでしょ?」
シュタインが俺に話題を振る。
……確かにルナスは俺に決定権があって交渉をしてきた。
俺はそんなルナスの提案を断らずに今、ここにいる。
「痛い所を突く。君は随分と賢いな。私の知る賢者に爪の垢を飲ませたいものだ」
おい……こんな所でもルセンを出すのはやめてやれって……確かにシュタインの方が賢いと俺も思うけどさ。
「ま、そんなすぐに決めなくても今回は僕が白だって伝えるし、周知させないよ。信用が出来る権力者に説明しておくよ。あっちもバカじゃなからね。詳しい話をしなくても勇者ルナス、君の活躍を目当てに守ってもらえるさ」
まあ勇者の怒りを常時使えるなら40階層よりも深く潜れるだろうからな。
そこから生み出される利益を考えれば、上の人間も無下にしたりはしないか。
「内じゃ有名だけど、そもそも勇者ドラークなんて上に結構な上納金を払って自分達の悪事を見逃してもらったり、暗躍に加担させられていたりするんだよ。まあその勇者ドラークも最近は色々やり過ぎな面があったから査察が入る予定だったんだけどねぇ……帰ってこないからさ」
なんていうか、社会の汚い所って感じだ。
王宮や教会、貴族はそういうの好きだよな。
知ってはいたが、王宮は公平でも公正でもないんだ。
表だった事ならともかく、裏では偉い人の考え一つでどうとでもなってしまう所があるのは否定しない。
それは国境を越えた勢力を持つ教会も一緒だ。
実際、ドラーク残党が金を出して教会に依頼したからシュタインの監査が入っている訳だしな。
どこかの国では民衆が政治を担うなんて話もあるけど、眉唾だよなぁ。
そういう意味では、いざって時になんとかしてくれるルナスみたいな存在は俺にとってありがたいのか?
まあ死んだフリが失われる恐怖も加味されているとは思うけど、ルナスってこの辺りの友情的な道徳はある方だしな。
マシュア達の言い分に怒っていた位だし。
「というよりも今までも監査は入っているんだよ。それこそ僕よりも潜伏スキルが強力なファーストスキルの人の奴がね。それ位、王宮も教会も勇者の怒りみたいな、厄介だけど捨て置けないスキルの人には気を使っているって事だね」
今までも監査はあったけど白と判断されていた、と。
実際ルナスは仲間を殺していない以上、黒と診断出来ないもんな。
そもそも俺達はマシュアとルセンがああなるまでずっと4人でやってきていたし、メンバーの増減も無かった。
そのマシュアとルセンが消えた事を理由にドラーク残党が金を積んで再調査が入り、黒なら暗殺という訳だ。
結果、シュタインが来て……今に至る。
「ねぇ、勇者ルナスさん、帰ってこない勇者ドラークと仲間の力で勇者の怒りを常時発動出来る勇者ルナス、上の人はどっちを優遇すると思う?」
「……」
本当、嫌な世界だよな。
これって要するに仮に俺達がドラーク一行を仕留めていたとしても、ルナスが今後発生させる利益の方を優先するから大丈夫だよって言っているんだ。
「我々の状況は理解した。で? これだけ機密に関わる様な事を話して協力してくれるのはリエルの事を慕っての事なのかね?」
ルナスの質問に俺は……シュタインの性格からして違うだろうなーと薄々思っている。
言ってはなんだけど、付き合いは良いけど、なんて言うか腹黒い所がある奴がシュタインって奴なんだ。
きっと何か裏があるのは間違い無い。




