93 幼馴染
ファーストスキルなら多少は良いんだけど……という所でクマールが先ほど振り返った事を思い出した。
「ヌマ……」
ああ、やっぱりクマールは気づきかけていたようだ。
だけどクマールの把握はファーストスキルだけどまだ習熟が足りなかったんだろう。
しかし、短い期間で俺よりも精度が上がってきていると思うと、やはりファーストとセカンドのスキルの差は大きいという事か。
「まずは姿を見せたらどうだ?」
「いきなり攻撃はするつもりは……なさそうだね。リエル、君も彼女にいきなり攻撃しないようにお願いしてほしいな」
そう言いながら声の主は俺達の後方、迷宮の暗がりからゆっくりとこっちに現われる。
長めの前髪で目元がよく見えない……遠目だと少女にも見える人物。
「お前は……」
「や、久しぶりだね」
「知り合いか?」
「ああ……だが……」
そう、俺にはこの人物に見覚えがあった。
とはいえ、こんな迷宮の中で警戒を解く程、俺も残念な頭はしていない。
「つれないなー。遊んでくれた仲じゃない。リエル……お兄ちゃん」
「おい……」
なぜここで猫撫で声でお兄ちゃん呼びをした。
お前とそんな関係だった覚えはないぞ。
「クソッ!」
「ヌマ!?」
ここでルナスがなぜか悪態を吐いた。
クマールがちょっとビックリしているじゃないか。
「まさかこんな所で思い出の妹キャラの登場か!? いや、幼馴染とか昔なじみか! 道理で私の誘惑が全く効かないはずだ! どうせ昔交わした約束などがあるんだろう! このモテ男が! 最近は幼馴染もメインヒロインを張れる位になったもんなぁ!」
「いや、なんでルナスがルセンみたいな事を言ってるんだよ」
「わからないはずがないだろう!」
何かルナスは激しく誤解をしている。
というか意図的に誤解させられている。
「うん、リエルお兄ちゃんは婚約者がいたんだよ」
「リエル、まさか既に将来を約束した恋人がいたとはな……だが私はその程度で諦めはせんぞ!」
「だからルナス、落ち付けって」
「これが落ち付いてなど居られるか! フリーだと思っていた君に恋人がここまで追いかけてきたのだぞ」
「うん、お兄ちゃん! お兄ちゃんを追いかけてきたけど、凄く深い迷宮まで来られて怖ーい」
「あのな……いい加減、その悪ふざけは大概にしてくれ、シュタイン」
まったく、久しぶりに再会したかと思ったらこんな悪ふざけをしてくるとか厄介極まりない。
「ふふふ……相変わらずリエルは真面目だね」
「遊びで人間関係を砕かれたらたまったもんじゃないんだよ」
「なんだ? 二人にしか分からない会話か? 私を仲間はずれにするのは良くないぞ! へそを曲げるぞ! 聞いてるのか! 私はヒロインの追加など認めんからな!」
ルナスも一体何を言っているんだ。
ヒロインの追加とか……読書や演劇鑑賞が趣味だからか?
「ルナスも落ち付けって言ってるだろ。コイツの名前はシュタイン。ぱっと見だと女の子にも見えるが立派な男だよ」




