09 最強の鍵
「いや、勇者を差し置いてレンジャーがリーダーじゃ箔が付かないでしょう」
「ならば影のリーダーが君だ。表向きは私がリーダーを続けるが、これからは君の指示の下に動こうじゃないか」
うわぁ……押してくるなぁ。
そんなにも俺に死んだフリをさせたいのか?
「何よりこうは思わないかい? 裏から勇者を操って好きに出来る、とね。そう考えれば、いい気分にならないかい?」
どうしてこの人はこう、悪人っぽい言い回しをするんだ?
寡黙だから気付かなかったぞ。
しゃべり出したら馬脚が出てきた。
いや、だからこそ今まで黙っていたのか?
俺は何の取引に巻き込まれているんだろうか。
「なんていうか、残念だな」
「な、何故、私の見習い時代のあだ名を知っている!?」
知るかよ!
え? あんた、残念とか呼ばれてたのかよ。
随分と出世したもんだな。
なんか、その悪意の籠ったあだ名だけでルナスの暗い過去を鑑みてしまった気がする。
「オホン! 信じていた仲間にあんな事を言われた後だからね。君も傷ついているだろう……地位と金銭だけで不服ならば、私の身体を付けてもいい」
「はぁ!?」
ルナスは勇者だ。
最前線で武器を持って戦う関係、身体は引き締まっている。
そうでなくても美少女だ。
彼女に言い寄られれば大抵の男はイチコロだろう。
今は防具に身を包んでいるのでそうでもないが、どうしたって異性を意識する瞬間というのはあった。
だが、誓って言うが俺は仲間をそんな風に見ようと思った事は一度もない。
パーティーの仲間っていうのは……いや、そういう関係もあるかもしれないけど、そういうんじゃないんだ。
「……俺を篭絡してまで最強とやらで居たいのか?」
「軽蔑したかい? いや、軽蔑してくれ。だが、わかってもほしい。私は女の部分を利用してでも弱い頃の私に戻りたくないんだ」
「……」
正直に言えば少し軽蔑した。
けど、ルナスの気持ちもわかってしまう。
俺は弱い。
ファーストスキルは死んだフリという最低最悪のザコスキルだった。
他にこのスキルを持っている人なんて見たことが無い。
そりゃあそうだ。死んだフリの才能があるとか、どんな冗談だ。
このスキルを授かった時の周囲の視線は忘れられない。
同情と嘲笑の混じった、嫌な視線だった。
「君の死んだフリはゴミスキルではない。私の抜けなかった聖剣を抜くための鍵だ。今までは隠していて君が使うまで待機していたが、これからは初手から使うことが出来る。恥を晒しただけの価値があるはずだ」
それでも俺は俺なりに今日までがんばってきた。
ルナスやマシュア、ルセンとパーティーを組んで、彼等に胸を張れる様に努力してきた。
仲間達と出会って変わる事が出来た。
出来た……つもりだった。
けれど、そのがんばりもマシュアやルセンからすればどうでもいいモノだった。
「リエル。君が私を最強の勇者で居させてくれるなら私はなんだってしよう。君が力を望むなら、どんな強大な敵でも私が倒そう。君が富を望むなら私が稼いで渡そう。君が異性を望むなら私を捧げよう」