87 甘味
「ヌマヌマ」
「うん、問題ないな。クマール。食べて良いぞー」
「ヌマ！」
ジャングルビーの巣蜜をクマールはムシャムシャと美味しそうに食べ始める。
「ヌマァ！ ヌマ！」
超美味い！ って感じでクマールは全身を使って喜びをアピールしている。
それから蜜蠟の一部を俺にそっと差し出す。
「クマールの為に採ったんだから好きに食って良いんだぞー」
「ヌマー」
俺に渡そうとクマールは差し出すポーズをやめない。
「ふふ、君も一緒に食べてほしいとクマールは言いたいのではないか？」
「ヌマ！」
ルナスの言葉にクマールが鳴いて答える。
「そうか、じゃあ俺も少し貰うかな」
と、クマールから蜜蠟を貰って頬張る。
うん。六角形の巣材の食感はサクサクしていて歯ごたえがとても良い。
更に蜂蜜が十分に染みこんでいて、素晴らしい味わいをしている。
「ヌマー！」
美味しい！ 超美味い！ 生きてて良かった！ ってばかりにクマールがジャングルビーの蜜蠟を貪っていく。
「ああ、美味しいな」
「ヌマー！」
ボリボリと食べながら俺は蜜蠟を絞って蜂蜜を瓶に入れ、確保してリュックに入れる。
「迷宮で甘味を調達だな。しばらく食事が楽しみだ。君の料理は格別だからな」
「ルナスは何が食べたい？」
「君が作るチーズピザに蜂蜜を掛けた奴が美味いな」
ああ、あの料理ね。
じゃあ次の飯はそれを作るとしよう。
蜂蜜は使い道が多くて助かる。
「さてと……あんまり長居するとジャングルビーの兵隊とかが駆けつけてくるだろうから程々にして行こうか」
「ふふふ、来たとしても返り討ちにすれば良いがな」
そんな元も子もない……。
むしろその展開を望んでいるんだろうけどさ。
ほら、敵の大群を強行突破とか燃える展開だしな。
「ヌマァ」
ペロッとクマールが満足したとばかりに舌で口元を舐めている。
「じゃあクマール、お前の荷物に今手に入れた蜜蠟と蜂蜜を入れるぞ。しっかりと守るように」
「ヌマ！」
まだまだある！ っとばかりにクマールが目をキラキラさせながら背負わせたポーチに蜜蠟と蜂蜜を入れる。
「ヌマ」
ギュッとポーチを抱擁したクマールはそのままポーチを大事そうに背負った。
「さあ出発だー」
「ふふ、手際の良い事だな。ジャングルビーの蜜は良い値段で取引される。クマールからするとすごい贅沢品だな。取ったら怒りそうだ」
「市場じゃそこそこ良い値で売れるのは間違いない」
甘い物だし、ジャングルビーの蜜は味も品質も良いからな。
もっと上位の蜂蜜もあるけど手頃で美味しいのはこの辺りだ。
というか意味も無くクマールを怒らせてどうするんだ。クマールが可哀そうだろう。
ともかく、クマールがすごくやる気を見せているので、このテンションで来てもらおう。
荷物持ちとしては心許ないけど俺達の癒やしになっているんだし。
「ヌマ！」
こうして俺達は蜂蜜を手に入れて進んで行った。
