81 初々しいクマール
なんだかんだ腕に覚えのある俺達は前回潜った33階までの道中を特に躓く事無く進んで行く。
この迷宮という場所は定期的に形を変える厄介な性質を持つのだけど、幸い今回は次の階層へ行く所に大きく変わっている場所は無い。
浅い階層だと他の冒険者達と出会う事はあるが、それも徐々に減っていくだろう。
賑わいを見せるのは6階層くらいまでだ。
新米冒険者に始まり、燻っている冒険者とかもこの辺りまでで日銭を稼いでいる者が多い。
ただ、不測の事態が起こるとあっけなく死んだりするんだけどな。
7階からは初心者を抜けた冒険者が潜り始める所だ。
1階1階、階層が進む度に魔物や迷宮の罠が凶悪になっていき、身の程知らずの冒険者は命を散らす事になる。
「ヌマ……」
クマールが迷宮内に漂う魔物の気配を把握して怯えながら俺達に付いてくる。
現在の階層は12階。
まだ俺だけでも戦える階層だ。
ここまで来ると一癖ある魔物が姿を現すんだけど俺の把握でしっかりと居場所を確認出来る。
「大丈夫だから安心しろ」
怯えるクマールを撫でて宥める。
「ヌマー……」
俺が撫でるとクマールはホッとしたような顔をした。
そりゃあ怖いよな……見習いを卒業した直後に熟練パーティーに所属して迷宮のこんな階層にいきなり来たら俺も緊張してしまっていたはずだ。
「あ、ルナス、この先に魔物がいる。遭遇まで3分って所でドゥームリザード三体、パラライズバタフライも一緒にいる」
ドゥームリザードはトカゲ型の魔物で背中からタコの腕みたいなモノを生やしているのが特徴だ。
パラライズバタフライは文字通り麻痺の鱗粉を周囲にばらまく中型の……虫嫌いの人からしたら鳥肌を立てる蛾の魔物だ。
「ふむ……まだまだぬるいな」
ルナスはつまらなそうに呟く。
勇者の怒りを使うまでも無い魔物だから面白く無いのだろう。
さすがに俺もこの程度で死んだフリを使うのはどうかと思う。
階層的にも万が一がありそうだしな。
「あまり侮ると足を掬われるぞ」
「かといってリエル、不確定要素があるのか? 奇妙な罠があるとか……この階層で君の把握を騙せるような事があるのかと問いたい」
まあ……確かにこの辺りは俺達からすると目を閉じても進めるくらい大した事無い階層だけどな。
罠も無い訳じゃないけど俺の把握でしっかりと確認出来る程度の自然生成の代物だし。
妙な犯罪者とか居たら警戒する範囲だけど、その気配も無い。
「特に無いけど……」
「ならささっと仕留めて進もうではないか。道はまだまだ続くのだ」




